エージェント六畳一間

たたみや

第1話

 さすらいのエージェント六畳一間ろくじょうひとまには三分以内にやらなければならないことがあった。


 颯爽とコンビニエンスストア『七十一ななじゅういち』に入店し、お目当ての商品へとたどり着く。

 お目当ての商品は何とドリンクと錠剤の精力剤。

 パッケージにはマカ、亜鉛、すっぽんエキスなど錚々そうそうたる滋養強壮効果のある材料が書かれている。

 名前に『凄一四すごいよ』と書いてあるくらいだからすごいのだろう。

 ぶっちゃけいつもお世話になってます。

 何のためらいもなく一間は『凄一四』のドリンクと錠剤を手に取り、レジに向かう。


 その表情には恥ずかしさも、後悔も、そして何のためらいもない。

 彼はエージェントなのだ。

 目的のためなら手段を選ぶ必要など、どこにもないのだから。

「いらっしゃいませー、袋はお付けしますか?」

「結構です」

 店員が商品を手に取り、バーコードを読み込ませる。

 こちらのことなど一瞬たりとも見てくれない。

 もしかしたら商品を見て、内心バカにしているかもしれない。

 だが、それでいいのだ。

 所詮は店員と客。

 刹那的な関係でしかないのだから。


 一間はいつものようにクレジット決済を選択し、カードを読み込ませる。

 便利になったことは間違いないのだが、今は正直この読み込む時間すら惜しい。

「レシートいりますか?」

「いらないです」

 一間は振り返ることなく『七十一』を後にする。

 そして店を出るなり『凄一四』のドリンクと錠剤を手に取り、錠剤を口に放りドリンクで流し込む。

 慣れた手つきはもはや芸術の域だ。

 褒めたって何も出てこないのだが。

 ドリンクの少し苦い感じが口の中に広がる。

 だが、彼からすればもはや何度感じたことか覚えていない。

 それでも、体の中からこみあげてくるものが確かにある、ということだけは分かる。


 それが彼、ふーぞくおじさんこと六畳一間のミッション。

 ここまで来れば後は目的地へと足を運ぶだけだ。

 正直ルンルン気分だ、おじさんのくせに。

 それでも、この三分間だけは毎回欠かさない。

 なぜなら、この三分間こそが極上の女性と至高のひと時を楽しむために必要不可欠な彼のルーティンなのだから。

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エージェント六畳一間 たたみや @tatamiya77

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