第17話 花束と涙

 卒業式。ユエは花束を抱えて卒業生の中にいる霧河きりがに声をかけた。

『ご卒業おめでとうございます。』

 手渡した花束に霧河は嬉しそうに笑う。

『ありがとう。で、答えはもらえるかな?』

『はい・・・先輩、すいません。』

『そっか・・・その後は言わなくていい。おめでたい感じで送り出してくれると嬉しいな?』

 気を使ってくれたのか、霧河は遠くを見ると頷いた。

『はい、色々とありがとうございました。霧河先輩と過ごせて楽しかったです。』

『うん、俺もそうだよ。ありがとう。』

 霧河と別れ、ユエは教室に戻る。そこには本を読んでいるろうがいた。静かな教室にぽつりと座っている。

『狼君、待っててくれたの?』声をかけると狼は顔を上げにこっと笑った。

『うん、大きな花束渡してきたんだろ?ちゃんと渡せた?』

『うん。喜んで貰えた。』

『そっか。』

 ユエはゆっくりと狼に近づいた。狼は何も言わずにじっとユエを見ている。

 いつもこんな風に待ってくれている。バレンタインの後、虎二とらじから電話で聞いた。狼はバレンタインの日、女子が持ってくるチョコレートを全部断っていたと。

 真摯に謝って、もらったのはたった一つ。ユエの小さなチョコレート。

 狼は虎二に言ったそうだ。

『これが一番欲しいチョコレートだから。』って。

 それからずっと考えていた。ユエの心に一番近いのは誰か。

 あの日、虎二が伝えてくれたようにユエも心から素直になろうと思った。

『狼君。あのね?』

『どうしたの?』

 狼が机に腰掛けて少し視線を下げた。両手を足の上で組んで微笑む。

 ユエは両手を組むと何から切り出そうか言葉を捜した。

『ユエちゃん、俺が先に話をしてもいいかな?』

『うん。』

 そういわれて顔を上げると狼がはにかむ。

『まだホワイトデーじゃないけど、チョコレート美味しかった。ちゃんとお返しはするけど・・・伝えておきたかったんだ。』

『ありがと・・・嬉しい。』

 なんだか顔が熱くなって顔をあげられなくなってきた。視線を落として狼の手を見る。大きな手がぎゅっと重なりあっている。

『ユエちゃん、先輩に告白したの?』

『う、ううん、してない。』

 俯いたまま首を横に振る。頭の先で大きな溜息が聞こえた。おそるおそる顔を上げると狼は心底安心した顔をして笑った。

『よかった・・・。』

『よかった?』

『うん、先輩ならユエちゃんを任せられる。でもそんなの嫌だった。』

 狼の両手が外れてユエの手に触れた。熱い手に心臓が走り出す。

『譲るなら虎二がよかった。でも俺は諦められなかったんだ。』

『狼君?』

『知らなかった?俺の気持ち。ずっとユエちゃんを見てたよ。ずっと好きだった。』

 優しい声に視界が滲んだ。

『うん。』

 狼の手が優しくユエの手を包み込む。

『俺はユエちゃんを守るよ、俺がいない時は虎が君を守る。でもいつも傍にいるのは俺がいい。』

『うん。』

『ユエちゃん、俺の彼女になって。一緒にいよう?』

 ユエは涙が零れるのを我慢できずに俯いた。

『うん、一緒にいたい。』

 そう言って泣きながら笑ってしまった。

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