カップ麺を食べたい

@mia

第1話

 私には三分以内にやらなければならないことがあった。

 いや、私ではなくても三分以内に何とかしなければならないと思うだろう。かかってきた電話を三分以内に絶対に終わらせる、みんなそう思うはずだ。お昼ご飯にするカップ麺にお湯を入れてしまったのだから。

 なぜそういう時に限って電話がかかってくるのか。

「〇〇についてちょっと教えていただきたいのですが」

 電話の相手は私が送った請求書について質問をしてきた。取引があった会社の担当者だ。

 チラッとカレンダーを見る。請求書が向こうに届いたのはおとといか昨日くらいのはずだ。それなのになぜ今日、しかも昼休みに電話をかけてくる。

 せめて昨日だったら。昨日のお昼ご飯はコンビニのおにぎりと温野菜サラダだったから、電話がかかってきても、もう少し余裕を持って対応できたはずだ。それなのになぜ今日、カップ麺の時に電話をかけてくるんだ。

 昼休みに請求書の問い合わせの電話をかける――これはあると思う。

 会社員なら仕事中に問い合わせの電話などかけらないのだから昼休みになる。だが この問い合わせは仕事の電話だからわざわざ昼休みにかけてくる必要はない。午後でもいいじゃない。なぜ狙ったようにカップ麺の日に。

 ノートパソコンを開いて、該当の請求書を確認する。そこの余白には『〇〇については説明済み』と日付ともに入力してあった。

「〇〇は以前にご説明した通り……」

 同じ説明を繰り返すと担当者は納得して電話を切った。

 隣の人から借りたタイマーを見ると二分十七秒。やった三分以内に終わった。

「あのー、すいません。ちょっと教えて欲しいことが……」

 声をかけられてたので振り向くと同期がいた。舌打ちしたくなるのを我慢して話を聞くが、言うべきことは最初に言う。

「今カップ麺食べようとしてんの。もうすぐ三分、あと三十秒。ねえ午後からじゃダメなの?」

「でももうちょっと余裕あるでしょう。二分くらい。だってそのカップ麺五分だよ」

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