時間

玄栖佳純

第1話

 なつみ(虎之助)には三分以内にやらなければならないことがあった。はじめはもっと時間があったはずである。でも気づけばあと三分になっていた。

 どうしてもっと早くできなかったのだろう。


 なつみ(虎之助)がそう思っても後の祭りである。何がいけなかったのかを考えるまでもない。始めるのが遅すぎた。やりたくなかったわけではない。とてもやりたかった。


 でも彼女(彼)にはできなかった。

 時間を引き延ばしすぎた。まだ時間はある。そう思ってしまったのがいけなかった。そうこうしているうちに一分経ってしまった。


 あと二分。

 どうしよう。どうしたらいい?


 なつみ(虎之助)にはわからなかった。彼女(彼)にはゆっくり考えている時間がもうなかった。あたふたしているうちに時間は直ぐに過ぎてしまう。


 カップラーメンを待っている時の三分は長く感じる。硬い麵が嫌だから三分待ちたいのに待てずに違う用事をしてしまい、戻ってくる頃には麵が伸びてしまっている。伸びたカップラーメンは汁がなくなっている。ハイカロリーな汁が全て麺に吸われている。これも悪くはないのだが、やはりはじめは少しくたっとしているけれどほどよい芯のある麺が食べたい。柔らかくなりすぎた麺も悪くはないが別の料理である。またパリパリいうスナック菓子も悪くはないが、ラーメンにそれを求めたくない。

 なつみ(虎之助)はグルメなわけではない。でもそこそこ美味しい物が食べたかった。


 また一分経った。

 最後の一分。秒で表すと六十秒。


 時間というのは不思議な数である。六十秒が一分。六十分が一時間。六十がひとつのまとまりなのかと思っていると、二十四時間が一日。365と四分の一で1年。

 地球が自転する時間と地球が太陽の周りを一周する時間に当たるのだが、どうしてそう決めたのか。


 十、九、八、七、六、五、四、三、二、一、ゼロ。

 三分経った。


 なつみ(虎之助)はできなかった。彼女(彼)は緊張の糸が切れたかのように肩を落とす。しかしそれは、何かから解放されたかのようにも見えた。


 三分でなつみ(虎之助)は何もできなかった。

 それでも時間は進んでいる。


 なつみ(虎之介)がやろうともやらなくとも。彼女(彼)が三分と思っていた三分は、常に流れている時間の中の特別でも何でもない三分だった。


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時間 玄栖佳純 @casumi_cross

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