教師を僕(しもべ)にしていた。

白兎

第1話

 教師をしもべにしていた。


 今となっては、笑い話だが。


 私は農業高校に通っていた。農業がやりたかったのではなく、その学校が公立高校であり、自宅から自転車で五分の近さ。そして何より、座学よりも実習の方が多い。私は生活科学科というクラスで入学。何をするのかというと、要は家庭科である。調理と被服。それに普通の教科の授業もあり、農業もある。


 実習はどれも楽しかった。普通の教科は、寝ているか、こっそり本を読んでいた。だが、高校生は教師に叱られない。笑顔で本はしまってね。と言われるだけだ。


 農業の実習は、畑を耕し小石を除けて、牛糞と肥料を混ぜて畝を作る。土いじりである。最初に作ったのは西瓜だ。大きく育ったものを家に持って帰れる。


 ハウスではメロンを栽培。これが、なんか面倒だった。毎朝、受粉して、日付を書いたタグをつける。


 だが、私にはしもべがいた。男性教師で、たぶん、その頃、三十代半ばだろう。


「毎朝、受粉は面倒だから、やっておいてよ」

 と私が言うと、

「うん、分かったよ」

 とニコニコして言う。


 信用していないわけじゃないが、受粉したか確認に行く。

「やっといてくれた?」

 と私が聞くと、

「うん、やっといたよ!」

 とニコニコして言う。

「ありがとう!」

 私の笑顔が、しもべへのご褒美だ。


 しもべは私のいる教室によく来る。私は笑顔で言う。

「今度、友達と二人で映画を見に行きたいんだ~」

「何を見たいの?」

 としもべが聞く。

 私は見たい映画のタイトルを言う。

「分かったよ!」

 としもべは笑顔で言う。


 後日、映画のチケットを二枚持って来て、

「もってきたよ~」

 としもべはニコニコして言う。

「ありがとう!」

 私もとびきりの笑顔で礼を言う。これはしもべへの報酬だ。

 しもべも嬉しそうにする。


 こうして、いつも、映画のチケットはしもべが持って来る。


 だが、それが他の教師にばれてしまった。

「だめだって、言われちゃったから、もう映画のチケット持って来れなくなっちゃった」

 としもべが、済まなそうに言う。

「いいよ」

 と私は笑顔で言う。ちぇ、と心の中で思う。


 高校を卒業するまで、しもべは私のお願いには、素直に従った。


 いい奴だった。


 大人になって振り返ると、私は随分と傲慢だった。

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教師を僕(しもべ)にしていた。 白兎 @hakuto-i

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