戦闘記録7 ヤクザと薬屋

とある寂れた大通りに面した店中に一人のスーツを着た大男が入ってくる。


「久しぶりだね。店主さん」

「あんたは……」


 品物を片付けていた薬剤師のような恰好をした店主が手を止め、大男を見やる。身長が三メートルに届きそうな男は、巨人族の成人だという事が分かる上、以前どこかで会ったことがあるのかそう言う雰囲気が漂っていた。


「随分とそろってるね。私にも一つ分けてくれないか?」

「いや、それはちょっと……」


 温和に見える大男だが、その口から出る言葉はそうは思えないものだ。


「いいじゃないか。なぁ結構儲けたんだろ?うちの島でさ」

「……」


 棚に並ぶ商品、怪しげな薬の数々を見渡しながらそう言う大男。それを横目で見ながら目を逸らす店長は、


「それで困ってる訳よ。前にも言ったけどさ。それで止める気がないってことは、そう言う事なんだろ?」

「ああ、勿論!」


 いつの間にか手に取っていた瓶を投げつけ、大男がそれを掴む。その瞬間に瓶から煙が噴き出て、激しい光と高熱を発しながら大爆発を起こした。



「私たちにケンカ売ったんだ!ケジメは着けてもらう!」

「知らねぇな!好きなもん売買して何が悪いんだっつうの!」


 外へと飛び退いていた大男を追って出てきた店長は、空の注射器を大男に投げつける。それを撃ち払った時には、血走った目で源光刀と言う刃の部分がエネルギーで出来た武器を踏み込んで突き出す寸前まで来ていた。


「あぶねぇからだ!」

「知るか!」


 体を横にズラして回避した後に、拳を振り落とす。それに即座に対応し、さらに踏み込み斬撃を拳にぶつけた。


「これだから!」

「はッ!こんなもんか!」


 中途半端にしか切れず刃が砕けたが、次の刃が生成され、その一撃は大男の首に向かって振り切られていた。


「ガハッ!?」


 だがそれよりも速く巨大化した拳が店長を穿つ。



「しぶといな。これは時間がかかりそうだ」

「そうかよぉ!」


 殴り飛ばされたが、どうにか着地し、追加の薬を投与する。それにより傷が治り、大幅に強化された身体能力で、瞬動を使った。


「デカいと融通が利かねぇだろ!」


 巨人族の力を使って大きさが倍ほどのなった大男の足に斬撃を打ち込む店長。だが大男の無動が勝り、ズボンの端が少し切れるだけに収まる。


「斬れちまったじゃねえか!」

「戦闘中に何言ってんだ!」


 店長に向けて蹴りを放つものの、素早く避けられ、反撃の連撃が残った片足に集中した。


「かってぇな!」

「知るか!」


 ボロボロになった刃を戻しながら、蹴りの攻撃を躱しつつ反撃を続ける店長。


「すばしっこいヤツだな」

「ッ!黙れよ!」


 だがそれをしばらく続けても目立ったダメージを与えられずに、戦術面でも少々厳しい戦いになっていた。


「ッ!?」

「おい、薬の副作用か?」


 そしてついに対応しきれなくなり、振られた腕に直撃し吹き飛ばされ、流れる景色を確認する暇なく、その途中に追いつかれ後ろから地面に叩き落とされる。



「ぐう……ゲホゲホッ」

「戦闘職ではないにしても情けない。攻防どころか受け流しも打ち消しも中途半端か。成人してるくせによ」


 ボロボロになり血を吐く店長は、


「ガキどもに売ってる薬だよな。そいつらはよ」


 摂取した薬により覇気が増し立ち上がろうとするところを、更に巨大化した足で踏みつぶされた。


「私も未熟だからな。狭いところだとあんま強くないんだがよ。ここなら十全に戦えそうだな。お前もそうだろ?」


 足に力を込めるが、それを上回る力で押し返される。そこで大男はワザと飛び出させ、その瞬間に追撃を加えた。


「流石にそこまで鈍ってないみたいだな」

「当たり前だッ!」


 紙一重で攻撃を受け躱し、高速で切り返しをしたが、これもまた躱される。


「面白い、単純に力が上がっただけじゃないみたいだな」

「オレの薬は最高なんだよ!」


 そう言葉を交わした次の瞬間、二人の姿が一瞬見えなくなり、打ち消しきれなかった衝撃波と共に、傷付いた両者が少し離れた場所に現れていた。


「効かねぇ、効かねぇな!」

「やっぱヤバい薬だな。それはよッ!」


 なにやらヤバい雰囲気を漂わせ、フラフラと酔拳のように向かってくる店長。それに対し地面を蹴って砂煙を起こし


「相応か!」

「ハハハッ!!」


 乱動でブレながら飛斬を連射する店長を踏み込んで蹴り飛ばそうとした。だが狙いがズレ、背後を取られる。


「チッ、後手に!」


 重々しくも素早い動きで体術を繰り出す。しかし機動力では店長の方が上だ。力も上がって反撃を防ぐのも少々厳しくなっているのも合わさると、嫌な流れであった。


「副作用は踏み倒してんだ!期待すんなよッ!」


 副作用を踏み倒し、それすらも利用し最高潮に達した身体能力は、大男に脅威を与える。


 そう、確かに脅威ではあるが――


「ッ!?図体がデカいくせにッ!!」

「だからだよ!くたばっとけ!」


 足を基本としている事には変わりないが、それだけではない。深く踏み込み足元の相手にも届くように手を伸ばしていた。しかもそれを崩そうにも次は腕を支柱にされ、まるで軽やかに踊るように戦うのだ。


「強化してんのに!これだから種族差ってのは!」

「泣き語と言ってんじゃねぇ!お前が弱いだけじゃ!」


 どちらもギリギリの攻防戦を繰り広げ続ける。無論一歩も引かず、空間が震え削られるほどの攻防だ。細かい動きどころか、大きな動きすら目に負えない事も珍しくない。それが何十分も、何時間も続く。



「はぁはぁ。なんだッ!?」

「どうしたよ!」


 そしてついに来た。店長の視界がグラつき、その隙に巨大な拳が全体重を込められ振り落とされる。それをどうにか避けようとするが、上手く行かず、片腕が消え 吹き飛ばされ地面を転がった。


「あ、ああ。なんだよ……失敗作かよ……」

「そうみたいだな」


 店長は体に力が入らず、刃を出すどころか立てないでいた。一応吹き飛ばされる際に、追撃防止のための乱飛斬を巻き散らしていたようだが、これでは意味がない。そして大男の足は止まらない。


「完璧だと思ったんだんだがな。あれは」

「薬を主役にするには少々粗末すぎたな」


 無理矢理呼吸を整えて、震える手で立ち上がろうとするが、それも敵わず焦点が合わない目で快晴の空をボーっと眺める。


「さぁ、言った通りだ。ケジメは着けさせてもらうぞ」

「残念だ……」


 そして動けない店長を、大男は止めを刺すのだった。


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