本日のミンナは魔王討伐の儀
葛鷲つるぎ
第1話
ミンナには三分以内にやらなければならないことがあった。
魔王討伐である。
伝統に則って儀式を執り行い魔王を討伐すれば、辺り一帯の土地が手に入るのだ。
魔王領の土地は魔物が跋扈する分、魔障は酷いが潤沢な魔法資源が眠っている。魔力の濃さによる障害は邪気となって人々を苦しめるが、浄化すれば良い。土地の使い道はいかようにもあった。
「ふっ」
ミンナは剣を振るう。
魔法の扱いに優れたエルフの魔法によって磨き上げられた片刃の剣が、魔王の角をスパっと斬った。
残り二分。
ミンナは人間の少女だった。齢十七。後ろに高く一つに結った白と黒のだんだら模様の長い髪をなびかせ、跳躍。回転して魔王の斬撃を回避する。
人間の女としては同じ種族の男並の長身で、黒一色の装束がひるがえる様は舞のように映えた。黒装束は魔王を弔う喪服の黒だ。刀は鞘ごと白かった。こちらは魔王討伐の儀式、神への奉納を示す白である。
「小癪な……」
紅い瞳の魔王が呟く。魔王は人型の異形だった。
蹄の足。頭部から、白い縞模様の大きな角。二本生やしていたが、先ほどミンナが一本斬った。身体全体は漆のような艶と硬質で滑らかな質感の肌と毛を持ち、両刃の剣を握る手と正面の顔だけが、人間と同じ肌の質感と色、面立ちを見せている。
残り一分。
「終わりだ」
「その百の命ごと、消し炭にしてくれる……!」
魔王が吐き捨てる言葉。ミンナは不敵に笑う。
「残念だが、最初から一つさ」
少女は全員で、一つの命。
だから油断はせず、ミンナは刀を構える。
そうして魔王を斬り捨てた瞬間、空間は歪んだ。
ミンナが居た場所は薄暗く淀んだ石造りの城から、白く塗装された木組みの町並みになる。
「ほ、本当に、たったの三分で……!」
ミンナを取り囲んでいた兵士が声を上げた。
魔王領は王国領であるとの主張とぶつかり、ミンナが古の儀式を盾に強行した結果である。
これで、養い親に恩返しが出来る。
ミンナは不敵に笑った。
伝説の始まりである。
本日のミンナは魔王討伐の儀 葛鷲つるぎ @aves_kudzu
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
カクヨムを、もっと楽しもう
カクヨムにユーザー登録すると、この小説を他の読者へ★やレビューでおすすめできます。気になる小説や作者の更新チェックに便利なフォロー機能もお試しください。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
同じコレクションの次の小説
関連小説
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます