戦闘記録6 店長と店員


 遠く向こうに小さく街並みが見える草原で、二人の男女が向かい合いピリついた厳しい雰囲気の元睨み合っていた。


「どぉしたのぉ?いつにもまして。真面目そうじゃないのぉ~」

「朝っぱらから呼び出しやがって。まぁ、ちゃんと伝えようと思ってよ。あのことについてな」


 チャラチャラとした金髪の男は見た目にそぐらないほど真面目で、ヒラヒラが目立つ純白な綺麗な服装に身を包んだ、まさに美女のように見える高身長の女性はニタニタと笑いながらその言葉の続きを待つ。


「答えを聞かせてくれるのかしら?」

「ああ、すまんが付き合う気はない。諦めてくれ」


 それを聞いた女性は


「なんでぇ!?あんあに尽くしてるのに!」


 大げさに悲観層にする女性は、悲しそうに近づこうと足を進めるが

 

「これ以上やるなら店にはともかく俺にはあんまよくないんでな」

「だったらぁ!」


 男はサッとデザートイーグルのような銃を取り出し、素早く女性に発砲をしていた。その動きに相手は呆然として、脳天や首などを撃ち抜かれた衝撃で後ろにぶっ倒れる。



「気晴らしには付き合ってやるが、そういうのはやめてくれといつもいってるよな?」


 チャラ男は蒼い瞳で倒れた女性を睨みつけた。


 それに対し女性は


「イイワネェ~、そうこなくちゃね~!lこれで最後ならぁ!これが最後なら!ここで認めさせればワタシたちのものよねぇ~。きっとそうに違いないわ!」


 ゆっくりと起き上がりながら全身から触手を生やし始める。人のカタチは保っているが、なにかとんでもないものを体内に収納しているか、飼っているのかしてそうな雰囲気である。


「癖のある異形族かと思ってたが、表裏族のハーフか。道理で時より性格違うと思ったわ。めんどくせぇ~な」


 銃を構えながらそう呟くチャラ男。異形族とはそのままの意味で、基本人型だが異形の要素が濃い種族である。そして表裏族とは、人格が二つ以上ある種族の総称である。因みに今回は一般的な二つの人格の持ち主らしい。



「そう言わずにぃ~。ねぇ!」

「うっ!」


 女性が覇気と言うか衝撃を放出し地を蹴る。それは瞬動であり、フレームの瞬間を見逃さずに距離を詰めていた。だがチャラ男もすかさず銃撃を行っており、女性の腹や片足を吹き飛ばす。


「酷いじゃなぁ~い!」

「あっぶね!」


 それにより僅かに体勢を崩した空を斬るような攻撃を、チャラ男はギリギリで躱す。そのまま追加で胴体に数発撃ち込み距離を取っていた。


「再生能力ヤベェな。不滅族の血も混じってるのか?」

「そんな事どうでもいいじゃない。今はぁ!この戦いをゼンリョクで楽しみましょうよ~!」


 傷口から生えた触手で即座に吹き飛んだ足や傷を塞いだりふっつけ、距離を詰めようと瞬動と乱動を使いながら腕を振るう。しかしチャラ男も黙って見ているだけではなく、的確に射撃を行い接近を阻止する。


「実弾ねぇ~。相変わらず高価なの使うじゃない!」


 エネルギーで弾丸を作る『源弾』と固体で実体のある『実弾』の二種類がある。『源弾』は安価で取り扱いが簡単だが対処されやすいと言う特性があり、高価で取り扱いが難しいが対処が難しいと言う特性がある『実弾』だ。



「そうだよ。だからさっさとくたばってくれ」

「いやよぉ~。負けちゃうじゃない!」


 チャラ男の使う弾丸は『実弾』であり、女性は被弾を避けるために瞬乱動で攻防を繰り返していた。そしてリロードの隙を突くために触手を伸ばすが


「あめぇぞ」

「でしょうね!」


 普通に避けられ即座に撃ち弾かれる。が、凄まじいい速度で傷を塞ぎ、本格的な戦いが始まった。



「いいわっ、いいわぁ!いいわよぉ!!流石は私たちが見惚れた男ね!ワタシたちの目に狂いはなかったわぁ!」

「頭は狂ってるみたいだがな!」


 触手を更に増やし、大小様々な触手が空気を斬り裂き、鞭のように空間を飛び回る。チャラ男はそれをかわしながら、最低限の手数で女性を仕留めようと銃撃を繰り返すが、こちらも致命傷を避けるように対処されていた。


「好きよぉ!大好き!だから私たちのになって!」

「断る!」


 服も体も不気味な体液で染まった、姿でそう叫ぶ女性の願いを払い除けるチャラ男。そこに渾身の触手を叩き込もうと、独立させ地面に忍ばせておいたた触手を射出する。


「やっと掠った!やったよぉ!」

「この程度なんだ!」


 横腹をやられたが、掠った程度だと回復術を使って応急手当をしながら反撃に少し多めに銃撃を返す。それにより女性は足や腕の付け根や顔面が大きく欠損するが、触手がすぐに集まり修復を開始していた。



「リロードしてる暇あるのかなぁ?」

「っ!?だから何だ!」


 弾が尽きた瞬間を見計らって畳み掛けようとするが、チャラ男もそこまで弱くはない。避けきれないものは即座に体術で弾き受けがなし対処しながらリロードを完了させ、次々に迎撃の銃弾を撃ち込む。


「相性悪いの!わからないのぉ!諦めなさい!」

「嫌だって言ってんだろ!」


 そう言い合い、草原をジリジリと移動しながら高速で激しい攻防が続く。地面は抉れ、女性の体は弾け飛ぶが、再生能力に優れた女性はそれをものともしない。


 それに対しチャラ男は最小限の手札手数の威力重視と再生能力相手と相性が悪く、苦虫を嚙み潰したような顔をしていた。



「私の事ナンパしといてなによ!」

「断じてしてない!この恋愛脳の変態が!」


 刺突を避け、胸に実弾を叩き込む。それにより風穴が空くが即座に修復される。


「どうせぇ~ワタシたちなんてお遊びだったのねぇ!あんなことやこんな事したのに!」

「仕事だ!」


 仕事での関係でしかないと叫ぶチャラ男は、銃を連射し、体をバラバラにしようと試みる。だがやはり再生能力が高くすぐにつなぎ合わされてしまう。



「はァッ!」

「おい!」


 そして攻撃の質が明らかに変わり、寸前に迫る拳を躱し、地面が抉れる。それに目を見開き驚きながら、次の行動を潰すために弾を打ち込むが、触手が邪魔で勢いを殺すに留まる。この厄介さは、表裏族特有の入れ替わりや仕事の分担だ。


「優しく話しかけてくれたわよねぇ!助けてくれたじゃない!裸にしてぇさぁ~!体じろじろ見てまさぐりまわしてさぁ!他の女にはそこまでしてなったのによね!」

「服屋だぞ!俺ん家!」


 戦い、言い合いをしながら過去の話を出していく。それと同時に攻撃はさらに過激化し、体術も触手の数も性能も上がり続け、高速で草原を移動し破壊して撃ち合っていた。



「捕まえた!さぁ、観念しなさ~いぃ!」


 足を触手で絡めとり、引き寄せようとす――


「いつも言ってんだろ!あめぇんだよ!」

「ッ!?」


 無動を使った一瞬の駆け引きに負けた女性は、逆に引っ張られ体勢を崩す。自切し致命的な追撃は避けたが、それでも隙自体は覆せず、何度目かわからない銃撃を受けていた。


「ちゃんと防がねぇとそうなるんだよ!わかってんだろ!」


 女性は攻撃を防ぎ損ね、体中に響き渡る衝撃のせいで身動きが封じられ、動きも再生も鈍くなっていた。そこに畳み掛けるようにリロードを完了したチャラ男が銃を連射していた。



「ッ!?痛いじゃぁない!」

「無理に接近してんじゃねぇ!」


 だが数発も受ければ慣れるし対処可能だ。その遅れなどすぐに取り戻せると言わんばかりに触手を振り回し急接近をかます。そして弾切れの瞬間を狙い、再度近接戦へとも連れ込ませていた。

 

「接近戦なら勝てると思ったか?そこら辺もあめぇんだよ!」

「黙りなさい!ワタシたちが勝つのよぉ!」


 繰り出される拳や蹴り、触手を対処し的確に反撃していくチャラ男だが、リロードをする暇なく、傷の応急処置も追いつかずに徐々に追い詰められていく。そこで次の手である、閃光手榴弾を防ぐと同時に使った。



「くらっとけ!」

「乱動ッ!?」


 唐突の目くらましに驚き、そこに乱動も合わさり追撃を外してしまう。その一瞬でリロードを済まされ、更なる追撃である触手を掴まれ引き寄せられていた。


「終わりだ!」

「いやっ!」


 引き寄せられる勢いと、銃と拳と蹴りの殴打の対応が間に合わずに重乱撃の殴打を喰らいまくる。それは本調子ではない彼女には過剰なもので、なすがままだ。



「弾を使うまでもなかったな」

「ハァハァ……」


 殴り終わったチャラ男は、力なく倒れ伏す女性を見る。止めを刺すこともできすが、ホンキの殺し合いではない。これは単なるお断りの決着を着けただけなのだ。やる気がなくなったのであれば、これ以上攻撃する必要もないだろう。



「もう昼か、結構時間使っちまったな。お前今日の仕事はいいからそこで頭冷やしとけ」

「クビにしないのぉ~?どうなの?」


 倒れたままそう問いかける女性は、意外そうに聞いた。


「別に店壊された訳じゃないし、この程度じゃ解雇する理由にならないだろ。戦うのは嫌いじゃないし、これで気が済んだのなら今後もちゃんと働いてくれよ。結構頼りにしてんだからさ」


 店では普通なのだ。二人きりにならなければ普通なのだ。いやちょっと変わているが、別段気にするほどの事でもないし、よく働いてくれるので頼りにもしている。


「それに俺ん所にいないとホームレスになるだろ?」

「そうねぇ~。足を滑らせて戦艦から落ちるとは清掃員失格ね、勘も思った以上に鈍ってたし。でもそのお陰であなたに会えたのだけどぉ~」


 女性は元は大空を飛ぶ空中戦艦の清掃員として働いていたのだが、仕事でミスをしてそのまま落下し置いて行かれた人だ。そんでチャラ男に拾われて今に至っている。


「俺がお気に入りのカフェで寛いでる時に落ちてきてな。店突き破って店主に怒られてたからな。今思い出しても笑える。ありゃ傑作だわ」

「ん~、助けてもらったとは言え不屈。でもぉ~」


 不満そうな顔をしたがすぐに表情を変え


「やっぱスキ!」

「おいやめろ!」


 飛び掛かって来た女性を避け、今度は追いかけっこが始まったのだった。


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