戦闘記録5 汚染戦艦での出来事
傭兵のような恰好の一人の男が、苦戦しながらも89式小銃のような銃器を構え、ジリジリと後退しながら地面や天井にへばり付く赤黒い肉の塊に向けて射撃を行う。
「くそ、こんなはずじゃ!」
焦りと不満が彼の声に込められる。肉塊は弾丸によって傷ついてはいるものの、効果は限定的であり、逆に肉塊はより接近してくる。
「チッ!どんなけしぶぇんだこいつらは!」
男はエネルギーで出来た源弾の、銃弾の種類を変えようとするが、肉塊が触手状に変化し彼に襲い掛かる。
「うおっ!?」
驚きながらも素早く避け、肉塊を手で弾き飛ばす。そして肉塊の追撃を避けるため、即座に射撃を行い、肉塊を散らせた。
「こんな奥まで入ってくるんじゃなかったぜ」
奥にいる肉塊がこんなに強力とは、と苦戦を感じる。肉塊たちは活発で力強く、外側の末端とは比べ物にならない頑強さを持っていた。
「いや、なんとなくとは言えわかっちゃいたし予想もしていた。俺の考えが甘かっただけだ」
自己嫌悪に陥りながらも、自身の甘さを反省する。彼はこの汚染戦艦を手中に収めるためにここまでやって来たが、実力も準備が不足していたことを痛感する。
「やべぇ、やっぱ無理だ。対処できねぇ。なんて生命力してんだ……」
肉塊は消し飛ばすどころか、逆に補充される。先からは……いや至る所から強力な気配を感じ、冷や汗が流れる。
「一体だけじゃないんだろうな。それどころか増えるんだろうし、手こずってたら退路塞がれかねんし」
敵の数が増え、自身の立場が苦しくなる。単体であれば勝てるかもしれないが、この一戦だけでなく、後々の展開も考慮しなければならない。囲まれたら最悪である。
「仕方がない……あとで怒られんだろうな……」
片手で銃を握りながら連射し、もう片手で手榴弾を取り出し投げつける。手榴弾が爆発する合図と共に素早く逃走を開始する。うしろめたさを感じつつも、ただただこの場から離れることに集中する。
「なんでこんなことになったんだっけ?たしか……」
過去の記憶が蘇り、ため息をつく。調子に乗っていたのだ。それが原因としか思えない。だが次はヘマしないといつものように気を取り直し、油断せずに進路を進み続ける。
しかし、相手もそんなに甘くないものだ。
「回想の一つでも浸らせてくれよ!」
不格好の人型の肉の塊が角から姿を見せ、こちらを見ずに触手の刺突を放っていた。それを滑り込むように回避し、銃を連射する。
「ヤバいな」
怯んではいるがダメージとしては全く効いていない。当然だ。見えている敵はすべて末端のダミー。本体はこの汚染戦艦そのものである。
「万能性肉塊。実験の産物。すべての生物に適合させる細胞の筈が、だったか?医療から兵器まで使いたい放題の生物兵器」
研究所のデータを思い出す。これは失敗作だ。自身のカタチさえわからない失敗作。だが失敗作だからと言って弱いわけでは決してない。あくまで当初の目的を果たせなかっただけに過ぎない。
「研究者たちも変なものを作る!」
再生した人型は、グルんとこっちに向き、一瞬で距離を詰め、伸ばした腕を振る。
「壊すなよ!」
通路に大きな傷が出来る。男はそう叫びながら回避し、追撃の腕を根元から切り落とすために銃を連射した。それにより追撃は防げたが、碌な反撃もできずに距離を取る事しかできなかった。
「やっべ!」
一切気にせずにこっちに向かってくる人型は、自身の攻撃と同時に床の隙間から硬化させた刺突が発生し、天井に穴を開ける。
「これだから受けは!」
機動力を割くために末端を削り落とす。だが再生の方が速い。受け型はいつもこうだ。あいつらは攻撃を受ける事を問題としていない。そして安易に攻撃を喰らっているわけではない。
「くそ!」
通路を破壊しながら追いかけてくる人型から距離を取り続けるために、後方へ下がり続けながら銃を連射する。
「チッ!」
だが銃撃の隙間から刺突をが届き、それを慌てて避け払い除けながら、手榴弾を転がし、的確に人型を爆裂四散させた。
「手間かけさせやがって!」
一般流の結界術で飛んで肉片を防ぐ。それは正しい行為で、肉片は蠢き結界に突き刺さる。その隙に源弾の種類を爆裂弾に入れ替え、再生する人型に撃ち込む。
「俺は三級だぞ。それも上位だ。量産品に負ける訳ねぇだろ」
被弾した弾丸は相手の体内から爆発し、再生不能なレベルで人型を肉片にする。
「ギリ三級判定のヤツなんかにッ!?」
天井の割れ目から刺突が発生し、それを通路にあった扉を押し退けながら回避する。
「これだから万能はッ!」
目の前に別の個体が生成される。今度は固い皮膚を持った、スリムな人型だ。明らかに対策を取られた。情報を取り続けて、相性の悪い個体をぶつけつづる気だ。
「学習速度が!」
手を向け、その瞬間に針のように小さい肉塊が飛来する。それは男が使う結界では防ぎきれるものではなく、回避を急いで選択する。
「早い!」
腕を振り銃撃を叩き落とす。爆裂した源弾から火花と煙が発生し、それを押しのけ接近され、拳を叩き込まれる。
「ガハァ!」
同時に先ほどの針が胸を貫き、吐血。
「無茶無茶しやがって……」
壁を何枚も突き破り止まる。回復術で傷は塞ぐが、回復術はあくまで応急処置。便利であっても、特性や能力には程遠い。だから再生能力の低い奴らはダメージ、ましては欠損は特に嫌がるのだ。
そんな中――
「ホント無茶しやがって!」
人型は容赦なく追撃を開始する。頭を握り潰そうと伸ばされた手は、回避した男の真横を通って壁に突き刺さる。そこに間髪入れずに銃を連射する男だが、振り払うように振られた腕で防がれる。
「空間ごと!」
切断した空間が元に戻る勢いで飛び掛かる人型。その速度はすさまじく、能力をフル使用し、スレスレで避けた男に冷汗をかかせる。
「計測で!」
目で見る、すべてを見る、物質の流れから多次元に至るまで、すべてを含めた世界を見て、その微細を手に取るように把握する。殊眼族である男が目の力を最大まで使い、特性を越えて能力まで達した力だ。
「ギリギリかよ!」
それを持ってしてもギリギリ。いや、動きの良さや戦術面では優っていても、それを上回る力技を多用する人型との相性はあまりいいとは言えない。
「でも俺の勝ちだ!」
強力な拳、手刀、蹴りによる格闘術で、いくつもの部屋を破壊し進む人型の猛攻は、男の反撃で足を止める事になる。地面を撃ち爆発させ、体勢を崩させたのだ。
「俺を学習材料にしようとしたこと後悔しやがれ!」
空動で移動しようにも間に合わないと、ガードに徹する人型。それに対し男は、銃を逆に持ち、バットのように人型に重撃付きで叩きこむ。
「銃撃だけじゃねぇのさ!」
この世界の銃器は鈍器としても使える。それどころか素では直撃は難しいが、受け流し程度なら使いえるほどの強度と設計になっている。これは、弾がなくなったら殴り倒せばいいじゃないと言う脳筋思考で生まれたものだ。
「おらッ!切削弾じゃ!くたばれ!」
踏ん張りが利かずに壁に叩き着けられた人型に、持ち替えた銃を連射する。その銃弾は切削弾と言い、相手の体を削り落とすもので、人型の体がどんどん削れていく。
「やっぱりな!防御に振りすぎて再生能力が死んでんじゃねぇか!」
響き渡る衝撃と削れ続ける体に耐えられなくなった人型は、銃撃が終わり床に落ちる頃には、蠢く肉塊となってビチャリと広がる。
「さて、今回は撤退するか」
追撃は来ない。なぜなら戦闘中に誘導し、外側に近い場所にまで誘い込んだからで、リスクに見合わないと判断されたのだろう。
「あ~また学習させて終わっちまった。こっちも対策取らねぇとな」
そうボヤキながら息を整え
「絶対俺のものにしてやる」
素早くその場を去るのだった。
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