第13話 天秤

 正月明けの登校、久しぶりのクラスメイトたちに挨拶を交わしながら席についた。どこか正月ボケの子もちらほらいて教室はまったりしている。

 教室のドアの傍で名前を呼ばれて見ると霧河きりががいた。

『こんにちは、霧河先輩。』

 ドアの傍に駆け寄って軽く会釈する。霧河は少し雰囲気が変わったのか大人っぽかった。

『久しぶりだね、今日は時間ある?』

『はい。でも・・・お正月結構食べちゃったからケーキは駄目ですよ?』

『アハハ、それは俺も同じ。少し話でもしないかなって思って。』

『・・・ええと。』

『そんなに気負わなくても大丈夫だよ?別に返事が欲しいとかじゃないから。』

 ユエが苦笑して頷くと約束をして霧河は行ってしまった。

 放課後、帰り支度を済ませて教室で霧河を待っている。教室はがらんとして人がいないとこんなにも静かなんだと思い知らされた。窓際の席に座りぼんやりと外を眺める。ガラッとドアが開くと霧河が入ってきた。

『ごめんね、待たせちゃって。』

『いいえ、大丈夫です。』

 霧河はユエの前に座ると同じように窓を外を眺める。

『ここからはよく見えるね?いい眺めだ、ユエちゃんの席なの?』

『はい。夏は少し陽射しがキツイですけど冬は暖かくて好きです。』

『そうか・・・。』

 教室のドアのほうを向き霧河は足を組む。机に右手で頬杖をついて息を吐いた。

 その顔に疲れが見える。

『先輩、なんだか疲れていますか?』

『ん?ああ・・・そうだなあ。受験もあるし、生徒会の仕事も引き継ぎで忙しい。なんだかんだあって・・・うん、疲れてるんだろうなあ。』と小さく息を吐く。

『まだ休めそうにないですもんね?』

『まあね。ユエちゃん、今日はね、君と話をしたいって言ったじゃない?』

『はい。』

『あれはさあ・・・俺は君が好きなのは本当なんだけど、君が誰を見ているのかもわかったからなんだよね・・・。』

『え?』

 霧河の言葉に心臓が走り出す。

『先輩何を・・・。』

『君は選べないんだろ?中山なかやま君と間山まやま君、どちらかなんて。』

『や・・・ま、待ってください。とらちゃんもろう君も幼馴染で・・・。』

 言葉を紡ごうにも頭が回らなくてしどろもどろに声になる。

『ほら、ね?』

『ち、違いますよ!ちが・・・。』

 否定しようとすると霧河の指先がユエの唇に触れた。

『俺はさ・・・百戦錬磨ってわけじゃないけど、好きな子が誰を見てるかなんてわかるよ。特別な視線ってわかるから。君は中山君と間山君、どちらも好きなんだろう?けど二人ってのはいただけない。だからさ、俺にしなよ。』

 霧河がにっこり笑う。

『俺はユエちゃんを傷つけたりしないし大事にする。君が二人を思ってても振り向かせる自信はある。でも君が選んでくれなければそうもいかない。』

 霧河の手が頬に触れた。

『選んでよ、俺の事。本当は期限なんてつけたくない。でもそうしないと君は動かないだろ?だから考えて欲しい、俺のこと。好きになって欲しい。』

 真剣な眼差しにユエは俯いた。心臓が早いのはただ動揺しているから?それともこの人の思いに触れたから?

『もっと話したいけど今日はもうこれで帰るね。俺が送らなくても外で誰かさんが待ってるから。』

 霧河は笑うとユエの頭をぽんぽんと叩いて教室を出て行った。

『熱い・・・。』両手で顔を押さえて俯いた。真剣な言葉、考えて欲しいと言われてそうしなくちゃいけないと自分自身が言っている。机に突っ伏すと大きな溜息が出た。窓の外を見つめて、ただぼんやりと目を閉じた。

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