忘れてしまった。

阿井上夫

忘れてしまった。

 私には三分以内にやらなければならないことがあったはずなのだが、最近物忘れが激しくて忘れてしまった。とても重要なことだったように思う。いや、重要だったかどうかもおぼつかない状態であったから、実際はそんなに重要なことではないのかもしれない。その点は思い出せないものの『やらなければならない』という焦燥感は鮮明に感じていたし、『三分以内』という条件もやけにはっきりと脳裏にこびりついている。二分でも四分でもなく、三分である。これは疑いようがない。しかし、どうして『三分以内』でないといけないのかが分からない。しかも『以内』というのが、これまた曲者である。本来は『二分以上、三分以内』という条件で、達成時間が短すぎた場合も何らかのペナルティを課される可能性が無きにしも非ず。となれば、早すぎず遅すぎず、二分五十五秒から三分の間に成し遂げるのが良いのかもしれない。『ジャスト三分』でなくてよかった。いや、待てよ。そもそも何を三分以内にしなければならないのかが分からないわけだから、それが二分五十五秒から三分の間に完了可能かどうかも怪しい。しかも、既にここまでで二分を使ってしまっており、残りは一分、いやいやそうこうするうちに残りは五十五秒である。もはや余計な事を考えたり、やったりしている時間的な余裕はないのかもしれない。というより、既に手遅れになっている可能性すらある。いやいや、だからそんなことを考えている場合でもないじゃないか。ともかく、三分以内になんとしても完了しなければ……完了しないからどうだというのだ。やらなければならないのかもしれないが、やらなかったからといって甚大な被害が出るほどのことなのか。実は「あっ、ごめん」で済む程度のことなのではないか。だったらまあ、いいか。よくわからんが、目の前にある『青い線と赤い線がついたデジタル表示装置が、いままさに零になろうとしている』こととは、関係があr

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