トラブル×トラブル×トラブル

あゆう

マジでどうする?三分前

 俺には三分以内にやらなければならないことがあった。


「ちいっ! どこだ!?」


 それはついさっきお湯を入れたばかりのカップ麺を食べるための箸を探すこと。


 ちなみに俺はいま、自分の部屋にいる。それなのになぜ箸を探さなければいけないのか。

 答えは簡単だ。この部屋に引っ越してきたのが今日だから。

 しかもついさっき引っ越し業者を「おっつかれさまでした〜!あ、これ皆さんで飲んでください」と、箱買いしたコーヒーを渡しながら爽やかスマイルで見送ったとこ。

 つまりこの部屋には現在、備え付けの家電と未開封のダンボールしか無いのだ。


「ちっ! なぜ俺はダンボールに何を入れたのか書いてなかったんだ!」


 そんな後悔が俺を襲う。しかし今更だ。

 すでにお湯は入れられた。時間内に箸を見つけ出せなければ麺が汁を吸って伸びてしまう。そうなればカップ麺の容器ギチギチになった麺をモサモサ食わなければいけない。


 そこでふと思う。なぜ来る途中に寄ったコンビニでカップ麺を買ったのか。なぜ俺好みなレジの可愛いギャルの「お箸はお付けしますか〜?」に対して「あ、いいです」と言ってしまったのか。黙ってコンビニ弁当を買えばこんなことにはならなかったのではないか? と。


 いや、確かに選択肢の中には弁当もあったんだ。なのに何故……と、そこで思い出した。何を食べるかの吟味中にかかってきた電話のことを。


「はいはい。母ちゃんなに? もうちょいでアパート着くとこなんだけど」

「あーまだなのね。ちょうど良かった。さっき電話来てね? 水道と電気通ったみたいよ。ガスは立ち会いが必要だから明日だって」

「まじで? 水道とかも明日って言ってなかったっけ? だから今日はネカフェにでも行こうと思ってたんだけど」

「それじゃあお金勿体ないでしょう? だからちょっと催促しちゃった♪」

「さすが母ちゃん! さんきゅ〜!」


 ここだ。ここで判断を誤ったんだ。

 この電話を受けた時に俺の脳裏に浮かんだのは、


(水道と電気がきてるならケトルでお湯湧かせるな。弁当よりカップ麺の方が安いからそっちにしとくか)


 だ。

 そこで俺は冷蔵コーナーに伸ばしかけていた手を引っ込め、後ろの棚のカップ麺に手を伸ばしてしまったのだ。


「弁当なら……弁当なら箸が付いて来たのに! 電子レンジもあったから温めるだけで良かったのに! って後悔してる場合じゃないな。えっと、この箱は服か。こっちは……本だな。食器類のダンボールはどこだぁ!?」


 タイマーを見ると既に二分が経っていた。残り一分。少し大目にみたとしても四分が限界。つまりあと二分以内に箸を見つけないといけない。

 俺はその事に焦りながらも、次々とダンボールを開けて中身を確認して行く。こういう時に限ってガムテープが上手く剥がせない。

 そして五つ目のダンボールを開けた時、コップが見えた。そしてそのすぐ横には、細い棒状のビニールの袋。

 やっとだ。やっと見つけたのだ。箸を。


「あ、あったぁ!」


 やっと見つけたことに歓喜した俺はソレを握りしめ、三分二十秒経ったカップ麺の前に座って手にした袋を見る。そして絶望した。


「んなっ……」


 俺が握りしめたそれは…………トラベル用の使い捨て歯ブラシだったのだ。

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トラブル×トラブル×トラブル あゆう @kujiayuu

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