妄想無双

甘宮 橙

第1話

 俺には三分以内にやらなければならないことがあった。

 ウェブ小説サイトのコンテスト用原稿を書き上げることだ。締切の時間はあと三分。出すからにはギリギリまで粘って優勝を狙いたい。

 

 もちろん内容は書き上げている。だが重要なのはタイトルだ。ここを疎かにするとせっかくの俺の力作がパーになる。仮につけたタイトルはこんな感じだけど……。


『クラスが転移に巻き込まれたが俺だけ欠席してボッチな件』


 弱いよなぁ、ちょっと。もう少しカタルシスを入れたいな。じゃあ、こんな感じでどうだろう?


『クラスが転移に巻き込まれたが俺だけ欠席してボッチな件 どうやら憧れのあの子は異世界でサッカー部のイケメンとイチャコラしているもよう』


 よし! いいぞ! 傷口にタバスコぶっかけたように強烈なカタルシス!

 これで投稿するぞ! とマウスをクリックしようとして思いとどまった。


 今の流行りってどんな感じなんだろう?

 

 弱気になったわけではないが「敵を知り己を知れば百戦危うからず」って言うしな。使い方合ってるか分からないけれど?

 サイト内のランキングや人気のタグ等にさっと目を通す。

 ……やっぱ「無双」とか入れた方がいいんかな? スローライフとかも流行ってるみたいだけど……。よし! やれることは全部やろう。俺のタイトルも目を引きやすいように微修正するか!


『クラスが転移に巻き込まれたが俺だけ欠席してボッチな件 どうやら憧れのあの子は異世界でサッカー部のイケメンとイチャコラしているもよう 一方俺はと言えば、ひとり取り残された世界でスローライフ無双』


 パソコンに打ち出されたタイトルを確認した瞬間、俺の体を電流が走った。

 こ、これ取れちゃうんじゃね? 優勝。 ビビッと来たわ。俺の才能マジで怖い。


 そんで書籍化されて、話題になって有名作家の仲間入り。って、それどころじゃねぇぞ。アニメ化とかされたらどうしよう。今、女の子にもアニメって人気あるからなぁ、俺めっちゃモテるかも?

 ボッチの話書いたら現実でハーレム築いた件……って俺の人生ラノベかよ。


 いや……いやいや、待てよ。今週刊誌とかで浮気とかめちゃくちゃ叩かれるからな。ハーレムはヤバいか。俺の推しのアイドルがアニメ好きだから、声優に推薦してお近づきになって、それからメイクラブみたいな展開が理想かな?やっぱ純愛だよな。ハーレムなんていらん!


 ってまずい。つい妄想にふけってしまった。締め切りまで後、何分だ?時計に目をやると……大丈夫、まだ三分ある。


ん?


 俺の時計が止まっていた件…………。

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