走れ!高校生

功琉偉 つばさ

走れ!高校生

愁斗しゅうとには三分以内にやらなければならないことがあった。


それは…


学校に行く準備だ! いや家を出発することだ!


もちろんそんなことはほぼ不可能である。


しかし、もう朝ご飯は食べた。


もうと言う表現は適切ではないかもしれない。なぜならこの男、長谷川愁斗は家を出る30分前にはもうご飯を食べ終わっており、


「何だ全然間に合うじゃん。」


と高をくくってのんきにゆっくりと準備をしていたのだ。


なぜ三分以内かと言うと電車が出てしまうからでも、友達との待ち合わせがあるからでもない。


急ぐ理由は唯一つ。


朝7時半開店の人気のクレープ屋の限定クレープを食べるためだ!


何回もチャレンジをした。でも開店前の10分前に行っても間に合わなかった。


しかし、今日、只今の時刻は6時57分!


クレープ屋まで全力疾走で10分。開店の20分前には着く予定だ。


「ならもっと早く出ればいいじゃないか。」


という人もいるだろう。しかし、この元気な男子高校生、長谷川愁斗は朝に弱い!


しっかりと起きれるように朝の5時半にアラームが大音量で鳴り、またさらにそこから10分ごとに同じようにアラームが鳴るようにしている。

それに前日の就寝時間はなんと、小学生とお同じくらいの21時!


それでもこの男は朝には全く覚醒しない。


何重もののアラームのおおかげで、6時に目が覚まされ(この時点で自発的ではない。)そこからキンキンに冷えた水で顔を洗う(普通の人ならこの時点でしっかりと目が覚めるはずだ。)


その後お母さんにとっても濃いブラックコーヒーを出してもらい、トーストと目玉焼きで朝食をとる。(なんとこのときでも目は半分しか空いていない。)


そこから制服に着替え…

(ここらへんで6時30分くらいだ。)


なので余裕があるとまだ目覚めていない脳が勘違いしてしまい、ゆっくりと準備をしてしまう。


そして今、6時57分、愁斗はまたもやクレープを逃す危機にひんしていた。

(男子高校生は概してと「大丈夫大丈夫」とかいって何もやらず、ギリギリになったところで急に目覚める人が多い。(はずだよね? 少なくともこの男はそうだ。))


リュックを右肩にぶら下げ、6時59分、スマホを片手に風のように走り出す。


「行ってきます!」


「いってらっしゃぃ(バタン!!)」


(意外と真面目でしっかりと行ってきますは言う。)


クレープ屋まで10分。道のりで約800m その間に信号は…ない。


愁斗は住宅街の中を走り抜けていく。


愁斗は家から電車で行く学校に通っている高校1年生だ。


2ヶ月前の7月、愁斗は家と駅までの間にクレープ屋があるのに気がついた。


そして彼はその虜となってしまった。


この2ヶ月間でほぼすべてのクレープを食べ、そして残るは数量限定のクレープ、今目指しているものだけになった。


このクレープ屋はとても人気で、開店10分前には列ができている。そして瞬く間に数量限定のクレープがなくなる。


購入しているのは主に朝の散歩で来ているおじいさんおばあさんたちだ。(皆さん朝4時起きだそうです。)


そのおじいさんおばあさんたちにこれ以上負けてはいけない。


数量は限定なんと15個。小さな個人経営なためそこまで多くは作れないらしい。


お目当ての数量限定は具だくさんフルーツ味。


前日で残ったフルーツと特製の生クリーム、カスタードをふんだんに使用した愁斗にとっては幻の逸品だ。


お値段は250円。他の常時販売しているものは220~480円でその中では比較的安価だ。


そんなこんやで愁斗は走る。バスケ部に入っている彼は外周などでこのクレープを買うために持久力を、速さを鍛えている。


ただいま7時5分。あとは駅前通りの一直線に差し掛かった。


そして7時10分。ついにクレープ屋に着いたがまだ誰も居ない。


「よっしゃ!」


歓喜の雄叫び(近所迷惑にならないくらいの)をあげ、店の前にたった。


10分後 


いつもはもっと並んでいるのだが、だけも並んでこない。おかしい、と思って店の中を覗こうとすると何やら扉に何かが貼ってあるのに気づいた。


「娘の誕生日があるため本日、9月15日から2泊3日、9月18日迄、誠に勝手ながら臨時休業とさせていただきます。了承ください。」


愁斗の努力はすべて水泡に帰した。


・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・


「ま〜た失敗したのか。もうちょっと計画的にな。」

そう言って同じバスケ部の1年生達は笑っていった。


「次こそ〜」


そして9月19日…


愁斗には三分以内にやらなければならないことがあった。


ただいま6時57分・・・・・・


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