デタラメ刑事
遠藤
第1話
「こっちだ」
事件現場から離れ、路地から路地を抜けていく。
新人刑事の佐々木恭介は指導官である出鱈目和夫の後ろをついて歩いた。
やがてついたのは町の中華料理店だった。
出鱈目は暖簾をくぐるとテーブル席についた。
恭介は戸惑いながらも席につく。
出鱈目は鋭い眼光で壁のメニューを確認し、テーブル上の小さなメニューもサラっと見る。
恭介も刑事としての習慣なのか出鱈目に続き目で追う。
出鱈目は水を持ってきた店員にすかさず言った。
「A定食と瓶ビール一つ」
恭介に向かいどうする?と目で合図する。
恭介は特に食べたくはなかったが、お店に入ってしまった以上しかたがないと思い「チャーハンで」と店員に告げた。
すぐに瓶ビールとコップ2つが運ばれてきて、出鱈目は自分のコップにビールを注ぐと、恭介にも飲むかと動作で確認する。
恭介はすかさず手で制して断る。
出鱈目はコップのビールを飲み干すと一呼吸おいて恭介に言った。
「で、大事な話ってなんだ?」
ピキ――――――ン!
二人の間の空間が凍り付き、恭介の時間が止まる。
(・・・えっ?!)
恭介はまったくもって意味がわからなかった。
質問の意味が瞬時に理解できない。
(話?自分が出鱈目さんに?そんなこと、いつ伝えたのか?)
何度も頭の中を駆け巡ってその事実を探す。
しかし、そんな事実はまったくもってみつからない。
「そのような事は言っていませんが・・・」
「えっ?!」
今度は出鱈目が驚く。
しかしすぐに我を取り戻し、苦笑いを浮かべた。
「参ったな。何か深刻な相談かと思って、思わずお店に入ってビールまで頼んでしまった」
そう言うと出鱈目は瓶に残ったビールを自分のコップに注いだ。
やがて運ばれてきた定食とチャーハンを二人は黙って食べた。
それぞれのお会計を済ませ店を出た。
店を出ると出鱈目は辺りを見渡し、またしても「こっちだ」と言って歩き出した。
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