第2話
着いたのはサウナだった。
恭介は、ここに犯人に繋がる情報があるのかと思い、気持ちを入れ替えた。
手帳を出す準備をしていたが、出鱈目は普通の客を装うかのように当たり前に受付をしている。
自分もそれに合わせ普通の客を装う。
受付を済ませ、ロッカーの鍵を持ってロッカー室に入ると、一心不乱に洋服を脱いで、浴場内に入った。
まっすぐ湯舟に向かい、桶で湯を体にかける。
恭介もそれに倣い自分の体に湯をかけた。
出鱈目は鋭い眼光で辺りを見渡すと、そこだと言わんばかりにサウナ室に向かっていく。
サウナ室の扉の前で立ち止まり恭介に目で合図を送る。
出鱈目は一つうなずくと扉を開けて入った。
恭介は否応なしに緊張が走る。
まさか容疑者でもいるのかと思い鼓動が早くなる。
室内には数人の男が熱さに耐えていた。
出鱈目はまっすぐ上段を目指した。
恭介もついていく。
もの凄い熱さが恭介の肌を刺す。
恭介はサウナが苦手だった。
何度か友達とチャレンジしたことがあったが、この閉塞的空間もさることながら、耐えがたいほどの熱さの中で、ジッとしているのが自分には合わなかった。
気づけば出鱈目は目を瞑り、腕組みをしながらジッと耐えている。
さっそく肌から汗がにじみ出た。
恭介も頑張って耐えながらも、ここにいる数人の男に意識を向けていた。
この中にいる誰かが、今回の事件の犯人に繋がるのかもしれない。
決して逃さないよう意識を保ち続けた。
しかし熱い。
ものすごい熱さだ。
その時、前列の男がひしゃくでバケツの水を焼けた石にかけた。
(ジュー)という音とともに大量の水蒸気が発生した。
熱さがさらに加速していく。
恭介は心の中で余計な事するなとつぶやいた。
不快指数が鰻登りで、ここから一刻も早く出たくてしょうがなかった。
横の出鱈目は汗を噴き出しながらジッと耐えている。
恭介は、意味のわからない男たちの我慢大会が始まっていることに今さらながら気が付いた。
我々は遅く入ってきた分上段で下より不利な条件で戦っていた。
しかしいくら下段に居るといってもいつからいたのかわからない。
見下ろせば、下段の男たちの背中には汗が乾いているものもいる。
この男は、もうここから出ないと干からびてしまうのではないかと恭介は心配になった。
人の心配などしている場合ではないと恭介は我に返る。
意識が飛びかねないほどの熱さだ。
横の出鱈目も先ほどと比べ物にならないほどに表情が変わっており、明らかに限界に近づいているような顔で耐えていた。
その時、またしても嫌がらせのように前列の男が焼けた石に水をかけた。
(ばかやろうーーー!!)と恭介は心の中で叫ぶと同時に、出鱈目が限界に達し、サウナ室を飛び出した。
恭介は助かったと思い後に続く。
出鱈目はまっすぐ水風呂を目指して飛び込んだ。
恭介は水風呂が苦手だったがそんなこと言ってられないほど体が燃えるように熱く、続いて水風呂に入った。
一気に熱が冷めていくと同時に力も抜けていく。
(助かった)
恭介はその言葉以外浮かんでこなかった。
そんなピンチを乗り越え恍惚の表情を浮かべる恭介に出鱈目は声をかけた。
「それで、今日は何の用だ?」
ピキ――――――ン!
またしても、二人の間の空間が凍り付き、恭介の時間が止まる。
(・・・えっ?!)
あまりの衝撃に、恭介は言葉を失うのと同時に自分さえ見失った。
(何の用だ?って・・・そう言えば自分は何しにここにきたのだろうか・・・)
脳みそがとろけてしまいそうな中、静かに自分を取り戻し、やっとの思いで言葉を絞り出した。
「いや、出鱈目さんがこっちだと言って一緒にここに・・・」
「えっ?!」
またしても出鱈目が驚く。
「・・・そっか。俺がここに連れてきたのか・・・」
すっかり整ってしまった今の出鱈目には、そんな事などどうでもよく、それよりもこの魂が抜けていくような感覚を少しでも長く味わっていたくてしかたがなかった。
水風呂を出て休んだ後すっかり満足した出鱈目はサウナを出た。
サウナを出るとまたしても「こっちだ」と言って出鱈目は歩き出した。
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