三分運命 【KAC20241】
たっきゅん
プロローグ(完)
オレには三分以内にやらなければならないことがあった。
「この能力を使うのもこれが最後か……」
オレの〝
「っと、早くしねーと時間なくなるわ!」
一生のうちに3回という回数制限以外の制約は付いておらず、どんな用途でも使用可能なのだが……。子どもの頃にしょうもないことで既に二回使用しており残数1回となっていた。
「間に合ってくれよ! おやじ!!!」
オレはこの能力を得た意味を先ほど見出した。それはオヤジを救うことで、この三分という戻れる時間制約のせいで三分間で何ができると何度思ったことか。
「ちょっと! どいてくれ! 通してくれっ!!!」
人垣を掻き分けてオレは進む。焦る気持ちで赤信号を無視して横断歩道をわた―――ろうとして踏み止まる。そして、同じように信号無視で渡ろうとしていた女性の手を慌てて引いた。
「……ちょっと。手を離してくれません?」
「すまん。―――あまりにも貴女が美しかったもので」
心にもない言葉、とまではいかないまでも綺麗な女性の手をいきなり掴んでしまった。だが、オレの直観……というよりは記憶は正しかったようで直後にトラックが空間を捻じ曲げて突っ込んで来た。
ッブ、ッブーーーーーーー!!!!
「え? ……トラック?」
それは異世界転生への迎えの車。魂を乗せて次元を超えるトラックはこの女性を轢いて異世界へと連れ去る気だったのだろう。
「それじゃっ! オレはこれで!」
あの時、確かに彼女はそこにいた。いたはずなのに見えないトラックのクラクションが鳴り響いて彼女は消えたのだ。異世界転生したとしか思えなかった。
「オヤジのついでだけど、無事でよかったぜ」
残り1分、オヤジの姿が見えた。―――そして、オヤジを殺した背後の死神を見据え、オレが力の限り叫んだ。
「おやじぃいいいいいいいいいいいいいい!!!」
死神はヘルメットをかぶった工事現場の猫。クレーンに吊るされているロープの点検をしながら「よしっ!」と言っているように見えるその猫は30秒後に悲劇を引き起こす。
「ロープが切れるっ! 早くはなれろぉおおおおお!!!」
オレの叫び声を聞いたオヤジは何本もの鉄柱がクレーンによって持ち上がっていく様子を眺め、……猫が飛び乗った体重でロープが切れた。
「くそっ!!!」
間に合わなかった……。伝わらなかった……。救えなかった……。オヤジの最後の瞬間に顔を見せられただけでもオレはこの能力を使って良かったと……。
「思えるわけねぇだろうがぁあああああああああ!!!」
全力で地面を蹴って一秒でも、いや刹那よりも早くオヤジの元へたどり着けるように駆け出した。周りがスローに見える。時間が引き延ばされている感覚を覚えた。……そして、時間には逆らえずにゆっくりにしか動かないオレの体に苛立ちも覚えた。
「ちくしょぉーーーーー!!!」
全てが無駄になる。その直前、間に合った。―――誰が? ―――オレではない救いの手がだ。
「光雷剣ッ! はぁあああああ!!!」
ドーーーーーンッ!
晴天の空なのに、その空の向こうから何かが光った。そう認識した時には爆音と共に激しい光が一面を覆い、落下していた鉄柱が全て消え去っていた。
「お礼くらい言わせなさいよ。この馬鹿っ!」
そこにはさきほど助けた女性が何か凄そうな剣を手にして立っていた。
「―――ありがとう! 本当にありがとう!!!」
「は? お礼を言うのは私の方なんだけど……」
どうやら彼女は異世界との次元が繋がった際に眠れる力とその剣が覚醒したらしい。そして、あの猫も異世界からの侵略者でオヤジも転生させられそうになっていたそうだ。
「ねぇ、私と一緒に運命を変えていきましょうよ」
「……は?」
もう話に付いていけない。彼女の〝鑑定〟の力によってオレは運命を変えるカギだということが分かった。いや、正確には結果的に二人の異世界転生予定者の運命を捻じ曲げたせいでカギとなっただろうか……。
「まぁ、何だ……。べっぴんさんじゃねーか。――――頑張れよ」
「何をだよ。クソおやじ」
オレたちの異世界転生という殺人・拉致を防ぐ物語はこれから始まる。
― 完 ―
三分運命 【KAC20241】 たっきゅん @takkyun
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