戦闘記録8 外来者と叶え屋

 町中を精一杯走る。流れるような景色に目もくれず、息の仕方も忘れて、必死に、何かから逃げるように走り続ける男がいた。


「はぁはぁ、クソ――ッ!?」


 だが何かに気付いて振り向いた瞬間に、男はビルごと輪切りにされ、潰れた赤い塊となって瓦礫を汚す。


「これで一万回ね。学習しないのはどうかと思うわよ」

「簡単に殺しやがって!」


 いつものように体を再生させ、先ほどよりも速く強くなった体で殴り掛かる。だが次の瞬間には、相手から放たれた黒く輝く紫の雷によって消し炭にされ、霧散していた。


「根性だけじゃダメね」

「バケモンが……」


 塵が集まり元に戻っていく男は、呆れたようにこちらを見下ろす、青色肌に羽と尻尾を生やし立派な角を生やした頭角族の女性にそう悪態をついた。



「でも仕方がないわよね」

「おいっ!ちょっとッ!?」


 復活したての男に向かって紫雷を放ち、男は急いで回避して、追撃を避け続ける。


「願いなんだもの」

「こんなの願ってない!」


 距離を取りつつそう叫んだ男は、瓦礫を盾に雷を凌ぎながら、手当たり次第に瓦礫を投げつけて反撃をしていた。だがすぐに影が差し、仕返しのビルが落ちてくる。



「強くなりたいって言ったじゃない?」

「言ったけど、よッ!」


 逃げ出した先に現れた女性に驚きながら後ずさる。しかしそれよりも速く腹に重撃が叩き込まれ、全身から血を迸らせながら、高層ビルをぶち抜いて大気圏付近まで一瞬で飛ばされる。


「形を保ててるなんて成長したわね」

「ヤ、ヤメッ!?」


 あと少しで宇宙まで飛ばされそうな所で、追いついてきた女性は、男を地上に叩き落とす。それにより地上では巨大なクレータが出来上がり、中心ではモゾモゾと蠢く何かだけが残っていた。



「まだまだ行くわよ!」

「あぁああぁ――!!」


 復活した男に襲い掛かる女性は、圧倒的な体術で畳み掛ける。その一撃一撃は、まさに致命傷を与えるに値するもので、速度もすでに超人を持ってしても掠れてしか見えない。だが男も黙ってそれを見逃すわけがなく、必死に応戦しにかかっていた。


「再生するたびに強化されてるだけあるわね!でもやっぱり技術も経験もまだまだ!これは時間かかるわよ!」

「もういくらでも戦ってやるよ!」


 衝撃が町を揺らし、男は応戦の度に体が削れ、骨が軋み、気分は最悪だった。だが、どうしてか諦める気分には成れずに、精一杯の抵抗をしながら少しづつ学習していく。


「その意気よ!あなたの記憶からこの世界を作った甲斐あったわ!」


 更に力が増し、世界を揺らす攻防をしながら女性はそう話す。この世界は、この女性『叶え屋』が、男の記憶を基に作り出した世界だ。『叶え屋』とは、誰か何かの願いを叶える存在であり、今回は男の願いを叶えてこのような事をしている。



「甘い!」

「ウグッ!?」


 何千回くらったかどうかわからない重撃で、顔面が風船のように破裂した。そして動けなくなった一瞬の隙に乱撃を叩き込まれ、体内に何千発もの衝撃波が響き、何かが噴き出すと共に液状化してドロリと地面に溶ける。



「私も甘いわね。消し飛ばなかったわ」

「余所見視点じゃねぇ!」


 再生しながら即座に拳を突き出し、仕返しの重撃のお見舞いした。


「あら?蚊でも止まったかしら?」

「バケモッッ!!?」


 しかし受け流されるどころか、無動で相殺され、格の違いを見せつけられながら軽く振られた悪魔のような手から出た飛斬で、輪切りされて血肉が転がる。



「せめて三級ぐらい。私と同等に戦えるようになって欲しいんだけどねぇ~。今のままじゃ子供たち相手にも苦戦するわよ?」

「無茶言うなよ。それで三級かよ……くうっ!」


 それを聞いた男は、音速をはるかに上回る速度で背を見せて逃げ出し、とある場所に向かった。


「どこ行くのかな?」


 それを不思議そうに眺める女性は、転移で上空まで飛び、上から追いかける。


「ああ、核兵器ね」


 十数分も経たずに核弾頭が発射され、女性に直撃する。それにより世界が光と爆風に包まれ、巨大な雲の塊が出来上がっていた。



「ここは俺の記憶から作り出された世界なんだろ。俺の元居た世界を基準に作られた、俺の思い浮かべた世界。だったら核弾頭の一つや二つはあるんだよ。それだけじゃない。他の兵器も、なんあらアニメや漫画に出てくるようなものまで望めば出てくる。これがお前が俺にくれた力だ!」


 願いによって作り出された世界と同化しつつある男は、世界その者になろうとしていた。これにより、まだ繋がりが薄いが、この世界の情報を読み取っていたのだ。


「そう、面白いわね。まぁそれも力の一つだし、文句はないわ。それどころかよくやったと褒めてあげたいぐらいよ。あげた力を有効活用するのは流石よ。だから――」


 莫大なエネルギー波により暗黒の雲が渦巻き


「私を楽しませなさいッ!」


 次の瞬間には消し飛び、男のいる施設に着弾する。それによって宇宙から見てわかる程のクレーターが出来上がり、吹き飛んだ男を追う。



「まだホンキじゃないのか!?」

「出したらすぐ死ぬでしょ!!この星ごとッ!!」


 再生と共に世界との繋がりを強化し、地面を先が見えないほどの地殻ごと盛り上げる。それを女性は尖撃で撃ち抜き、地殻と男に風穴を開ける。が、即座に追加の核弾頭が撃ち込まれ、いくつのもキノコ雲が混ざったようなものが出来上がていた。


「はぁはぁ、現状の最強の攻撃手段なんだぞ!?」


 それでも大したダメージを負っていない。ピンピンしている。むしろ楽しそうだ。


「そんなものなの!?」

「ぐっ!?」


  踏みしめた一撃で星の自転が揺らぎ、次の一歩で地殻を剝がしながら逆転する。


「どの分野でも未熟!それだとゴリ押しで子供たち蹴散らせても!成人相手には話になないわよ!」

「ガハッ!?」


 一面瓦礫と溶岩が飛び交う世界で、目の前に現れた女性は拳を突き出す。それにより空間に割れ目が入り、男は割れ目に沿って砕け散る。


「この程度の攻撃にも対処できない。私はまだ能力も碌に使っていないって言うのに、先が思いやられるわ」

「じゃあ使ってみろよ。全部。その上で勝ってやる!」


 更に強化された力で、その身をもって理解した空間を斬り裂く手刀、空斬を放つ。


「じゃあ覚悟しなさい!」

「ッ!?」


 腕を掴まれ、背負い投げをされて地面に赤い血肉が飛び散る。そこに追撃にの乱重撃が叩き込まれた。


「~~~ッ!!?」


 声にならない悲鳴を上げ、急いで対処しようとするが間に合わず、星に致命的なダメージが入る。



「どうしたの!出してあげたわよ!ホンキを!」


 種族特性を最大限まで発現させた女性は、まさに神秘を纏った悪魔と言う風貌になって、何度も何度も地を殴る。その一撃一撃はまさに必殺に等しく、形のなくなった男を無視して、星を殺さんと振り落とされる。


「まァ!けるかッ!!」


 拳を受け流し、ここにきて初めて男が女性を殴り飛ばす。


「覚悟しろよ!」


 一瞬で地平線の彼方まで飛ばされた女性に水爆が直撃し、地獄と化した星から溢れ出した溶岩の津波が上から流れ込む。


「これでッ!?」


 視界が、世界がズリ落ち、鼻先から上が地面にぶちまけられた。


 そしてその先にいたのは――


「幻想魔剣。武器を使わせるなんてね。流石じゃない」


 地平線の先から放たれた斬撃は、星の表層を斬り落とし宇宙に大陸を捨てさせる。そして数秒も経たずに距離を詰めた女性は、能力で生み出した美しい幻想魔剣で剣戟を繰り出す。



「剣術がメインなのか!?」

「そう思う?」


 世界を超圧縮させた剣を作り出し、斬撃を弾き返す。そして圧倒的身体御能力で押し返そうと剣を振るうが、剣術でも勝てずに少しづつ押され始める。


「違うな。お前は何でもできる万能型だ!そうだろう!」

「そうね。まぁ強いて才能があるわけじゃないけど」


 男は剣が弾き飛ばされ、乱斬により火山ごと斬り刻まれ消し飛ぶ。


「もうちょっと打ち合って欲しかったんだけど?」

「無茶言うなよ!ってあぶね!」


 近くで復活した男に、鞭のようになった斬撃の曲斬を当て真っ二つにする。しかしそれは残像で、乱動で避ける事に成功した男は、死角から剣で斬り裂こうと神速で剣を振るう。



「げぇ!?なんで!?」

「幻想だからね。私は」


 すり抜けるどことか、まるで幻のようにそこにいなかった。と思ったら逆に死角を取られ蹴り飛ばされる。


「逃げッ!?」

「下手くそ」


 ヤバいと感じ距離を取ろうとするが、その瞬間に斬り伏せられていた。それに混乱する男は、なぜか立ち上がれない。



「はぁ。つい楽しんで目的を見失う所だったわ。聞きなさい。規模が大きければいいってもんじゃないの。そんなの事子供たちでも出来るわ。立ち回りも大切だけど、その前にまずは逃げずに体術とか近接鍛えなさい。だからこんな感じにすぐボコられるのよ」


 呆れながら世界を元に戻していく。そして男が立ち上がれるようになった時には、自然豊かな星へと再生していた。


「そ、そうは言ってもよ」

「そうやって、逃げ方すらわからずにすぐに逃げようとするから弱いのよ。ホントに強い奴なんて、能力無くても貴方や私なんて簡単に完封できるのよ」


 剣を消して拳を構える女性。


「まぁ強化が目的だったとは言え好きに戦ってって言った私も悪かったわ。あのまま行っても逆算して覚えられたらいいんだけど、貴方ってそんなに器用そうじゃないし。そもそも貴方の世界は戦いが一般的じゃなかったんだよね。ちゃんと基礎から手取り足取り教えてあげる。だから今度は逃げないでね?」

「あ、はい……」


 そして女性は、男にも反応できる速度で攻撃を仕掛け、一つ一つ教えていくのだった。


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