【KAC20241】 改造人間のなげき

🔨大木 げん

第1話 改造人間の嘆き

 俺には三分以内にやらなければならないことがあった。


 それをおこたると、人間としての尊厳が死ぬ。  


 いや、年を取ってからならば、ゆるされるのだろう。

 仕方が無いで済むのだろう。


 赤子あかごであれば無条件でゆるされる。

 当たり前の事だ。


 しかし、俺はまだアラフォーだ。


 他の誰かが許してくれても、もしそうなったら俺は自分で自分が許せないだろう。


 皆には秘密にしていたが、実は俺は改造人間なのだ。

 

 とある怪人との戦いによって負傷した箇所を、改造手術をする事によって生きながらえているのだ。


 だが改造手術を受けた事によって、致命的な欠陥が生じてしまった。


 通常ならば○型の形状をしているのだが、♡型に、つまりいびつな形になった為に、いざという時に留める事が全くできなくなってしまったのだ。


 しかし奴ら便意はなんの予兆も無く突然やってくる。しかもその勢いは強烈だ。


 全てを破壊しながら突き進むバッファローの群れの如く、猛烈な勢いで俺の腸を突き進む。


 奴ら便意の気配を感じたら3分以内にトイレに駆け込まなければ、どんなに自分で引き締めていたとしても・・・もれてしまうのだ。


 自慢じゃないが、若かりし頃に走り込まされ、今も肉体労働をしている事もあって、俺のプリケツはかなりのものなんだぜ?


 手術後の最後の検査でのケツ圧測定(おしりをキュッとしめる力)でも褒められたくらいだしな。


 だがそれでもだめなんだ。


 俺は尊厳との戦いに敗北した。


 ある日家に居るというのに、間に合わなかった俺がなげかなしんでいると、妻が言った。


「心配しなくても大丈夫だよ。年取ったら私が介護してあげるから。ま、オムツは付けてもらうけどね〜」


 しもの処理までやってあげるという、その優しい一言に・・・俺は泣いてしまった。  


 俺の名前は大木げん。おしりも涙腺もゆるい憐れな改造人間ぢろう手術済みの男さ。


 今日も、おのれの尊厳を守るため、怪人悪玉腸内細菌と必死になって戦っている。


 そんな俺の朝のトイレタイムは長い。一粒残らず出し尽くさねば、外出は怖いのだ。


 


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