【KAC20241】愛の(喧嘩中)ヒーロー
あばら🦴
愛の(喧嘩中)ヒーロー
ヒーローには三分以内にやらなければならないことがあった。退治する悪の組織の幹部、イャーナヤトゥを倒さなければならないのだ。
しかし、ヒーローへと変身できる時間は三分。まだ変身していない青年は市街地の中、幹部に向かって、緊張しながら叫んだ。
「変身!」
彼は光に包まれ。その光が明けた時、青年の姿は皆が頼れる愛のヒーローのものとなった!
幹部は眉をしかめる。
「出たなっ! いつもいつも、我らが崇高なる世界征服を邪魔しおって!」
「何が崇高だ。暴れてるだけじゃねーか」
「ケケケ、お前にこの素晴らしさはわかるまい」
「無駄話をする時間なんて無い。手早く終わらせてや―――ん?」
その時、ヒーローのズボンポケットに入っていた携帯が音楽を鳴らした。
(この着信音は、梨沙! 今かよ!? でも出ないとまずい!)
ヒーローは慌ててコスチュームの隙間からスマホを取り出して通話ボタンを押した。
幹部はヒーローの急な慌てぶりに戸惑う。
「キサマ! 何を企んでやが―――」
「頼む! 今は静かにしてくれ!」
「えぇ……」
(なんとかして三分以内に話を終わらせないと!)
ヒーローはスマホに向かって話した。
「もしもし、梨沙。今はちょっとその、マズいんだよ」
『またそれ……。私の事どうでもいいの? いつもいつもそう言ってさ。私から離れてくみたい。私の事嫌いなんでしょ?』
「違うんだよ! 本当に……! どうしても僕がいなきゃダメで、手が離せないんだよ」
『覚えてる? 今日、なんの日か』
「今日? それは……えっと……」
『付き合って二周年記念日だよっ!』
感情を顕にした梨沙にたじろぐヒーロー。
幹部は不気味に笑った。
「ケケケ。愛のヒーローともあろう方が、付き合った記念日を忘れるなんてなァ。それキサマが思ってる以上に彼女さんは傷ついてるぞ」
「ちょっと! うるさい!」
『ねぇ、今誰と話したの?』
「あっ……」
ヒーローは言い訳を頭の中で探った。ヒーローというのは彼女には秘密にしているのだ。
彼の努力も虚しく、言い訳を考える前に梨沙は問い質した。
『まさか、浮気なの!?』
「違う! 違う違う違う!」
『最近さ、出かけることとか、会えないことが増えてきてさ、そういうことだったのね!?』
「違うんだよ! 会えなくなったのは僕の仕事が増えたからなんだよ!」
『嘘だもん! 絶対に浮気してる! だって最近素っ気ないし! そこに浮気相手いるんでしょ!?』
「まさか! そんなやつじゃないって」
『嘘! 嘘じゃなかったら、なんで会ってくれないのよ!』
「それは……言えないけど……」
『じゃあやっぱり浮気だ!』
「だから違うって……!」
憔悴するヒーローを幹部は嘲笑った。
「ケケケ。愛のヒーローのくせに恋愛下手だなァ。正面から意見のぶつかり合いはダメだぞ。まず相手の話を聞いて、受け止めるところからじゃないと」
「なんだお前! 分かった風なこと言って!」
「ほらそういうところ。事情はともかく、キサマが彼女さんをほっといて寂しい想いをだせたのは事実なんだから、まずはゴメンナサイだろ?」
「……そうか」
ヒーローはまたスマホに話した。
彼女はまだ問い詰めている。
『また何か話してたよね!? なんなの? やっぱり私と別れたいんだ!』
ヒーローが一旦落ち着いて意識を集中させると、梨沙の声にはものすごく強い寂しさと悲しさがあることが伺えた。
ヒーローは本心から言う。
「悪かった。全部僕が悪いよ」
『なに? 急に……』
「梨沙をほったらかしにしてずっと寂しい気持ちにさせたね。付き合った記念日を覚えてるくらい僕のことを大事に想ってくれてたのに」
『……』
「本当にごめん。今やってることが終わったら、すぐにそっちに向かうよ。約束する。あと浮気なんてしてないから。僕の好きな人は梨沙だけだよ」
『……分かった。絶対きて。絶対だよ』
するとそこで彼女の方から通話が途絶えた。
ヒーローが時間を見る。どうやら通話に二分四十五秒使ったため、変身形態はあと十五秒しかなかった。
幹部は笑った。
「ケケケ、良かったなァ」
「うん。お前のおかげ……だな。ありがとう」
「まァ、その、見てらんなかったからな。ケケケ。……だがな! キサマが生きて彼女さんと会える未来は訪れないぞ!」
幹部は武器を持ち直した。
「さァ! かかってこ―――」
その時、亜音速で走ってきたヒーローに幹部の腹がグーで殴られた。
「グヘェッ!」
気絶してその場にぶっ倒れた幹部。
ヒーローは残り時間を見る。残り二分五十七秒。
「危ない! 間に合った! 早く梨沙のところに行かないと!」
青年の姿へと戻ったヒーローは、全速力で梨沙の元へと向かった。
【KAC20241】愛の(喧嘩中)ヒーロー あばら🦴 @boroborou
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