7-4

伶龍の顕現で現場は混乱を極め、刀受領の儀は中断。

伶華に鍵をどうしたのか問い詰めたところ、私の部屋に忍び込んで持ち出したと判明した。


「だって、どーしてもあれがいいと思ったんだもん」


伶華はふて腐れているが、なにか通じるものがあったのかもしれない。

だからあんなに私が問いかけてもダメだったのに、伶龍は再び顕現した。


伶華の刀は選び直しになった。

実の父親と契らせるわけにはいかない。


「伶龍がよかったのに……」


新しい刀は最近のアイドルっぽいイケメンだったが、それでも伶華は不満げだ。

もしかして、親子共々男の趣味が似ているのか?

「わるいな、俺は翠以外の巫女のものになる気はないからな」


見せつけるように伶龍が口付けしてくる。

再び顕現してからというもの、彼は私にべったりだ。

それに雪永が妬いているかといえば。


「翠様と伶龍様とのあいだに、私など入る隙などございませんので」


などとなぜか、達観していた。




――うおおおぉぉぉぉーん。


遠く、穢れの唸り声が響いてくる。


「きた、きたぞ!」


今にも飛び出していきそうな伶龍の、襟首を捕まえた。


「私たちは控え。

ここは伶華の戦場だってば。

第一、短刀の伶龍じゃ核を切るのが大変でしょ」


「うっ」


声を詰まらせ、伶龍がおとなしくなる。


「だってよ……」


「じゃあ伶華、頼んだよ」


「いってきます!」


項垂れた伶龍とは反対に、元気よく伶華が刀とともに飛び出していく。


「私たちはこれから、娘の成長を見守るのが仕事だよ。

それでさ」


一度言葉を切り、持ってきていたマフラーを彼に巻いた。

あのとき、クリスマスプレゼントに用意していたものだ。


「任せられるようになったら、約束どおり海外旅行に行こう?」


「そうだな」


機嫌がよくなったのか、伶龍がにやっと笑う。


「雪永!

雪永は一緒なのか?」


「あー」


これは、どう答えるのが正解なのだろう?

雪永ひとり置いていくとか言えないし……。


ちらっと雪永をうかがったら、はぁっと呆れるようにため息を落とされた。


「おふたりで行ってきてください。

私は馬に蹴られたくないですからね」


「やった!

翠とふたりで海外だ!」


伶龍は大喜びでつい、笑ってしまう。

これからはずっと一緒だよ。

私の命が尽きる、そのときまで――。



【終】

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神祇地祇~穢れ、祓います!~ 霧内杳@めがじょ @kiriuti-haruka

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