魔法少女りりす!

にゃべ♪

魔法少女をスカウトするホ!

 魔法少女マスコット候補生のトリには三分以内にやらなければならないことがあった。そう、それは自分がサポートする魔法少女を見つけること。タイムリミットを過ぎると失格となり、マスコットの資格が失われてしまうのだ。

 マスコットになるために長年努力してきた彼は、このチャンスをどうしても失いたくはなかった。


「もう時間がないホ。どうにかして、誰でもいいから魔法少女にするホ!」


 トリはキョロキョロと周りを見渡す。もう本来の対象である少女にこだわりはしない。幼女でもおねーさんでもおばちゃんでもおばあさんでも何ならおっさんでもいい。とにかく次に目にした人を魔法少女にすると意気込んでいた。

 そんな焦りまくりの彼の背後から、可愛らしい少女の声が届く。


「何でこんな所にぬいぐるみ? 誰かが落としたのかな?」


 その声が耳に届いた瞬間、トリは反射的に振り返る。彼の目に映ったのは、中学生くらいの背格好のメガネ少女。髪型や服装は地味だけど、とても優しそうな雰囲気を漂わせていた。この子なら問題ないとトリの直感は訴える。

 そこで、キョトンとしている彼女に向かってトリは右翼を指した。


「君に決めたホ!」

「ぬいぐるみがシャベッタァァァ!」

「失礼な! 僕はぬいぐるみじゃないホ! 魔法少女のサポーターフェアリーホ!」

「魔法少女?」


 トリに一方的に捲し立てられた少女は小首をかしげる。この間にも時間は過ぎている。タイムリミットが近付いていたので、細かく説明する時間はなかった。

 彼はすぐにステッキを出現させると、速攻で少女に握らせる。


「それで変身するホ! 時間がないホ!」

「え? 変身?」


 少女は混乱していた。そりゃそうだ、いきなりステッキを渡されてすぐに変身出来る訳がない。それが普通の反応。しかし、トリには時間がなかった。多分後ニ分くらいしかない。マスコットとして認定されるには、対象の人間がステッキを使って変身して、その上で名乗りを上げなくてはいけないのだ。

 彼はどうやって少女に変身してもらえばいいのか、いいアイディアが何も思い浮かばなかった。焦っていると更に頭の中が真っ白になる。残り時間はどんどん減っていく。


「君には才能があるホ! 説明は後でするから今すぐ変身してくれホ!」

「えーと……。どうやって?」


 トリがあまりに困っているので、少女は試しにステッキを振ってみた。しかし、疑心暗鬼の状態で杖を振っても、いたずら防止の安全装置が働いてステッキは反応しない。

 少女はこの結果に大きくため息を吐き出した。


「ダメじゃん」

「本気で信じなきゃ変身出来ないんホ!」

「それってサンタさんを信じてる的な? じゃあ私には無理だよ」

「君にしか出来ないホ!」


 もう他の候補者を探す時間はない。だからこそ、トリは目の間の少女の背中を押して押して押しまくる。変身方法が分からなければ実演するしかないと考えた彼は、自らステッキを握った。


「いいホ? 今から僕がやってみせるから、よく見ておくホ!」

「うん……」


 トリは出現させたステッキを頭上に掲げ、クルッと回す。それから自らの身体を回転させながら、ステッキをフィーリングで振り始めた。やがてステッキの先から光が発光し始めて、その光も徐々に強くなる。

 ある程度の光量になったところで、彼は満を持して変身呪文を唱えた。


「マジカルフィジカルトロピカル~♪ 魔法少女に変身ホ~!」


 呪文を唱え終わったところでトリがもう一度ステッキを頭上に高く掲げると、ステッキの先から光がレーザーのように上空に放出される。

 この光景を見た少女は、目の前で起こったアニメのような状況に目を奪われていた。


「すご……」


 しかし、次の瞬間、天空から発生した強力な稲妻が彼に直撃する。この電撃を受けて無事で済むはずもなく、トリは一瞬でまっ黒焦げになってしまった。これはマスコット自らが変身する事を禁じたステッキの仕様だ。

 彼もその事は知っていたものの、早く魔法少女を見つけようと焦るあまり、記憶から飛んでしまっていたのだ。


「イヤアアアア!」


 マスコットは黒焦げになったくらいでは死なない。けれど、その光景を目にした少女は怖くなって逃げてしまった。きっと自分も同じ目に遭うと思ったのだろう。


「そんな、逃げないで……ホ……」


 少女が逃げた時点でトリの気力は尽きる。残り時間は後15秒。ここから魔法少女に興味を持つ人を探して、魔法少女になって宣言してもらうのはどう考えても不可能だ。


「もうダメホ……。儚い夢だったホ」


 何もかもあきらめて倒れ込んだ彼の脳内で、走馬灯のように今までの思い出が再生されてく。子供の頃にマスコットになると決めたこと、マスコット養成学校での日々、難しかった卒業試験、どんどんマスコットになっていく同級生達、ひとり置いていかれた後の惨めな日々――。


「何だかんだ言って、結構楽しかったホ……」


 トリは思い出をぐるぐる巡らせてまぶたを閉じる。その時、握っていたステッキを誰かが奪い取った。普段ならすぐに起き上がって奪い返そうとしただろう。けれど、今のあきらめきった無気力な彼はピクリとも動かない。


「ふーん、面白そーじゃん」


 ステッキを奪い取ったのもまた少女だった。さっきのメガネ少女と違って服装も髪型も垢抜けていて、元気で明るい陽キャっぽい雰囲気だ。

 彼女は軽くステッキを振って、呪文も唱えずにサクッと変身する。


「魔法少女りりす! これでいい?」


 この時、トリの脳内にマスコット承認の言葉が響く。どうやらギリギリで間に合ったらしい。棚ぼた的なこの状況を受けて、彼は反射的に起き上がった。


「ホ?」


 起き上がったトリは、何の説明もなしに勝手に魔法少女になった少女を見つめる。少女も真っ赤な魔法少女衣装のまま、ぬいぐるみのような妖精を見下ろしていた。

 トリが起きがったのを確認した少女は、笑顔を浮かべて片手を上げる。


「よ!」

「お前は魔王軍幹部のリリス! 何勝手に魔法少女になってるホ!」

「気付いたんだよ。あーし、こっちの方が合ってるって。よろしくな!」


 そう、トリのステッキで魔法少女になったのは、敵側の少女幹部だった。まだ戦いに参加していない彼が知っているくらい悪名高い実力者だ。

 ただ、その話しぶりからすると、魔王軍を裏切って味方になったと言う事らしい。


「敵の言う言葉なんて信用出来ないホ」

「なんだよー。あんたを助けてやったのに」

「あんたじゃないホ! 僕の名前はトリだホ!」

「じゃあトリ! これからよろ~!」


 こうして、トリは元敵幹部のサポートマスコットになってしまった。リリスは敵の頃から何を考えているのか分からない存在で、それは魔法少女側になっても何ひとつ変わってはいない。

 トリは頭を抱えるものの、彼女が魔法少女に認定された以上は、ずっとサポートするのがマスコットの仕事だ。それをこなしつつ、おかしな動きがあればすぐに止めなくてはならない。


「とんでもないことになってしまったホ」

「あーしが魔法少女になったからもう余裕っしょ。良かったな、トリ!」

 

 リリスはトリに向かってサムズアップをする。それを見たトリは気持ちを切り替え、彼女を一人前の魔法少女にすると誓ったのだった。



(おしまい)

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