第122話 迷走する飛竜騎士団

 パラデイン王国、北西部――――



 この地はティスペル旧王都の北に位置し、ジーロ王国領土にも隣接している。すぐ傍にはキンスリー領もある北の領地だ。


 以前、俺たちが北ユルズ川に杭を打ち立てて船を通れなくした場所の近くでもあった。


 その北の僻地がジーロ王国側から越境してきたゾワレ族たちによって襲撃されてしまったのだ。既に幾つかの村々が被害に遭っており、多数の死傷者を出している。



「オラ、オラァ!! 腕と脚、どっちを差し出すんだぁ!?」


「ひぃいいいい!?」

「ば、蛮族だぁあああ!?」


 俺は二振りの愛剣を振り回しながら、そんなゾワレ族の戦士たちを追いかけまわしていた。


「誰が蛮族じゃー!? それはお前らだろうがー!!」


 連中、無垢な村人たちには容赦しないというのに、いざ自分たちが襲われる側に立たされると、泣き叫びながら逃げ回り始めたのだ。


 最初は随分とイキっていたが、50人くらいの手足を斬り飛ばすと怯え始め、挙句の果てに人を蛮族呼ばわりする始末…………実に遺憾である。


「こちとら、ゼッチューしたいところを手足の一本で済ませてるんだ! さっさと観念して差し出せぇ! ――――【風斬かざきり】!」


「ぎゃああああああっ!?」

「また、きたぁ!!」

「み、見えない斬撃だぁ!」


 どうやらグゥの軍勢ほど大した闘気の使い手はいなかったようで、連中は俺の闘技二刀流遠距離斬撃に全く対応できていなかった。


 ただ、そこそこ数がいるのと、それぞれが思い思いの場所に散って好き勝手しているようなので、蛮族全員の無力化をするのに少々の時間が掛かってしまっている。


(くそぉ! こりゃあ、他の奴に任せて俺が南部に向かった方が正解だったか?)



 パラデイン南部、イデール独立国領方面からは、遂に敵の本隊であるリューン陸軍とジオランド従属軍が侵攻を開始していた。


 敵の主力部隊であり、その予測兵数は……なんと8万以上!


 それに対するのはパラデイン王国の最大兵数を誇るオスカー軍団長率いる第一軍団だ。


 パラデイン王国では随時、兵を募っているものの、第一軍団の兵数ですら1万弱と心許ない。


 ただ、数では圧倒的に負けてはいるが、第一軍団に所属する兵士のほとんどが、過去に数々の不利な戦場を覆してきた経験を持つ精鋭たちである。そう簡単には負けないだろうが……正直苦しい戦力差だ。


 近場のサンハーレを担当している女王直属アンデッド軍団も南部戦線のサポートに入るそうだが、あちらもあちらでリューンの上陸部隊を抑えつけている最中なので、あまり人手を割けないのが実情だ。


 だからこそ……



「てめえらに時間を割く余裕はねえんだよ!! これ以上手間をかけさせるんなら、両腕貰っていくぞ!?」


「うわああああああっ!」

「い、嫌だぁあああ……っ!」

「そ、それだけはご勘弁をーっ!!」



 俺の脅しが効いたのか、ゾワレ族はようやく白旗を上げ始めた。






「それじゃあ、こいつらの処遇は任せるが、この場での極刑だけは許可しない。今はとにかく生かせ。後は好きにしていいから」

「ハッ! 了解であります!」


 北の治安を任せているアミントン大隊長旗下、第四軍団の警邏隊に捕縛した蛮族たちを押し付けた。


 ジーロ王国側からは、これ以上の武装勢力は侵攻していないようなので、俺の任務はこれで完了だ。


「ティスペルまでお送りします」

「……いや、この距離なら走った方が速そうだ」

「え?」


 呆気にとられる兵士を余所に、俺は闘気全開で猛ダッシュし、ティスペルに急行した。






 数時間後、汗だくの俺は息を整えながらティスペル旧王都の外周部を歩いていた。


「はぁ、はぁ……確か、待ち合わせの場所は、この辺りだったか…………」


 そういえば、誰が迎えに来るのか聞いていなかった。俺はぜぇぜぇ肩で息をしながら周囲をキョロキョロ観察する。


 明らかに不審人物なこちらの様子に、街の衛兵たちが駆けつけてきたが、俺が元帥であることを知ると慌てて敬礼してきた。


(うむうむ、任務ごくろう)


 ちゃんと仕事をしている衛兵に感心していると、街道の方からバイクのエンジン音が聞こえてきた。どうやら迎えの足とやらが絶妙なタイミングで到着したようだ。


「おう! ケリー、こっちだ!」

「ラルフ!? 迎えの足ってラルフだったのか!?」


 驚いたことに、運転手は軍属でもない元地球人の料理人ラルフであった。


 ラルフは大型バイクのシートに跨りながらヘルメットを俺に投げて渡した。


「俺はバイクの免許を持っていたからな。ほら、さっさと後ろに乗れ!」

「お、おう!」


 バイクの後ろに乗るのは初めてだが……筋肉質な男に後ろから抱き着くのは些か抵抗あるなぁ……



 ラルフは俺が乗ったことを確認すると、すぐにバイクを発進させた。旧王都ティスペルと現在の王都であるケルベロスの間には舗装された街道があるので通常のバイクでも問題無く走行可能だ。


「まさかラルフが来てくれるとはな」

「ああ。今はサンハーレの店も営業できねえし……王都に新しい店を用意してもらってる最中なんでな。その準備をしていたら、突然ネスケラの奴に運転手を頼まれたんだよ」


 相変わらず人使いの荒い幼女である。


「ま、その報酬にこのバイクが貰えるってんで、俺は話に飛びついたんだけどな。けど、戦争に参加するのは御免だぞ?」


 ラルフは俺やネスケラと同じく天然の転生者なので、素の身体能力はかなり高い。だが、彼はその能力の全てを料理の為に振るっているのみで、実戦経験はほとんどない。せいぜい、酔っ払いと喧嘩したくらいのようだ。


「ああ。王都まで届けてくれればいいよ。そこからは別の足で戦場に行くから」

「あいよ!」


 この世界にはまだ道路標識も横断歩道も存在しない。ラルフは通行人やすれ違う馬車に細心の注意を払いながらも、出来得る限りバイクのスピードを上げた。


 この調子なら今日中には王都に戻れるだろう。


(北の蛮族どもに随分時間を食っちゃったしなぁ……。エドガーたちはもう西側を制圧して南に向かってる頃合いだろうし……俺も南に行くべきか?)


 どちらにせよ、まずは司令部で戦場の最新情報を得るとしよう。








 バネツェ内海、上空――――



 マイセル副団長率いるリューン王国飛竜騎士団がサンハーレを目指して連帯飛行をしていた。



「くぅ……! 単騎とは言え、まさか伝令もこなせないとは……! 部下の失態にどうして私が怒られなければならぬのだ!」


 伝令を任された若手の同僚が行方不明となり、その件に対してマイセル副団長が愚痴を零していた。


「くそ! こうなったら、言われた任務をこなすのは当然として、なんとしてもそれ以上の成果を上げなければ……!」


 同僚の心配よりも先に己の保身ばかり考える副団長に、私だけでなく他の飛竜騎士たちも辟易としていた。


 流石にこのままでは士気にも影響が出る。そう考えたベテラン騎士である私は副団長マイセルに苦言を呈した。


「マイセル副団長。仮にも同僚が行方不明の状況です。確かに奴は経験の浅い飛竜騎士ではありましたが、平時であれば伝令役くらい十二分に果たす能力のある男です。それが連絡も無しに消えたとなると……油断は禁物ですよ」

「ぐっ! そんな事、言われんでも分かっておるわ!! それよりも貴様の神業スキル【遠視】で何か見えんのか!?」

「…………少なくとも、この海域には味方艦隊は存在しませんね」

「くぅ、一体どうなっておるのだ!」


 今の愚痴には私も心の中で賛同した。



 我々リューン飛竜騎士団は本国からサンハーレまで、ほぼ最短ルートを飛行している。だが、これまで軍船の類は一隻も見当たらなかった。


 本国とここ何日も連絡が途絶えている状態なのは、当然味方艦隊側も理解している筈である。


(あのストレーム提督殿であれば、すぐに代わりの小型船を送り付けるなどして、本国に伝達する筈だが……)


 知らない内に伝令の船とすれ違った可能性も…………いや、考えられない。


 この何もない海洋上で、しかも上空から、遠くの物を見る事に特化したスキル持ちの私が監視しているのだ。


 つまり、伝令の小舟一隻出す事すら出来ない程の窮地に追い込まれているのだと思われる。


(これは……拙いな……)


 私の不安はしばらく後になって的中した。




「な、なんだ……この状況は……?」


 サンハーレ上空に近づいた我々は奇妙な光景を目撃した。


「何故、味方のリューン軍がサンハーレに籠城し、パラデイン側がサンハーレを包囲しているのだ? これではあべこべではないか!!」


 そう、味方の軍団は上陸こそ既に成功しているようだが、そこで足止めされていた。リューン陸軍と思しき味方部隊は建物の陰に隠れるようにして息を潜み続け、港町の外周部はパラデイン軍が包囲網を形成していた。


 ただし、人数は明らかに我が軍の方が多いように見受けられる。あれくらいの薄い包囲網なら突破できないものだろうか?


 また、海上では味方のリューン艦全てが湾内に押し込まれ、それに蓋をするかのようにパラデイン艦隊が沖に展開していた。


(ネーレス海賊団は……見当たらんな)


 艦隊の方はかなり数を減らしていた。


 しかも、湾内に押し込まれている為、自由に動き回れずにいた。こちらはかなり不利な陣形だ。


「っ!? 陸軍に海軍の無能共め……! なにをモタモタやっているのか!」


 あまりにも不甲斐ない戦況にマイセル副団長やその取り巻きである坊ちゃん出の騎士たちは鼻息を荒くしていた。


「状況は理解した! まずは海上の劣勢を我が飛竜騎士団が覆す! 総員、第二警戒ラインまで降下し、敵艦隊に爆撃を仕掛けるぞ!」

「え? は……はあっ!?」


 副隊長の意外な命令に、一番近くに居た私は思わず素っ頓狂な声を上げた。


 私の叫び声に副団長マイセルが睨みつけてきた。


「……何か不服か?」

「いや、不服も何も……それは王命に反する行為なのでは? 確か我々が命じられたのは偵察任務の筈ですよね!?」


 副団長と王とのやり取りは王宮内でも噂になっていた。


 当然、我々飛竜騎士団にもその情報は伝わっており、今回の任務は失敗できないと誰もが慎重になっていた。


 そんな中での今の命令である。


(う、迂闊過ぎる…………)


 あまりにも短絡的な思考に私が参っていると、マイセル副団長は不敵に笑って見せた。


「ふふん! スキル持ちの御子といえども、所詮はその程度の思考か。言われただけの事をするなぞ三流のやる事だ! だが、私は違う! 王命も完璧にこなし、更に味方の窮地も救い戦果を挙げる。これが一流というものだ!」


 すっかり自分に酔いしれている副団長に俺は開いた口が塞がらなかった。


(いやいや、言われた事すら出来ないと思われているからこそ、王が直接命令したんでしょうが!?)


 何故、無能者はこうも余計な真似をしたがるのだろうか……


(ここは自分が冷静になって諭さなければ……!)


「き、気持ちは分かりますが……まずは情報を持ち帰ることを第一にして、その後で出動命令を待てばいいではありませんか?」

「貴様……まさか臆したのか?」


 ギロリとマイセル副団長が私を睨みつけるも、こちらも負けじと睨み返して説得を続けた。


「臆しただの臆さないだのの話ではないでしょう? 我々がすべき事は、今すぐに状況を王政府に伝達することです。違いますか?」

「…………」


 マイセル副団長はしばらく私を睨んでから口を開いた。


「そういえば、貴官はランドナーめのお気に入りだったな。奴の命令以外は聞けないという事か?」

「今は関係ないでしょう! それに王命に背いているのは貴方で――――」

「――――もうよい! ならば、貴様が伝令役を務めるがいい!」


 マイセルは私の言葉を遮り怒鳴りつけた。


「王にはこう伝えるのだ!『サンハーレの陸軍と海軍は劣勢! 我が飛竜騎士団が助力し、すぐに吉報を届けるので続報を待て』とな!」

「いや、単騎での行動は慎めと言う話では……?」

「うるさい!! うるさい!! 貴様はどこまで臆病者なのだ!? ここに来るまでの道中、脅威になるような存在は一切なかったではないか!! これは副団長命令だ!! さっさと行け!!」

「…………どうなっても知りませんよ?」

「ふん! 貴様こそ、後で覚えていろよ!」


 副団長と喧嘩別れに近い形で、私は単騎で伝令を務める為に飛び立った。


(…………はぁ。まさか私が伝令役とはな)


 伝令は重要な役回りだが、基本的に若手の騎士が務めるのが通例だ。それがまさか、ベテランの……ましてやスキル持ちの御子である自分が引き受けるとは思いもしなかったのだ。


(…………気持ちを切り替えるか。単騎で行動をするのだ。警戒せねば!)


 理由は不明だが、伝令役とその捜索に出た者たち全員が帰ってこないのだ。気を引き締めねば!


 そう心掛けて飛行していたのが幸いだったのか、陸地の方角から奇妙な飛行物体がこちらに近づいてきているのを視界の端に捉えた。


(っ!? なんだ、あれは……? 魔物……じゃない!? 生物ですらないぞ!?)


 私のスキル【遠視】は数キロ先の文字すら読めるほどの性能だ。一目見てあれが異質なモノであり、そしてあれこそが同僚たちの行方不明事件の原因であることを悟った。


(あいつの速度……やや、こちらの方が上? ここで撃ち落とすか? ……いや!)


 つい今しがたマイセルに放った己の発言を心の中で反芻し、ここは安全策を取ることにした。


「今は情報を持ち帰るのが先決だ!」


 私は謎の飛行物体から逃げるようにして本国へと飛び去った。








 王都ケルベロス、城内指令室――――



「あー!? ネスケラ! 相手、逃げちゃったよぉ!?」


 指令室内にポーラの叫び声が響いた。


「あちゃぁ。随分と冷静な判断をする騎士さんだねぇ。今までの飛竜騎士は全員、油断してくれてたんだけど……」



 この世界で空を飛べる人間はかなり限られている。


 唯一無二と言っていい航空戦力を抱えるリューンの精鋭――――飛竜騎士団。その誇りからか、彼らはこの世界の異物であるドローンに対しても勇猛果敢に立ち向かってきた。


 中には複数のドローンを撃ち落とす猛者もいたが、機体はまだまだある。複数同時操縦が可能なポーラのドローン部隊による物量差には為す術がなく、飛竜騎士は全員撃ち落とされた。


 熊撃退用スプレーや特殊な合成金属網を投擲して飛竜ごと捕獲し、海兵隊ケートスの小型ボートにて順次回収させていたのだ。


 今度はかなりの大人数でやってきたので、まずは一人だけ離脱した伝令から潰そうと試みたのだが……かなり遠くからこちらの存在を察知した。どうやら一筋縄ではいかない騎士のようだ。


 ボクはすぐに思考を切り替えた。


「仕方ない! もう今更だし、あの伝令は無視しよう! ポーラはすぐに飛竜騎士本隊の迎撃に備えて!」

「大丈夫! もう並行してそっちも動かしてるよ!」

「うわっ! 相変わらず、操縦技術すごっ!?」


 ポーラの神業スキル【操縦】は近代科学が生み出した乗り物や遠隔操縦の類と相性が良すぎるのだ。それがどんな物でも、複数同時だろうが、複雑な操縦リモコンだろうが、物理的に可能な範囲であれば、彼女は意のままに操ることが可能なのだ。


 それが神に与えられた【操縦】の真価である。


(ステア様やシュオウ君も……スキルってとんでもないチートだよねぇ)


 シュオウの【壁抜け】も応用力がかなり高い。


 海戦前、サンハーレ港に停泊していたリューン艦に対してシュオウは既に裏工作を仕掛けていた。自らダイビング装備を纏って海中からリューン艦の船内に何度も侵入していたのだ。リューン軍艦の重要なパーツにちょいちょい悪さをして、深刻なダメージを与え続けてきたのだ。


 その効果が今頃になって表面化しているようで、リューンの軍艦は長時間航行すると何処かしらに不備が生じ始めていた。今では殆どの軍艦が航行不能に陥っていたのだ。


 また、艦隊の要であるプレジャーボートやポーラが操るドローンを生み出したのも、ステア様のスキル【等価交換】によるものだ。


 たった三人の御子によるスキルで、パラデイン軍の力は何倍にも引き上げられていた。


「相手にもスキル持ちがいると厄介だけど……あんまり見ないよねぇ?」

「そうだねー。あ、やたら偉そうな飛竜騎士、一騎撃墜♪」


 ボクとポーラは雑談を交わしながら連携し、次々と飛竜騎士たちを堕としていった。








 気が付いたら飛竜ごと海に堕とされていた。私は慌てて海面へと浮上した。


「ぶはっ!? な……なにが…………?」


 飛竜の方を見ると、身体に網のようなものが絡まっていた。それが翼の動きを阻害して飛べなくなったようだ。


 急いで神術で切断を試みるも、どうやら普通の網ではないようだ。


「ぐっ!? 【石弾】の神術でも破壊できんとは……!」


 私は泳げないので、必死に飛竜の身体にしがみ付きながら網を外そうと神術弾を放った。その内の一発が飛竜に掠り、痛みで飛竜が暴れ出した。


「こ、こら! 暴れるな!? ぷはっ!」


 危うく溺れかけたが、飛竜が暴れたお陰で上手い具合に網が外れた。


「よ、よし! すぐにこの場を離脱するぞ!」


 グルゥウウウウ!


 飛竜は私を見て少し不満そうに睨むも、渋々と命令を聞いて海上を飛び立った。


「総員! ただちにこの場を離脱するぞ! 私に続けぇ!!」


 空には謎の飛行物体が飛び交っているが、どうやら我々の飛竜の方が速さは上のようだ。


 ただし、機動力や小回りは向こうの方が上だ。その上、近づかれると刺激臭のする霧状のものを散布されたり、先ほどのような厄介な網を投擲されたりもする。上空で飛竜の身動きを封じられるなぞ、悪夢と言うほかあるまい。


(くそぉ! 厄介なモノを……!)


 だが、これで飛竜騎士が帰って来ない理由は判明した。敵艦隊への襲撃には失敗したが、これは戦果だろう!


 早く本国へ戻って情報を伝えねば……って、あれ?


 私に続いて離脱する飛竜の数が僅か三匹しかいない事に気が付いた。


「…………残りはこれだけか?」

「…………はい」

「…………嘘、だろ……?」


 本国には防衛の為に残した飛竜騎士がまだいるが、今回出撃した飛竜騎士団の生き残りは、私を含んでたった四名しかいない。かなりの戦力ダウンだ。


(これは……拙いか? いや、ギリギリセーフ……だよな?)


 確か……王は一人でも情報を持ち帰ればいいような事を言っていた……気がする。うん、そう言った筈だ。


 それならば、既にあの生意気な御子を一人、本国の伝令に送り付けたので解決している。【遠視】なんて役にも立たないスキル持ちの癖に偉そうで生意気な奴であった。


(いや、待てよ? あいつも今頃、あの奇妙な飛行物体に堕とされてるんじゃあ……)


 あり得る……うん、あり得るなぁ…………


(まぁ、これから我々が戻って報告するんだからいいか)


 結果オーライである。


「あのぉ、副団長。ネーレス海賊団の調査は如何されるので?」

「…………あ」


 すっかり忘れていた。


 サンハーレの情勢に味方艦隊の情報は得られたが、ネーレス海賊団の捜索も王に言いつけられているのであった。


 そちらはあくまで味方艦隊が優先であり、拘る必要が無いのだが……


(期限がまだ三日残っているのに、今すぐ逃げ帰って報告するのも、なぁ……)


 しかも、私の指揮下で多くの飛竜騎士を失ってしまった。これ以上の失点は拙い。


「よ、よし! これからネーレス海賊団の捜索任務に掛かる!」

「そ、その前に、今の状況を本国にお伝えするべきでは……?」

「うっ!?」


 それ、必要かなぁ? 必要かぁ……うん……


 ”吉報を待て”とか伝令で言っちゃった手前、とても報告しづらい内容だが……


(まぁ……それを伝えた生意気な御子も今頃は堕ちてるか)


 なら、いいか!


「あー、それじゃあ、お前。伝令に行ってこい」


 言い出しっぺの若い騎士を伝令役に任命した。


「それは構わないのですが……単独行動は拙いのでは?」

「うぐっ!? いや、それはそうだが……」


 王にも単独行動は慎めと言われているが、今はたった四人しかいないのだ。


(これで伝令に二人も送れば、私の護衛が一人しかいないではないか!?)


 それはかなり心細い。


「いや、大丈夫だ。今は非常時故、お前が単騎で本国へと報せるのだ! 残った我々は任務を続行する!」

「ハッ!」


 若い飛竜騎士は敬礼してから本国の方へと飛び去った。


「マイセル様、どうします?」


 残った二人は奇しくも私と親しい騎士たちであった。二人とも私の実家と縁のある家柄の出だ。


「……とりあえず、三日の期限まで安全な場所でやり過ごそう」

「ですな」

「では、あちらの方へ行きましょうか! 確か無人島も多かった筈です」



 随分と寂しくなった飛竜騎士団は無人島が点在するという海域へと向かった。

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