第3話
大通りを離れひと気のない路地に逸れる。
裏道から裏道へと黙々と進んでいった。
恭介は黙って出鱈目の後をついていく。
いったい出鱈目さんは何処に向かっているのだろうかと恭介は疑問を抱きつつも、後をついて歩いていく。
しかし、歩き始めてからどれくらいの時間が経っただろうか。
結構な時間歩いているように感じる。
恭介はふと見あげた景色に違和感を覚えた。
(これは・・・さっきも見たような気がする)
一度疑念が湧いてしまった頭の中はその事に支配されていく。
必要以上に確認作業が増えていった。
やがて確信に変わっていく。
(・・・間違いない、さっき通った道だ)
恭介は少し歩くスピードを上げ、出鱈目に一声掛けようと横顔を見て思わず驚いた。
(ま、迷子の顔!)
焦りと不安が入り混じって懸命に何かを探す顔。
迷路から出られなくなったおじいちゃんが闇雲に歩き回り、ますます深みに嵌まっていく姿が恭介の頭に浮かんだ。
一刻も早く止めなきゃと出鱈目に声を掛けようとしたその時、まるで逃げるように出鱈目は歩くスピードをあげた。
「ちょっ!」
一瞬驚いた恭介も負けずに追いかける。
グルグルと裏道を早歩きで追いかけっこをしていると男性が目の前に現れた。
汗だくになりながらも意地でも迷子を認めたくない出鱈目は助かったと安堵し、道を聞こうと声を掛けた。
「ちょっといいですか?」
すると男はビクッ!と体を震わせ固まってしまった。
男の顔を覗き込んだ出鱈目は鋭い眼光で静かに言った。
「間違いないな?」
驚きの表情だった男はやがて涙ぐみながら震える声で言った。
「私がやりました」
ピキ――――――ン!
凍ったバナナで釘を打つコマーシャルくらいの衝撃で恭介も凍った。
(・・・えっ?!)
(道に迷って声を掛けた男性が容疑者?何の?)
出鱈目は畳みかける。
「お前がやったんだな」
男は涙を流しながら何度も頷く。
「はい。すいません、すいません・・・」
出鱈目は恭介に伝える。
「こいつは今回の事件の犯人だ。ずっと追っていたんだ」
ピキ――――――ン!
ピキ――――――ン!
ド――――――ン!
軒下のでっかい氷柱を綺麗に取ろうとしていたら、突然、屋根の雪が雪崩のように轟音をたてて落ちてきて、死にかけた小学生の頃の思い出くらいの衝撃だった。
(・・・えっ?!)
(いや、何この展開?こんなことってあるの?ご飯食べて酒飲んで、サウナ入って迷子になってたら容疑者発見?!いや、ずっと追っていたって・・・まじで?!そんな馬鹿なことってあるの?捜査って何?もう頭おかしくなりそう)
出鱈目は恭介を潤んだ瞳で見つめ一つうなずくと言った。
「お前さんの手柄だ。手錠をかけてやってくれ」
(・・・えっ?!)
(手柄って・・・何?どういうこと?いや、もう考えたくない)
思考を緊急停止し、自分を守ることに専念する。
恭介の鉄壁の守りの壁をよじ登ってきて、出鱈目パイセンがまっすぐな笑顔で畳みかける。
「よくやったぞ。俺が見込んだ通りだ。やっぱりお前は刑事に向いている」
恭介は寒いのか頭がおかしくなったのか、得体のしれない感覚に襲われ今にも全身が震えだしそうだった。
(あわわわ・・・)
何とか頭を働かせ、ぎこちない動きのまま手錠をかけた。
応援のパトカーに容疑者を乗せると出鱈目は一息吐いて恭介に言った。
「こっちだ」
デタラメ刑事 遠藤 @endoTomorrow
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