青色な僕ら
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青色な僕ら
普段はアラーム音に起こされるのだが、早朝5時に微睡みから覚醒していく。いつ眠りについたかすら記憶に残ってはいなかった。目覚めは未だ曖昧で、何もかもが心許ない夢の延長線にいるような気もした。ほんの少し窓を開ける。ぼんやりと辺りはまだ暗い。リビングに足を運び、まるでそうすることが当然かのように一枚のパンを焦がす。普段とは違う感覚に弄ばれ、普段は塗らないピーナッツバターを満遍なく。何がそうさせるのか、徐々に輪郭をはっきりさせながら、ふと思う。
『今日で高校卒業か』と。
早起きをした為、学校に向かうまで少しばかり時間に余裕がある。その僅かな時間で何かを綴ろうと思う。高校3年間の思い出と言ってしまえばそれまでだが、僕の見聞して、感じて、笑って、傷付いて、泣いて、胸を動かされた全て。そのほんの一節。
あくびをマスクで隠した入学式
やたら待ち時間の長い学校前の信号機
班の人の名前も曖昧なまま行った地域の観光地巡り
やる事もなく友達に誘われて入った演劇部
友達の部活終わりを待つ、日の落ちた校舎の隅
情報の著作権の授業中に漫画rawを見てた友達
とにかく変わりたくて力を奮った11月進研模試
36枚取って優勝した校内の百人一首大会
いつか片想いだった、あの子と隣の新学期
あどけない後輩4人が横に並んだあの部室
何故だか溢れた涙を必死に隠した一限の物理
今日で死ぬのだと、強く想った海の日
豆腐メンタルを焼きマシュマロに例えるあの人との出逢い
新しい居場所をくれたチーム、Always
脚本、舞台監督を任された文化祭のクラス劇
教室に大量の水を放ったワックス掛け
進路の悩みを打ち明けて流した涙を受け止めてくれた恩師
学校をサボって通った映画館
俺に居場所をくれた、大好きな後輩
雨の日の校舎、後ろから抱きしめた小さな背中
月明かりに照らされながら職質された深夜徘徊
全てが嫌になって1週間まるまる休んだ文化祭
蜘蛛の巣と、赤い自転車のある駐輪場の角
あの夏、救ってくれた人たちのアンソロジー
下見で迷子になって16km歩いた共通テスト前日
勉強しまくった有機化学で出題された樹脂
そして今日、これから向かう卒業式。
時計の針は今も刻々と動いている。きっとこの先もずっとそうなのだろう。
そろそろ行かなきゃ。
もう結び方に困る事のないネクタイを結び、着尽くされたブレザーを纏う。
わずかに開いた窓の先に覗く青色が、どことなく寂しそうに心の中へと入ってくる。
途端にこんなことを思う。“ありがとう”、“おめでとう”のような温かい言葉、感情は温もりのある暖色を思い浮かぶ人が大半だが、僕にとってはそれらは青色なのだと。
青色は何処か温かい。弱いまま強くあろうとする人もきっと青色なのだろう。それに気付いた僕はなんだか少し照れくさくなった。
青色のアイコン、青色の空、青色の感情、青色の3年間、青色の未来……
そして青色な僕は、こう呟く。
『いってきます』
青色な僕ら notitle @suble
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