【KAC20241】デスゲーム残り三分

こなひじきβ

デスゲーム残り三分

 デスゲーム主催者には三分以内にやらなければならないことがあった。


「お前らもういい加減死んでくれよ! 次の参加者が控えてんだよ!」

「はっはっは! あの程度の仕掛けで死ぬわけにはいかないな!」

「なんなんだよこいつらはぁ!?」


 予定であれば既にゲームを終えて死んでいる予定だった参加者三人が、想定外にとことん粘ってくるのである。


 一人目の剛力鉄也ごうりきてつや。鉄也は主催者の用意したゲームをクリアしているわけではない。罰ゲームとして執行されるデストラップを悉く力業で回避していたのだ。今も全身の筋肉を隆起させて自信満々な様子である。


「床が開いて下の棘で串刺しになるはずが二人背負って壁に引っ付いて耐えるわ、部屋が水浸しになって窒息死するはずなのに壁を素手で壊して台無しにするわ、こいつバケモンかよ!?」

「はっはっは! 日頃の特訓の成果だな!」

「嫌だ! 極限状態の中で頭を使わせるという私のデスゲームの醍醐味が、こんな知能ゼロの脳みそ筋肉野郎に突破されるなんて冗談じゃないぞ!」


 二人目の知識広尾ちしきひろお。広尾は主催者の求めている通りにゲームをどうにかクリアしているのだが、とにかくうんちく話が長すぎる。大きな四角眼鏡を光らせながら、彼はまだまだ喋りたそうにしている。


「確かに話し合い等は好きにしろと言ったけど! 一個のゲームにつき二時間はしゃべりすぎだろ! ひたすらこだわってゲーム作った私だってそんなに喋れないぞ!?」

「こんな状況ですが、褒められて悪い気はしませんね」

「褒めてねえよ! お前みたいなやつが収録を遅らせる最大の原因なんだよ!」


 三人目の運良子うんよしこ。良子はゲームを全て当て勘で正解してしまうので、恐怖とか焦りとかを感じておらずデスゲームを攻略している感が全く無いのである。ちなみに主催者が押収した私物はほぼ懸賞で当てたものらしい。


「お前も全く頭使わず越してんじゃねえよ! 何で答えが256通りある問題を勘で一発で当てちまうかなあ!? ヒントの文章と数式をちゃんと活かせよ!」

「いやまあ、私これまでずっと運だけで生きてきたみたいな所あるし」

「何か!? お前を招待しちまった俺の運が最悪だって言いたいのかコラァ!?」


 良子の気の抜け様に主催者は思わず声を荒げてしまう。もう時間が無いと言うのに、三人は全然余裕そうに主催者へ遠慮なく会話を続けようとしてくる。

 

「はっはっは! 主催者は運が無いんだな!」

「口調も崩れてますし、主催者も限界のようですね」

「そろそろ株上がってるか見たいんでスマホ返してくれませーん?」

「ほんっとにムカつくなこいつらぁ!」


 もう残り時間もわずか、主催者は最後の手に出た。あからさまに危険を示した黄色と黒の警戒色にベタベタな髑髏マークが描かれたボタンのスイッチに手をかけた。

 

「こうなったら最終手段だ! くらえスイッチオン!」

「壁の向こうから獣のような声と足音が? 何か来そうですね」

 

 壁を壊して出てきたのは、数十頭のバッファローだった。


「ムッ!? こ、これはっ!?」

「えちょ、これは流石にヤバくね?」

「これぞ最終兵器! 『全てを破壊しながら突き進むバッファローの群れ』だ! もうゲームなんかどうだっていいからお前ら死んじまえやあぁー!」


 これで三人とも死ぬだろう、そして次のゲームを開始できる。そう思っていた主催者だったが、三人はそんな希望を打ち破ってきたのである。


「ふんっ! 日頃の特訓に比べればこれしき! 真っ向から止められるぞ!」

「剛力君の後ろにいれば安心ですね。ちなみにバッファローは水牛という意味なのですがアメリカではバイソンの事をバッファローと呼んでいて……」

「あ、なんか目の前で二頭が喧嘩始めたから、私んとこ突進来なかった。やっぱ私の運最強だわー」

「…………」


 この時点で三分が過ぎた。次の参加者が控室で目を覚ましてしまい、次のゲーム開始がグダグダになってしまっていた。バッファローが一頻り去って言った後、主催者は声を絞り出した。

 

「もう、帰ってください」

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【KAC20241】デスゲーム残り三分 こなひじきβ @konahijiki-b

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