第14話 優しいね

『さむっ・・・。』

 ハッと目が覚めて自分が教室で眠ってしまったことに気付き顔を上げる。ユエは周りを見渡すと教室のドア付近、椅子に座って本を読んでいるろうに気付いた。

『狼君?』

 狼は視線を上げて本を閉じた。

『おはよう。』

『お・・・はよう、ってどうしているの?』

『内緒。』

 本を鞄にしまい狼が立ち上がるとユエの傍に来た。

『帰ろう、もう遅いし。』

『うん・・・。』

 帰り支度をしてコートを羽織ると二人並んで学校を出た。日が落ちて随分と暗い。部活の生徒たちも下校している時間だった。

『ごめんね?待っててくれたんだよね?』

 ユエが狼を見上げると狼はただ首を横に振る。

『別に・・・そんなこと気にしなくていい。俺は好きでしてることだし。』

『でも・・・風邪引いちゃったら。』

『それはユエちゃんのほうだろ?教室で寝るなんて。』

 そういえば霧河きりがが『外で誰かさんが待っている』と言っていたが狼のことだったんだろうか?だとすれば随分と長い間待ち続けていたことになる。

『狼君。』

『うん?』

『ありがとう。』

 ユエの言葉に狼は優しく微笑む。

『うん・・・いいんだ。そんなことはさ。』

 ゆっくりと歩幅をあわせてくれているのか狼は時々ユエのほうを見る。

『狼君は優しいね・・・。』

 思ったことが零れ落ちた。

『うん。ユエちゃんだからね。』

 今までに聞いたことのないほど優しい声にユエは足を止めた。その時ゆっくりと狼の顔が近づいて額が触れた。息が触れてしまいそうなほど近くに狼の唇がある。

『俺はさ、ユエちゃんだから優しいんだよ。覚えておいてね。』

『うん・・・。』

 狼は体を起こすと恥ずかしそうに笑う。

『なんかキザだったな。』

 その言葉にユエもつられて笑う。

『ううん、狼君は格好良いよ。キザなんかじゃない。』

『そうか。』

 二人は顔を見合わせて笑うとまた歩き出した。

 その夜、ベットに入ったユエは沢山の事を思い出していた。中学生の頃に優しくしてくれた虎二とらじと狼。いつでも見守り助けてくれた。

 そして高校生になって出会った霧河。誰よりも大人で優しい頼れる人。

 誰かを選ぶなんて、本当は自信のないユエには夢のような話だ。

 求めてくれるならそう思いかけて、ふと以前のことがちらついて両手で目を覆った。酷く詰る言葉が体中を支配する。聞こえもしない声がした気がして耳を覆う。

 どうして?こんな時に思い出すの?どうして私は忘れないの?

 涙が溢れてぼろぼろと零れ落ちた。

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