誰しも一度は経験している?
田中勇道
思い出せない
僕には三分以内にやらなければならないことがあった。それが何だったか思い出せない。
ないだろうか、何か作業をしようとして「あれ? 何しようとしてたっけ」という経験。僕は今その状況にある。
とても重要なことなのは確かだ。だって「やらなければならないこと」なのだから。
日付と時刻は正確に覚えている。だが、何をやらなければならないのかが思い出せない。致命的だ。
そもそも、やらなければならないことを普通忘れるだろうか。僕の記憶力が悪いとかではない。もしかしたらそれほど重要なことではないのかも。
しまった。悠長に自己対話なんてしてたら三分なんてあっという間だ。三分もあればカップラーメンができるし、ウルトラマンなら怪獣は一体倒せる。
まあ、ウルトラマンの場合三分以内に倒さないと地球が危ういから「やらなければならないこと」に含まれるだろう。だが、僕はウルトラマンじゃない。地球はいたって平和だ。
違う! 今はそんなことを考えている場合ではない。とにかく何をやるのかを思い出さないことには何も始まらない。
残り時間は何分だろう。ここまで500文字分は喋っただろうか。人間が一分間に読める文字数がだいたい400文字ぐらいだからあと二分もないな。知らんけど。
部屋は真っ暗で何も見えない。というか、さっきから僕が一方的に話してばかりだ。こんなの、地の文しかない小説を読んでいるのとそう変わらない。せめて会話文を挟まないと読者が離れるぞ。僕は誰に話しかけてるんだ。
くそっ! もう時間がない。別に三分過ぎたからといって地球が危機に陥ることはないし誰かの命が奪われることもない。が、誰かが困るかもしれない。もう喋るのも辛くなってきた。僕はタレントや落語家みたいな喋る仕事は向いていないのかもしれない。と、ふいに部屋の明かりが点いた。そして僕の体が持ち上げられる。
「おかしいな。スマホのアラームセットしたはずなのに。……ま、起きれたからいいや」
誰しも一度は経験している? 田中勇道 @yudoutanaka
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