戦闘記録4 姉妹喧嘩
キノコが生い茂るぼんやりと明るい森の奥で、血の濃さそうな一人のアライグマ型の獣人の女が木にもたれかかっていた。
「ウ、ウ”……」
その姿はボロボロで、なにやら白いものに纏わり着かれており、片腕はなく痛々しい傷跡が目立つ場所には入り込むように、菌糸が張り巡らされていた。
「遅いと思ったら」
呼びかけに答えたのか、関係ないのか。強引に体を動かし、菌糸を取り払い、ブチブチと、パラパラと、散る菌糸の欠片が宙に舞う。
「そうか」
膝に手をかけ、ふらつきながら立ち上がる。そして残った片目で先を見て、一人の獣人の女を視界に
「付き合ってやるよ、姉ちゃん!」
瞬動で襲い掛かった姉の拳を弾き落とし、追撃をかける妹。しかし回転をかけて躱し、生やした腕でさらに上から手刀を振り落とす。
「っ!?」
紙一重ですり抜けアッパーを繰り出し殴り上げる。
だが浅い。
「鈍ってるんじゃないか!」
姉は菌糸を広げ、妹は鉤爪で飛斬を放つ。それらがぶつかり日差しが通る。
「再生するか」
空中で体勢を崩した姉に、瞬動で飛び上がり拳が横腹に掠れ抉れる。しかし再度視界に捉える頃には再生が終わり、手を伸ばし迫ってくる姉の姿があった。
「ふん!」
攻撃が衝突し、響き渡る衝撃と穴の開く森。
「早い!」
木々を薙ぎ倒し吹き飛んだ先で迫る姉の追撃を捉え、妹は一瞬で身を逸らす。だが姉の動きは予想以上に速く、菌糸が巻きつくように伸びて妹の動きを制限する。
「舐めんな!」
鋭い眼差しで底掌を繰り出し、勢いを利用して重撃を身体に響かせる。
「やりやがる!」
衝撃が走り無傷の姉は、虚ろな眼光で妹を見つめ、身をひねって踏み込み、攻撃を繰りだす。だが邪魔されうまく決まらずに地面を砕き、周囲に土と菌糸の破片が舞い上がる。
「くっ……!」
側面から追撃をかけようとした妹だが、纏わり着く菌糸が邪魔でチャンスを逃した。その隙は大きく、のっそりと体勢を立て直した姉は、手を振り上げ、流れるように妹を殴り飛ばす。
「ヤバ――」
痺れる体に鞭を打ち、迫る姉を迎え撃つ。手と菌糸を払い除け、迎撃をすり抜けて反撃を返す。
「いっ!?」
打撃と衝撃の嵐と思えるほどの連撃を繰り出した。防戦一方な姉をタコ殴りにし、的確に撃ち抜くが、これと言った効果が見られず、対応される前に蹴り飛ばす事で距離を取る。
「これだから!?」
片足に菌糸が付き、瞬間に逸らした拳が震え、それとは逆向きに裏拳で姉の顔面を消し飛ばす勢いで殴った。
「記憶に慣れられると厄介だ!」
両者とも片手が塞がれ、殴り合いが始まる。それは激しいものの、決定打に欠け、姉が本格的に慣れ始めた証拠であった。
「チっ!」
攻防の中、体に力を集中し、拘束されている足と腕を強引に引き裂く。自由を取り戻した妹は、追撃を対処し勢いよく殴り飛ばす。
「起きてんなら答えやがれよ、姉ちゃん!」
構えを取る暇なく続く姉の攻撃は、より洗礼されたものになっていた。獣人の体にも慣れて来たのか、尻尾や重心の使い方も様になって妹を苦しめ始める。
「これでも足りないか!」
背負い投げで地面に叩き着けた。だが即座に尻尾を使われバネのように跳ね返ってくる。
「上手くなてるけどね!」
瞬時に側面を取って殴り手刀で叩き切る。更には起き上がろうとする頭を後ろから掴み地面が凹む勢いで叩き着けた。
「っ!?」
だが倒せない。足りはしない。菌糸が伸び、それを振り払い蹴り飛ばす。しかしすぐに体勢を立て直され、迫る不格好な攻撃を弾き――
「くそ!ミスっ!?」
腕を掴まれ払えない。それどころか爪を食い込まされ菌糸が入り込む。
「いっつ!?」
体勢を悪くされる前にと咄嗟に体当たりで振り払い反撃をするが、上手を取られいいのが何発か入り投げ飛ばされる。
「中途半端なのに!」
大きめの尻尾で着地の補助をしながら重心を即座に整え、間も空かずに来る追撃を対処しにかかった。これにより致命傷は避けられたものの、動きが激しくなり森中を移動し始める。
「再生、菌糸、胞子、どいつもこいつも!」
漂う白い胞子も、張り巡らされた菌糸も、あの圧倒的な修復能力も厄介でしかない。猛毒の霧の中で戦っているようなものだ。
「厄介だ!」
拳、手刀、爪の攻防が、抑えきれなくなった余波が森を傷つけていく。
「こっちも!?」
何千回目かわからない攻防。せめぎ合いの中、対処しきれなかった一撃が胸を抉る。しかしただではやられない。地面を蹴り、刹那の隙を突いて姉の懐に飛び込み。
「これでどうだ!」
妹は全力でアッパーを繰り出し、姉の顎を的確に捕える。その衝撃で姉の体が浮き上がり、菌糸の制御が一瞬緩む。
「止まれ!」
妹の神速の重撃は見事に姉の胸に命中し、姉の体は木々を圧し折り地を転がる。菌糸が四散し、姉の体は無力に倒れ込む。
「……やるようになったね……」
「やっぱ起きてッ!?」
姉は苦笑しながら、再び立ち上がる。そして深い息をつきながら近づく。
「でも甘いね」
それに反応が遅れた妹は、地面から噴き出した胞子と見えにくい無数の菌糸に掠ってしまう。
「油断禁物だよ?」
「言いやがる、どっちだ?」
傷口を抉り菌糸を切除し、胞子を吸い込まないようにより注意を払う。
「どっちもでいいでしょ?」
「ごもっともで!」
姉の姿が溶けるように消え、大気が爆裂したような蹴りの一撃が妹を襲う。
「防いだ?」
「菌糸の方だな!殴って目覚まさせてやるよ!」
そう叫ぶと、妹は爪を振るい森を斬り裂くのだった。
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