戦闘記録3 破滅者と通りすがりの旅人

 とある山の中で、着物を着て一本の刀を腰に下げ、居合や抜刀術と言われる構えをする糸目で小柄な二級下位の旅人がいた。


「樹人族。破滅者になって二級相当ですか。少々厳しいですが、ここで終わらせて差し上げましょう」

「ハハッ!?」


 ボロ付き汚れた格好の茶髪の青年が、瞬動で接近しながら木刀を振り落とし、旅人はそれを避けると同時に迎撃する。それにより地面が抉れ、土砂と土煙の柱が立ち上がる。


「もっと静かにしてください」

「ッ!?」


 土砂に巻き込まれ上空に吹き飛ばされるが、体勢を崩す訳でも、隙が生まれる訳でもなく、再度戻した刀で抜刀を放つ。それはピンポイントで回避に失敗した樹人族の青年の足を斬り落とす。


「シネッ!」

「御断りです」


 補足されないように動き回りながら石や岩を投げつけるが、どうにも上手く行く気配がなくすべて斬り落とされていた。


「もう再生しましたか」


 再生が得意な種族や個人は色々いるが、青年もそのタイプのようで、再生の時間を稼いでいただけだった。それを確認した旅人は、飛斬を放ち瓦礫を壊して障害物を壊し続ける。


「地下茎の植物が空中戦をしてる時点で、勝機は薄いでしょうに」


 空中で瓦礫を盾に戦う羽目になったのも、瓦礫に根を混ぜていた事も気づいていた。だからホンキで地上に引きずり込もうとしてくるだろう。でなければ青年に勝ち目はないからだ。


「させませんよ」


 蔦のように根っこを伸ばして足を掴もうとする。それを斬り落とし


「考えましたね」

「オチロッ!」


 その隙に上を取り、木刀で地上に叩き落とす。これを一瞬のうちにやってのけ、流石の旅人の迎撃も浅くしか入っていなかった。


「おっと」


 そこから始まる青年の猛攻。降って来た青年は、地面にクレータを作り、飛び退いた旅人を追って飛斬を放ち、それを防がれた瞬間に、地面から根っこの刺突が旅人を襲う。それを木々の隙間と山の斜面を駆け抜けながら回避していく旅人。


「これは……」


 刀を振り瓦礫や根っこなどの攻撃を対処する。だが規模は増し続け、地形は壊れ続ける。


「少々ヤバいですね」


 山々が崩れ、斜面が土砂崩れのように押し押せる、その後ろに広範囲にまで広がった根っこが構えていた。



「では!」


 飛び出してきた根っこをバク宙で躱し、着地と同時に無数に迫り狂う追撃と土砂を飛乱斬で引っ搔き傷のように斬り裂く。


「こちらもそれに答えましょう!」

「クタバレッ!」


 隙間から根っこで出来たようになった青年が飛び出してきて殴り掛かられる。それの威力は地を削り穴を開けるほどのものだたが、当たらなければ意味がない。


「下手ですね!もっとあるでしょうに!」

「ウザイッ!」


 旅人の斬撃を体で受け弾き返し、生み出した木刀で畳み掛ける。その剣技は荒々しいが、決して技術を疎かにしていないものだったが……


「土壇場でそれですか!」

「ナゼダッ!」


 受け弾き切り返す。時には受け流し、衝撃が響き渡る。それを何百、何千手と繰り返す。だが剣術では差がありすぎるようで、学習しても間に合わず、強引に上げたフィジカルでギリギリであった。


「ダッタラッ!」


 無理矢理攻撃を受け、刀をへし折ろうとする。そうでなくても刀を手放せさせればと纏っていた根っこで掴み、ついでに刺突を放つ。


「考えが浅いですよ!」


 あっさりと刀を手放した旅人は、流れるように殴打を打ち込み。あらゆる衝撃が青年の体を一瞬で突き抜ける。


「ガァハァァーーッ!?」

「メインの一つや二つ失った程度で有利になれるとでも?手を失うとでも?それに受けにしては質が低い。やはり元が三級程度ではこんなものですか」


 踏ん張りが利かずにボロ雑巾のように吹き飛ばされる青年。木や茂み、地形などにぶつかり、流れる景色を勢いを殺そうと跳ねまわりながら急いで把握した。だがそれに気が付いた時にはすでに、旅人は側面に回って回収していた刀で斬りかかる。



「避けますか。また速くなりましたね」

「ウッ!ウルサイッ!」


 一線を避け、腕を伸ばし、体を鞭のようにしならせ反撃を返す。それは先ほどの攻防よりも耐久は勿論、威力も速度も格段に上がっており、無茶苦茶に見えるような連続攻撃を繰り出し続ける。


「これならどうです!」

「キカンッ!」


 それに答えるように、掠れてはズレ消えては現れという補足が困難な動き、乱動で避けていた旅人が刀を振るう。だが根っこは傷付くばかりで斬れずに軌道をズラす事しかできない。


「あらら、これは困った」

「シネッ!」


 反撃を試みるが、どれも届かない。猛攻は激しくなる一行で防戦一方になりかけていた。


「でも持ちませんよね?」

「ナニッ!?」


 流石の根っこも、同じ場所を高速で何千何万も斬られては再生も追いつかなかったようだ。そして、新しいのを生やそうにも、その前に旅人の空斬が深く胴体に叩き込まれる。


「ん?切断できませんでしたか」

「ハナレロッ!」


 戻した腕で地面を割る程の拳を振り落とし、旅人の回避先に地面から根っこを剣山のように生やす。


「見え見えですね」

「ダマレッ!」


 腕を振り、鋭く尖った根っこの欠片を飛ばす。それは当たった瞬間に食い込み生えるように変形する根っこだったが、すべて旅人の目の前で斬り落とされていた。


「ッ!?」

「睨まないでくださいよ」


 硬くだがしなやかに身を固める。あの刃が届かないように、斬り裂かれないように。体格は一回り大きくなり、それはまるで根っこのバケモノになったような見た目をしていた。そしてその隙間から、薄れた殺意が睨んでいた。



「とことん捨てますね」


 答えなど返ってこない。それもそうだろう。目的にそぐわないものは、もう大して残っていない。その残り少ないものも現在進行形で捨て続けている。


「ッ!?早いっ!」


 瞬動で一気に距離を詰められる。速度も技量もとんでもなく高まっており、反応が遅れた旅人の服は破れ赤く済み出す。


「困りッ!ましたね!」


 暴れる、ただひたすらに、無駄も隙も無くなり、手に入れた圧倒的フィジカルで、何もかもを薙ぎ倒し、目の前の気に食わないものを破壊し尽くす。


「硬い!刃が通らない!」


 降ってくる木々、跳んでくる土砂、崩れゆく地形と隙を狙て飛び交う根っこを掻い潜り、近接戦で何度も斬撃を撃ち込む。相手の攻撃を寸前で回避し、軽やかにだが確実に刃を通す。それでも切断までには至らず、すぐ修復されていた。


「ガハッ!?」


 そんな攻防をいくつも山を越えるほど行った。それでも大した成果は得られず、逆に旅人は地面から生えて来た根っこに足を貫かれ、体勢を崩したところを巨大化し、凶悪化した手で叩かれ吹き飛ぶ。



「面白みに欠けますし、厳しいですね……」


 斬られた手を修復させた相手は、今度こそは逃がさないと急接近し手を伸ばす。


「強いだけなんて」


 指が完全に斬り裂かれ、その先にあった頭も斜めにズリ落ちそうになる。危機感を感じた相手は一旦距離を取り、旅人を観察した。


「させる暇があると?」


 だがいない。一瞬で死角を取られ、一線が引かれる。それをどうにか対処し、致命傷を避けた相手だったが、視界では補足しきれず、ギリギリの攻防を繰り広げながら感知や把握で掠れる旅人を探し続ける。


「先を行ってるのでわかるでしょう?」


 髪に隠れてわかりづらかった角が伸び、旅人の種族が明らかになる。長めの耳に、薄い茶色の肌。それは頭角族の悪鬼だった。


「戦えば強くなる。追い詰められれば更に」


 間に合わない、これ以上ペースを上げられては勝ち目がない。それを悟った相手は大地に張り巡らせた根っこを操り、地形を変革させる。障害物を無くし、相手の足場を消し去る。


「度が越えればそうなりますが」


 負傷覚悟でやったと言うのに辛うじて追えるだけで、傷は増える一方で話にならない。それに比べ旅人は速度も威力も桁違いに上がり続ける。


 いや違う、こいつは――


「越えなければ便利なだけですよ」


 種に気付いた相手だったが、もはやどうしようもなかった。ズタズタに斬り裂かれた相手は根っこが朽ち果て、中にいる死にぞこないの青年が見え隠れしていた。それでも諦めずに鈍くなった動きで対処し続けるが、すでに全てが無意味で遅すぎたのだ。初期に防げなかった時点で、決着は決まっていた。


「さようなら、そして……」


 動けない、それだけの力も残っていない抜け殻。捨て続け、強引に開けた容量に必要なものだけをつぎ込んだ者の末路。


「おやすみ」

「クッ、クソガッッーーー!!」


 ギリギリの闘士と生気のない目が旅人と合い、青年は掠れた声で最後の叫びを口にする。それと同時に刀が振り落とされ、青年はチリヂリになり消滅したのだった。


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