戦闘記録4 駆除業者

 地上から見て小さく見えるほど上空を飛ぶ巨大戦艦。全長は数十キロにも及び、様々な存在が住み着く住居であり、移動施設であり、輸送船でもあるこれは、あらゆる意味で狭間世界ではごく一般的な戦艦であった。


「クソ、殺っても殺っても湧き出てきやがる!」

「キリがねぇな!」

「仕方がないだろ、さっさと駆除するぞ!」


 強風が吹く甲板に立つ龍人族の三人が、飛龍である特性や能力を生かして風を操作し衝撃、斬撃などで湧き出続けるテニスボールサイズの羽蟻のような虫たちを駆除していた。それにより数が多少なりとも減って余裕が出来る。



「気を付けろよ。こいつら簡単に殺せるがそれだけだ」

「それを数で補ってんだろ。よくある話だ」

「特別脆いわけでもないし、地味に機動力が高いからこっちの攻撃は当てにくい。面倒な相手だよホントに」


 四級生物の羽蟻は、浮島などに生息する蟻の一種だ。習性はこちらにいるアリとあまり変わりなく比較的おとなしい方だが、逆にそのせいで気づかれにくかったり放置されて対処が遅れる事がある。等級上では一番下だが、決して油断できない存在である。


「で、どうする?この規模だと軽く万は行ってるぞ」

「この強風じゃ薬も効果薄いしよ」

「地道に駆除するしかないだろ。結界は張ったし、中でも他の業者とか清掃員の連中が駆除してるからな」


 彼らの役目は羽蟻を逃がさないように討ち漏らしを駆除する事。そして羽蟻たちは必死になって生き残ろうといたる所から逃げ出そうとするので、業者ごとに場所決めして働いているのだ。


「女王蟻だけなら楽なんだがな。そうもいかないのがなんとも」

「統制が取れてる方が駆除しやすいだろ。烏合の衆になったら駆除も後処理も難しくなる」

「女王蟻が出て来なきゃ割のいい仕事なんだ。ちゃんと働けよ」


 そのためにはこの湧き出続ける蟻を駆除し斬り、この逃げ道は使えないと思わせないといけない。女王蟻を逃がそうと特攻をして逃げ道をこじ開けようとしているのだから当然だ。



「それフラグじゃね?」

「ん?」

「こりゃ面倒だぞ」


 大量の気配を感じた三人は、そう言いながら一瞬にして入り口に風の飽和攻撃を放つ。だがそれで削れたのは表層だけで、黒い塊に見えるほどの大量の羽蟻が飛び出してくる。


「他の駆除業者は何してんだよ……」

「うるせぇ。てかヤベェ」

「ハズレくじ引いたな。とにかくそっちは任せたぞ!」


 蠢く黒い塊に瞬動で突撃する一人の龍人。勿論風を纏っているので、羽蟻たちはすれ違った瞬間に斬り刻まれる。これにより風穴を開けるが、すぐにそこに他の羽蟻が雪崩れ込んで元通りになる。



「私がやる!お前らは逃げられねぇように結界の維持だ!」

「わかったぜ!姉貴!」

「こっちは任せとけ!姉ちゃん!」


 そう言い終わると、逃走から排除に動きが変わった羽蟻の群れが、一番の脅威であるリーダーの女竜人に攻撃を開始する。


「オラオラ!逃げんじゃねぇぞ!」


 向かってくる羽蟻たちに向けて、龍化により鋭く大きくさせた腕を風と共に飛斬で放つ。それは大きく群れを斬り裂き、次に竜巻となって散り散り吹き飛んだ一部の羽蟻は風結界によって斬り刻まれ擦り潰される。


「こっちに飛ばすなよ!」

「信頼の証だ!」

「いらねぇよそんなの!」


 攻撃を避けた残りの羽蟻たちは、高速で女龍人との距離を詰める。


「あめぇわ!私の敵じゃない!」


 だがその特高も風により斬り刻まれた。やはり実力差がありすぎるようで、羽蟻たちは歯が立たない様子。しかし彼らもただで負ける気はない。


「「「む?」」」


 風の調子が悪い事に気づいた龍人たちは、羽蟻たちを見つめる。その動きは明らかに龍人たちの妨害行為だった。


「気流を乱したか」


 個々での実力は圧倒的差があり、攻撃は届く気配がない。それに相性も悪く絶望的だが、それでも生存を諦めない羽蟻たちは、気流を乱して妨害行為をしていた。


「細かい操作は割に合わないな。だったら!」


 出力でゴリ押す!と大気を大きく操り、乱雑に掻き回す。


「この程度じゃ倒し切れないか。当然だな、殲滅はやっぱこうでなきゃな!」


 制御が鈍る分、命中精度は高いとは言えない。だが多くを巻き込み動きを制限できると言うのはメリットが大きい。その隙にと、女龍人は群れの中に突っ込み人型のまま更に龍化させた体の体術で薙ぎ払っていく。


「数が多いだけか!」


 必死で攻撃を繰り返す羽蟻だが、それでも女龍人には届かない。それに回避しやすくなったのはいいが、それに応じるように攻撃回数を増やして対応されたことで振り出しに戻っていた。


「おっ?」


 数は減っているはずなのに風の制御の精度が下がり、羽蟻の攻撃を受ける女龍人。


「死骸か!」


 死骸が邪魔で精度が下がった隙を突かれ、軽く牙が刺さったりしたがそれをすぐさま取り除き、よりは激しくなる猛攻に答えるように、女龍人の動きもより早く鋭くなり続ける。その間も常に調整は行っており、徐々に攻撃の精度も戻り始めていた。


「いた!」


 羽蟻の数も減り、うっすらと女王蟻の姿が見えた。その一瞬の隙で、風の刺突を放つが、取り巻きに邪魔される。


「邪魔だ!」


 風で羽蟻たちを退け、空間を蹴り翼を一羽ばたきさせ、一瞬で女王蟻の前まで来た女龍人は、拳を振りかぶって


「じゃあな!」


 それを振り落とした。


「お前らもな!」


 顔面に重空撃を叩き込まれた女王蟻は、砕け崩壊し、死に絶える。それにより群れの維持が出来なくなった羽蟻たちは、徐々に烏合の衆となっていく……はずだったが、女龍人がそうなる前に隙を突いて、次の瞬間にはこの結界内にいたすべての羽蟻が斬り刻まれていた。



「終わりだ。連絡しろ。後始末に入るってな」

「おう分かった」

「俺は探知しとくわ」


 そうして、残った羽蟻の後始末をするために三人は慎重に探知を張り巡らせながら戦艦内部に戻るのだった。




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