盲目

わをん

目を覚ますといつも地獄が広がっている

  第一章・いじめ地獄


 はぁ、今日も学校へ行かなければならないのか。あぁ、母の声がする。嫌だ。この世の全てが嫌だ。

 僕はいじめられている。毎日。誰も僕のことを助けようとはしない。嫌われるのが怖いのだ。母は優しい。僕が幼い頃に父とは離婚してしまった。僕は自分の父と会ったことがない。母は女手一つで僕をここまで育ててきてくれた。これ以上迷惑をかける訳にはいかない。毎日が嫌だ。どうして人間はこうなんだろう。

 あぁ、眩しい。

 あぁ、今日も母の声がする。早く学校行きなさいよ、学校に遅刻するわよ。という声が響く。もう学校には遅刻したいくらいだ。いや、もう休みたい。一生。また母の声が聞こえる。階段を上ってくる音も聞こえる。母を困らせたくない。行こう、学校に。今日を過ぎれば土日だ。しかも月曜日も祝日。運がいい。母が上がってくる。急げ。ベッドから飛び起き、服を脱ぎ捨て、制服に着替える。もっと速く。急げ。来た。何とか間に合った。なんだ、着替えてたの、じゃあ返事ぐらいちょうだいね、か。下に降りよう。着替えたら。

 今日の朝ごはんはいつもと変わらず和食。典型的な和食。喉を通らない。理不尽に時間だけが過ぎ去ってゆく。もうこんな時間か、すぐ用意をしなければ。

 この今日の時間割をみて、バッグに教材を入れる瞬間に行きたくないと感じる。はぁ、今日は体育があるのか、しかも今やっている範囲は陸上。僕が一番苦手で、みんなから笑われ、いじめられる。もう嫌だ。神様という存在があるのだとすれば、この僕を救ってはくれまいか。

 母はいつも僕を玄関までエプロン姿で見送ってくれる。何故息子が何かに悩んでいるのに気付かないのか。僕は家を出た。

 学校までの道のりは楽だ。誰にも会わないような道を通り、気楽に行ける。一人がいい。楽で。誰にも気を遣わない。

 そんなうちに、学校に着いてしまった。正門をくぐる。女子たちがこっちを見て笑っている。顔になにか付いているのだろうか。それとも、制服が乱れてる?それとも髪の毛……なっ、なんだ?誰だ?ああ、いつものことだ。後ろから走ってきて体当たりされ、そのまま荷物を持たせる。これはまだ軽い方だ。こいつは僕をいじめるいじめっ子が怖くて、僕をサンドバッグ代わりにしている。まてよ、こいつが来たってことは……やはり、あいつも来ていた。あいつ、というのは毎日毎日僕をいじめるいじめっ子。人間の底辺だ。あっ、あれは……先生だ。いつも僕をいじめる奴らでも、先生の視界に入ってる間だけは仲良くする。見せかける、と言った方が的確だろう。いつまでこの生活が続くんだ、僕はまだ二年生。あぁ、もう嫌だ。全てが。この世の全てが嫌だ。もう嫌だ。嫌だ。いやだ……

 教室に入ると、みんなが僕を冷たい、冷酷な眼差しで見る。最悪だ。いじめっ子は僕のロッカーに入れていた教科書類をほぼ全て窓から投げ捨てた。そして机も椅子にもマッキーペンで悪口を書いている。嫌だ。だから来たくなかった。何、ついてこい、と言っているのか。どうせいじめられる。最悪だ。もう嫌だ。

 僕は屋上への階段を上っていると、突然下から蹴られた。そして上からも蹴られ、階段を全て落ちてしまった。嫌だ。やめてくれ。痛い。怖い。嫌だ。いっそのことあっさり殺してくれ。はやく、、、死にたい。嫌だ。もう嫌だ。はやくチャイム鳴ってくれ。痛い。怖い。逃げたい。痛い。早く先生来てくれ。嫌だ。やめてくれ。痛い。もう嫌だ。痛い。こわい。いやだ。やめてくれ……

 ん、なんだ、ここは保健室か、ということはさっき僕は倒れたのか、よしこれはいい、もしこのしんどいのが治っても今日はずっとここにいよう。やはり僕は運がいい。今日は特に。

 少し眠ったのか、ん、誰だ?誰だ?ん、他校の先生?なんでこんなところに他校の先生が。あぁ、見学ね、なんで僕なんかを見るんだ。あっち行け、何、今日の放課後空いてるか、なんだ、なにか裏があるに違いない。でも見たところは無さそうだ。

 お腹がすいた。もう四時か、あの変な先生との待ち合わせ場所に行くか、誰にも見つからないように出よう。やった、幸い保健室にはいなさそうだ。となれば、窓か。よし、外にも人影はない。行くぞ、校庭はこんなにも広かったか、よし、逃げ切った。確か待ち合わせ場所は公園だったな、あっ、また女子に見つかってしまった。またクスクスと笑っている。あいつ仮病じゃん、とでも言っているのだろうか。やはり嫌だ。まてよ、先生があのいじめっ子とグルだったらどうしよう。まぁいい、行ってから考えよう。あ、あそこに交番もある。やはり今日はついている。あ、あれは先生だ。周りに人はいないようだ。あぁ、頭が痛い……

 なんだ、ここはどこだ、ん、声がする。聞いたことのある声だ。あ、そうだ、これはあの先生の声だ。やはりいじめっ子とグルだったか。もう嫌だ。いっそこの棒で自殺でもしてしまおうか。あぁ、やってくる。あぁ、おわった……何、きみいじめられているだろう、だと?それに君は栄養失調だ、だと?なんで分かるんだ。相談相手?なんだ、グルではなかったのか、しかしまずい。いじめられていると学校関係者にバレてしまった。いい匂いがする。食べたい。思わずスプーンを持ってしまった。美味しい。美味い。科学者が何か言っている。分からないほど美味しい。美味しい。美味しい。早く帰らないと親が心配する?あぁそうだ、今日は早く帰るとしよう。











 第二章・化け物地獄


 あぁ、眩しい。

 はぁ、今日も母の声がする。早く起きなさいよ、ん、でも今日は土曜日じゃないか。じゃあ、なんで。もう起きなくていいじゃないか。嫌だ。起きるとするか、母が上がってくる。布団が剥がれる。あ、あ、あ、あ、あ、母さんが化け物になっている。嘘だ。嘘だ。あ、あ、あ、あ、なんでだ。嫌だ。はははは……母さん、母さん、なんで……母の目は僕の左胸に集中している。まさか…………殺す気なのか……?もう嫌だ。母さんがいなくなったらどうやって生きていけって言うんだ……夢だ。そうだ。これは夢だ。覚めろ。いくら願っても覚めない。母が僕の左手を斬った。痛い。痛い。いたい?まさか、これは夢じゃないのか……最悪だ。殺そうとしている。実の母が。僕を。僕は僕の母を僕の部屋に閉じ込めた。ニュースを見ると、化け物がニュースをしている。

 街に出ると大半が化け物になっていた。僕を見ると、その化け物たちは僕を殺そうとしてくる。やばい、避けそびれた。これが死か…と思ったとき、太陽が見えなくなった。なんだ、もう一匹来たのかと思ったが、それは人間だった。なんだ、人間が生き残っていたのか、とほっとするとその男性に手を引っ張られ学校へやってきた。そうか、ここは安全なのか、またほっとした。その男性が言うには、化け物たちは喉を鋭利な刃物で刺されると死んでしまうらしい。刃物、刃物、どこかに刃物はないか?あ、あれはキリじゃないか、丁度良いものがあった。やはり最近ツイている。もうこんな時間か、お腹がすいた。なにか食べ物はないかと探していると、いじめっ子たちらしき化け物を見つけた。忍び寄り、喉をキリでついた。あの男性の言う通り、すぐに死んでしまった。おっ、あれは調理室か、何か食糧はないかな、やはり僕は運がいい。食べ物が一式揃っていた。それを食べると睡魔に襲われてしまった。


















 第三章・ひとりぼっち地獄


 あぁ、眩しい。

 さてと、外に出るか。

 最悪だ。生存者が全て道端に倒れている。同時に化け物も。嫌だ。ひとりぼっちなんて。嫌だ、嫌だ、もうこれ以上僕を一人にしないでくれ……誰か生き残っていないか。昨日の夜に大乱闘があったのだろう。そうだ、あの先生なら大丈夫なんじゃないか。しかし先生の住所を知らない。まず公園まで行こう。

 公園から、えーと、あっ、これじゃないか?これだ。あ、先生……先生まで化け物になっていた……もう嫌だ……ああ……まさか、殺そうとしているのか、仕方あるまい、僕は恩人である先生をキリで刺した。仕方ない、僕を殺そうとしたんだから。ん?極秘資料?なんだこれは。よく部屋を見渡してみると先生はスパイらしい。机を見てみると、さっきまで作業していたらしいパソコンがある。よし、ん、なんだ、アメリカの極秘資料?ハッキング済み?なんだこれは。核爆弾?これがパスワードで、これで発射できるのか。この世界が嫌なんだ。この世界の全てが嫌なんだ……何もかもが……

 僕は先生のパソコンを持って先生の机にあった地下シェルターの鍵も持って、地下シェルターへ来た。地下シェルターは山奥にあった。それにしても疲れた……地下シェルターには、食糧がある。やはり僕はツイている。よし、完璧だ。核爆弾を発射しよう。場所は、全世界っと、もう嫌なんだ、この世界が。何故か、パソコンのクリック音が大きく、長く聞こえる。仕方ない、化け物なんだから。仕方ない、いずれ僕を殺そうとするんだから。仕方ない、仕方ない、仕方ない。何かが落ちた音がした。鍵だ。鍵に、コールドスリープと書いてある。あった。コールドスリープができそうな場所が。一年間、とセットした。これで眠るだけだ。


















 第四章・知るという地獄


 あぁ、眩しい。

 一年経ったのか、地上に出てみよう。

 地上に出ると、全てがなかった。無だ。何もないとはここまで気持ちいのか。知らなかった。でも、全ての人を僕が殺してしまったのか……あぁ、街には白骨死体が大量に転がっていた。世界中の人が死んだのか……まぁ、化け物なんだからしょうがないことだったんだ。何故だ、眠い……そうだ、先生のところへいこう。もっとも、もう何もないだろうが。

 先生の家は地下室があった。そこは大丈夫のようだ。丸裸になっている。資料がある。なんだこれは。「化け物になる薬」だと?あの化け物たち全員に飲ませたのか。ということは、この薬を先生はみんなに飲ませたのか……?酷い。可哀想だ。しかし、最後は自分であの薬を飲んだのか?なんのメリットがあるって言うんだ。これは薬の成分か。よく分からない。あ、効果が書いてあるじゃないか。何?飲んだ人は薬を飲んでいない人が化け物に見えるようになり、飲んでない人は、飲んだ人をみると殺したくなる、だと?いつ飲まされたんだ?あぁ、あの時か。あの時先生はご飯に薬を入れていたのか?あぁ、地獄だ。どうやって生きていこう、ここは地獄だ。最悪だ。眠い……

 あぁ、眩しい。

 僕は罪のない一般人を殺してしまったのか……あぁ、あぁ、あぁ、あぁ、僕は悪魔だ……もう嫌だ……全てが……自分が……嫌だ……嫌だ……何もかも……いやだ……いやだ……あぁ…………

 僕は椅子を蹴った。




















 第五章・地獄


 あぁ、眩しい。

 僕は死んだ後、罪のない人々を殺したので、殺した人の数の分だけ殺されることになった。

 僕が殺した人の数は、七十二億一千五百三十九万五千百八十八人。

 上から僕に殺された人が僕のことを見ている……あぁ、あのいじめっ子もいる……あぁ、あれはお母さんじゃないか……いやだいやだ……逃げたい……ここからから……でも逃げれやしない……


 あと七十二億一千五百三十九万五千百八十五回。

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盲目 わをん @kaerukunn

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