第123話 戦争の行方

 パラデイン王国、南部――――



 リューン王国とジオランド農業国の混成軍が本格的に侵攻してきた。


 それを迎え撃つべく出撃したのはオスカー軍団長率いる第一軍団だ。


 それと近場のサンハーレで作戦行動中の女王直属アンデッド軍からも若干名の応援が駆けつけている。


 しかし、相手の兵数は凡そ8万。圧倒的数の差は脅威であり、オスカー軍団長と第一軍団は劣勢に立たされていた。



「負傷した者を下がらせろ! 防衛線はまだまだ下げてもいい! ただし、他の部隊と足並みを揃えて後退するのだ。防衛網に穴だけは作るなよ!!」

「「「ハッ!」」」


 パラデイン軍が徐々に押され始めていた。


 いくら第一軍団が精鋭と言えども、この数の差を覆すのは並大抵のことではない。


(ジオランド従属軍、こちらは烏合の衆だが……リューン陸軍の方は、なかなかどうして……練度が高い!)


 リューン王国の主戦力と言えば真っ先に飛竜騎士団が挙げられるが、だからと言って陸軍や海軍が弱い訳では無い。むしろ、軍事国家の兵だけあって、旧ティスペル軍よりも兵の質はずっと上であった。


「我々の役目は足止めだ! 敵兵を無理に倒そうとするな。地の利を生かし、遅滞行動にだけ務めよ!」

「「「了解!」」」


 この地域での戦闘はイデール軍侵攻時に経験しているので土地勘がある。


 更に有り難いことに、敵軍の前線基地は未だにトライセン砦が使用されているようなのだ。


(あの砦には我らの目と耳があるからな)


 トライセン砦内には、女王陛下自らが神業スキルで生み出された監視装置が多数仕込まれているのだ。


 そうとは知らず、こちらに筒抜け状態の砦を譲渡されたリューン王国の将校たちは連日、作戦室で軍議を行っているのだ。つまり、敵の作戦の殆どを事前に知れるのだ。


 そこまでの圧倒的なアドバンテージがあって、それでもギリギリ持ち堪えているのが現状であった。


 やはり軍事国家を名乗るだけあり、リューン王国の底力は侮れない。


(ケルニクス元帥! 貴方が来るまでは耐えて見せますよ!)



 その後もオスカーは作戦指令部レヴァナントから送られてくる敵情報を頼りに奮闘をし続けた。








 リューン王国、王都フレイム――――



「陛下! サンハーレへ偵察に出ていた飛竜騎士団から伝令が来ました!」

「む? そうか。意外に早かったな」


 調査にもう少し時間が掛かると踏んでいたが、マイセル副団長は余が思っていたより早く伝令を寄越してきた。発破をかけた甲斐があったというものだ。


 すぐに伝令役の騎士を呼びつけ、話を聞くことにした。


 だが、その騎士の姿を見て余は眉をひそめた。


「貴公は確か……【遠視】持ちの御子ではなかったか?」


 名は……そう、レギンソンだ。


 神業スキル持ちの御子は得難い人材だ。彼の事は当然、余も把握していた。ランドナーが戻れそうになければ、それこそこの男を次の団長にしてもいいとさえ思っている程だ。


「ハッ! 私如きの名を覚えて頂き、光栄で御座います」

「謙遜するな。我が国の貴重な御子であり、ベテラン飛竜騎士でもある貴公の名は知っていて当然だ。だが、まさか貴公を伝令役にするとは……マイセルの奴め!」


 上空から地上を見下ろす飛竜騎士団にとって、レギンソンのような【遠視】スキル持ちは重宝されてしかるべき存在の筈だ。だからこそ、ランドナーもこやつに無理な真似をさせず生還させたのだろう。


(だというのに、そんな貴重な兵を伝令に回すなど……ん?)


「……伝令役は他にいないのか? まさか貴公一人……単騎で帰投したのか?」

「…………はい。副団長命令だと強く言われてしまい…………どうか、ご容赦ください」


 ビキッ!


 思わず全身の闘気を強めてしまったせいか、玉座のひじ掛けにヒビが入ってしまった。


「いや……現場の上官の命令には逆らえまい。貴公には全く落ち度はない。貴公には……な」


 あの無能めが……! あれ程、単騎で行動させるなと言ったにも関わらず、余の命令を無視するとは……!


(戻ったら……とっちめてくれる!)


 荒ぶる心を無理矢理に落ち着かせ、改めてレギンソンからサンハーレの戦況報告を聞いた。



 その後、余はレギンソンを一度下がらせ、元帥たちを招集させた。



「――――以上がサンハーレの現状だ。上陸作戦は上手くいっておらず、ストレーム提督とネーレス海賊団の艦隊も……恐らく敗北したのだろう」

「それは……っ! 恐れながら、結論を出すには些か早過ぎやしませんか? ネーレス海賊団の消息はなく、提督の艦隊も一応はサンハーレ湾内に健在なのでしょう? 海賊どもは狡猾です。きっとこれからパラデイン艦隊の背後に奇襲を仕掛ける段取りなのでは?」


 その可能性も無くは無いが……ここは最悪の想定をしておくべきだ。


「飛竜騎士団はサンハーレの地上部隊とは連絡が取れなかったのですかな?」

「…………まだ、上空観測だけの一次報告のみだ。マイセル副団長には万全を期して調査任務に当たるように厳命しておいたからな。この後、更なる伝令によって詳細情報も届けられるという話であるが……」


 飛竜騎士数名が行方不明となっている原因の特定は未だ出来ていない。復路でレギンソンが観測したという謎の飛行物体の件は気になるが……それが原因かどうかは分からずにいた。


 そんな中でマイセル副団長は迂闊にも、敵海上戦力に対して攻撃を仕掛けると宣言したそうだが…………これも完全に命令違反だ。


 ここで無理に戦闘行動をし、何時までもサンハーレ上空に留まるのは危険ではないかと余は思うのだが……まぁ、詳細な情報が欲しいのも確かではあった。


 話を聞く限りだと、サンハーレの戦況が良くないのも事実なので、ここで一撃入れたい気持ちも理解できるが…………


(……奴め! 『吉報を届けるので続報を待て』とか大層な事を抜かしていたそうだが……これで碌な戦果を得られなければ、その時は……!)


 その時は、奴の副団長職をすぐにでも解き、レギンソンを新たな団長代理へと就任させるつもりだ。






 それから五時間後、長い軍議を終えて、ようやく一休みしようかと思っていたタイミングで城の伝令兵がやってきた。


「陛下! 飛竜騎士団の続報が届けられました!」

「おお!? やっと来たか……!」


 まだ眠る訳にはいかないようだ。


 私は直ちに飛竜騎士団の伝令を全員連れて来るように命じたのだが……玉座の間に現れたのは、またしても一人だけ・・・・であった。


 そう、またしても単騎行動だ!


(あの愚か者は……! 余の命令をなんだと捉えておる!)


 もしや余の叱咤は親の小言くらいにしか思われていないのだろうか?


 仮にあんな不出来な息子が余にいるのなら、既にもう顔面に2、3発はぶち込んでいるな。


 ビキビキッ!


 力んだあまり、玉座の右ひじ掛けを粉々に粉砕してしまった。


「ひっ!?」


 拝謁早々、その光景を見て勘違いした若い飛竜騎士は、気の毒にすっかり青褪めて怯えてしまった。


「あ! ああ……すまんな。別に貴公に対して思うところがあるわけではない。これは違うのだ……! ごほんっ! それでは……報告を聞こうか?」

「ぅあ……は、はいぃ……!」


 声を震わせながらも、若手騎士はしっかりと詳細な情報を余にもたらしてくれた。それは大変ありがたいのだが……肝心の報告内容が頂けなかった。


「……………………」


 余は目頭を押さえると、何度か深呼吸を繰り返した後、ようやく重い口を開いた。


「…………つまり、出陣した飛竜騎士団は貴公以外に……マイセル以下三名しか残っていない、と?」

「は、はい……」


 はい、もう無理。余、我慢の限界である。


(奴は……もう処そう。奴の実家? 知るか!! 余に逆らうなら一族全員、処してくれるわ!)


 余の命令を度々無視した上での勝手な戦闘行為。それにより飛竜騎士団を半壊…………どんな功績や権力をもってしても擁護しようがない。


 完全なギルティ!!


「…………報告、ご苦労であった。貴公は王都守備に回っている飛竜騎士隊に合流せよ。それと……ただちに騎士レギンソンを呼べ」

「ハッ! 王命、承りました!」



 若手騎士が去ってから数分後、レギンソンがすぐにやって来た。



「レギンソン。現在時より貴公を飛竜騎士団の団長代理に任命する。守備隊を含め、かなり数は減ってしまったが……命令があるまでは王都警備の任に就け!」

「ハッ! 王命、謹んでお受け致します!」


 正式に団長代理となったレギンソンは臣下の礼を取った。


「それと同時にマイセルの副団長の任を解く。更にマイセルに対しての捕縛命令を出す。奴が戻り次第、身柄を拘束せよ。それを邪魔する者も同様だが……まだ殺すなよ?」

「ハッ! 委細承知致しました!」


 余の命令を無視した時点で処刑も可能ではあるのだが、一応は奴も貴族の端くれである。殺すのは、しっかり内情を調査した後だ。


 現場での命令無視ならば、軍規によって直ちに処刑も可能なのだが……一応は奴の言い分も聞かなければなるまい。結果は変わらんがな。


(ふん! ネーレス海賊団の調査を続行するらしいが……余が与えた期限は三日だぞ? それでも戻らなければ……指名手配をしてくれるわ!)




 翌日、マイセルは部下二名を連れて帰投した。






「さて、マイセル。話を聞こうか?」


 城に戻り次第、すぐに拘束されたマイセルは余の前へと連行された。


 最初は奴も喧しく叫びながら暴れていたそうだが、今は強引な手段による抵抗は無意味だと悟ったようだ。


 その代わり、奴の口は饒舌であった。


「へ、陛下!? これは……そう、誤解です! この度の件は全て、国家の為にも致し方なく……私は最善の行動を取っただけなのです!」

「…………其方の言い分はそれで終いか?」


 冷たくあしらう余にマイセルは慌てだした。


「お、お待ちを! 私は他の無能者共とは違い、しっかり情報を仕入れてきたのです! ネーレス海賊団の所在が分かりました!!」

「……ほぉ? 一応、聞いておこうか?」

「は、はい! 実は…………」



 マイセルは二回目の伝令を単独で向かわせた後、残る三人で近くの無人島が点在するエリアを調査したそうだ。


 奴曰く、その狙いはドンピシャだったらしく、その無人島の一つに我が国が把握していない港があったそうだ。


(そんな場所に港……? 海賊どものアジトか?)


 マイセルも余と同じ考えに至ったらしく、高度を下げて確認したところ、その港に停泊している船にはどれもネーレス海賊団の旗が掲げられていたそうだ。



「……つまり、ネーレス海賊団は壊滅しておらずに健在で、我が艦隊に味方するどころか、連中のアジトに引き籠っていると……?」

「はい! その通りでございます! これは貴重な情報ではないでしょうか!?」


 うーむ……この期に及んでマイセルが虚偽報告をするとは思えないが……一度は従属させた海賊団が、そう簡単にリューン王国を裏切って敵に回るような行為に走るだろうか?


(海賊共の心情なんぞ余には分からんが……確かにその島は放置してはおけんな)


「……一応確認しておくが、その港はパラデインの軍港ではないのだな?」

「へ? パラデインの……ですか? いえ、彼の国の旗は一切見えませんでしたので、海賊共のアジトで間違いない筈……です。ええ、海賊のアジトです!!」


 ……考え過ぎだろうか?


(謎の飛行物体で飛竜騎士団を壊滅に追いやった国だ。たった三人の飛竜騎士を見逃す理由もない……か?)


 もしも相手が余だったら、情報漏洩を防ぐ為にマイセルたちも一人も逃がさず堕としている筈だしな。


 やはり考え過ぎだったようだ。


「……少しだけ命拾いしたな。この者を牢屋に閉じ込めておけ! 此奴の処遇は終戦後、じっくり考えるとしよう」

「そ、そんなぁ!? 私は無実だ! は、放せぇ! 牢は嫌だぁああああっ!」


 どんな情報を持ち帰ったところで、余の命令に背いて味方に被害をもたらした事実は覆らない。


 今回の情報による功績で死罪は免れても、十年以上の牢獄送りは確実か。


「よし! ただちに元帥たちを呼べ! 作戦を立てて東岸部の戦況を覆すぞ!」

「「「ハッ!」」」



 それからの長い軍議の結果、我が国は残った艦隊を例のアジトに向かわせる事に決めた。もし、そこがマイセルの証言通りに海賊のアジトだというのなら、我が国が押収し、海洋上の軍事拠点として活用するつもりだ。


 その拠点から東岸部のリプール港やイデールの港などの各地に兵や物資を中継出来るよう、海上の補給路を整備し直す計画であった。








 バネツェ沖の無人島、パラデイン軍港島――――


「ゾッカ提督! 本国から10機のドローンが届けられました!」

「こいつが対飛竜用の兵器ってやつか……」



 昨日、この軍港島上空に三匹の飛竜が近づいてきた。


 この無人島にある軍港は空からの監視を防ぐ為、海岸付近にある岩陰や洞窟内に船を隠せられるような構造になっているのだが……海賊団から押収した船が多すぎて、今回は全ての船を収納できなかったのだ。


 結果、海賊船だけは上空から見られてしまったが……やはり拙かっただろうか?


 急いで作戦指令部レヴァナントにその件を報告したところ、新たなプレジャーボートと共に10機のドローンも送られてきたという訳だ。


「どうやらこのドローンという兵器。この島周辺では距離の関係上、指令室にいるポーラ女史からの操縦は不可能なようです」

「むぅ……仕方ないか。しかし、シュオウやシノビ衆は本当に操縦できるのか?」

「おうよ! 任せておけ!」

「ポーラ女史ほとではないが、我らも操縦訓練を受けている」

「へぇ……俺には船以外の事はさっぱりだ! ガハハッ!」



 海兵隊ケートスの艦隊は現在、戦力を分散させていた。


 軍港島の待機組とサンハーレにいるリューン艦隊の対応組である。


 船の燃料や物資が減ってきたら交代で船を入れ替えていた。今は元イデール独立国将校であるホセ・アランド副提督の二番艦に前線指揮を任せていた。



「俺たち待機組は相手の増援に対しての追加戦力だ。この島にしろ、サンハーレにしろ、敵艦隊の増援が来たら待機している我が艦隊が動いて叩く!」


 だが、相手が飛竜騎士団となると厄介だ。空から一方的に爆撃されたら敵わない。それを一時的にでも凌ぐ措置としてドローンが届けられたのだ。


 最悪、このドローンで牽制している間にサンハーレ方面へと逃げれば、後はポーラ女史の操るドローン軍団が応戦してくれる。


(あのポーラって女、【操縦】スキルで初乗船のボートも自由自在に操っちまった。是非、海軍に欲しいぜ!)


 ケルニクス元帥もとんでもない逸材を拾ってきたものだ。


「さぁ! 飛竜騎士団だろうがリューン艦隊だろうが来やがれってんだ!」




 それから数日後、パラデイン艦隊が待機している事を知らないリューン艦隊がノコノコとやって来るのであった。








 ようやく王都ケルベロスへと戻って来た俺は指令室で各地の戦況を確認した。



「…………やっぱり人手が足りないのは南部か」


 俺の言葉にネスケラが頷いた。


「だね。既にエドガー副団長たちにも南に行ってもらったよ! 悪いけれど、ケリーも向かってもらえる?」

「一時間……いや、三十分だけ寝てから行く!」


 慣れないバイクの後部座席であまり休めなかったのだ。



 俺は少し仮眠を取ってから車を借りて南部に向かった。








 俺が戦場に到着した頃には戦況が一変していた。


 敵が既に後退していたのだ。


「あれ? 劣勢だって聞いたけれど……? どゆこと?」


 まさか、エドガーたちが8万もの軍勢を蹴散らしたのだろうか?



 エドガーやオスカーたちの姿を発見したので事情を聞いてみる。


「おっす! 今来たところだけど……これ、どういう状況?」

「お! ケリー! やっと合流したか!」

「ケルニクス元帥! お待ちしておりました!」


 代表してオスカーが状況を説明してくれた。


「それが……どうもジオランド従属軍が急にリューン軍を置いて、真っ先に撤退してしまったのです。味方の人数が激減した事に慌てたのか、リューン陸軍もすぐに後退を開始しました」

「ジオランドが……理由は?」

「不明です。こちらを誘う罠の可能性もあるので、今は足を止めて様子見しております」


 成程。オスカーらしい堅実でナイスな判断だ。


 だが、オスカーにエドガーがつっこんだ。


「……いや、シェラミーとその一味だけはリューンを追っかけて行っちまったぞ?」

「……うん。エドガー君。知っていたなら止めようか?」


 俺の言葉にエドガーとオスカーは揃って溜息をついた。


(あー……いや、言って聞くタマじゃないかぁ……ないなぁ…………)


 まぁ、シェラミーなら敵の罠でも生きて帰って来られるか。


「偵察は?」

「既に出しておりますが……もしかしたら作戦指令部レヴァナントの方が何か情報を掴んでるやもしれません。既に上には報告済みです」

「流石はオスカー軍団長!」


 相手の前線基地であるトライセン砦から、隠しカメラや盗聴器越しに何かしらの情報を盗み聞きしていたとしても不思議ではない。



 そんな事を話していたら、タイミング良くネスケラ参謀長殿から最新情報がもたらされた。



『ネスケラちゃん情報でーす! ジオランドが急転した理由ですが、レイシス王国が動いたからでーす!』

「「「レイシス王国!?」」」


 意外な情報が出てきて一同が驚いていた。



 今回の戦争はパラデイン王国vsリューン王国という構図だが、正式には我が国はコーデッカ王国、バネツェ王国とも同盟を結んでいた。


 また、リューン王国側もジオランド農業国、イデール独立国、グゥの国、ネーレス首長国が手を貸している状況だ。


 ただ、コーデッカ王国は戦場から離れている為に、隣接しているジーロ王国やゴルドア帝国を牽制するだけに留めており、実際には名を貸しているだけに過ぎない同盟関係だ。


 バネツェ王国は同じ島国であるネーレス首長国と仲が悪く、海賊団は別としてネーレス正規軍を抑えつけており、更には物資の援助まで申し出てくれていた。ただし、物資に関してはこちら側も困っていないので、その件は丁重にお断りしていた。借りを作り過ぎるのも考え物だからな。



 対してリューン王国側はイデール独立国とグゥの国、ジオランド農業国が実際に兵を出して参戦までしている。


 ただし、イデール軍はあっさり敗北し、現在はイデール王都に兵力を残すのみであった。


 グゥの国も先日、俺たちが打ち負かして降伏させているので問題はない。ネーレス海賊団も壊滅させたので、残る敵はジオランドとリューンのみであった。


 ジオランド農業国はリューン王国の従属国なので、余程の事が無い限り、先に撤退はしないだろうと踏んでいたのだが……そのイレギュラーが今起こったのだ。



『さっきレイシスの使者がステア女王様に面会に訪れて、急に自分たちも参戦するって申し出てきたんだよ。もしかして参戦するタイミングを見計らっていたのかな?』


 事前にレイシス王国には同盟の打診をしていたのだが、その時には断られてしまった。理由としては、あちらの国も西にあるカウダン商業国との戦争中で、東の情勢に介入出来るだけの余裕が先方に無かったからだ。


 ただ、レイシスも軍事国家であるリューン王国の脅威は常日頃から感じていたようで、更には隣接国であるジオランド農業国を疎ましくも思っていた。


 そんな中、いよいよ全面的な戦争が始まり、ジオランド軍の防衛網が手薄になっていた。どうやらそこをレイシス軍が突いた形のようだ。


 いくら従属国のジオランドといえども、本国が狙われて窮地とあっては無視できない。レイシス王国侵攻を理由にジオランド軍はリューン王国より先にパラデイン領から撤退したという訳だ。


「そんな真似をしてレイシス王国は大丈夫なのか?」

『うーん、どうやらコーデッカ王国も裏で支援してくれているようだし、大丈夫みたいだよ?』


 成程ね。


 コーデッカ王国はレイシス王国と隣接しており、二国の仲は良好だ。恐らく東側の戦況を読み、パラデイン側が優勢だと判断してレイシスも参戦を表明したのだろう。


 こちらとしては、もっと早く表明してくれよと言いたくもなるが、国の存亡が掛かっている以上、慎重になるのは仕方がない事なのかもしれないな。


 ただ、味方をしてくれた同盟国でも、最初から表明していたコーデッカ王国とバネツェ王国の方が扱いは上になるのは当然だ。それでも、レイシス王国にも感謝をしなければなるまい。



「これで相手が撤退した理由が判明したわけですが……どうされます?」


 オスカーが元帥である俺に尋ねてきた。


「勿論、追撃するぞ! シェラミー一味に一番槍を取られた格好だが……出られる兵を集めて編成し、この機に相手を叩く!」

「「「了解!」」」


 さぁ……勝ち戦をしようじゃない!

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