NTRTA⑨俺は何だかわからないもの全てを背負う
昔から…黒いモヤ…多分、死んだ奴が俺に言う。
―どうすれば良かったのか―
そしていつも俺は言う。だったら別の所でやり直せ、と。
するとモヤは言う。
―何処へ?―
そういう時、俺には門が見える、沢山の。
だからそのどれかに入れば良いと指をさす。
すると、モヤは何れかの門に行き、門の奥にいる人に連れられ何処かへ消える。
子供の時からずっと…意味が分からないまま…繰り返し。
モヤでも知ってるは分かる、知り合い?には言ってやった。
「謝るぐらいなら自殺するなよ」
「お疲れ様、そんだけするならアンタにとって地獄だったんだな」
「もう、同じ目に合わないと良いな」
人の死に、何も思わなくなる。
死んだ時、さら何処に行くか、死んだらどうなるか知ってるからだ。
勿論、自分の死は痛いから嫌だ。
だから俺は、死への反応は薄い。
知らなければ悲しいだろう。
知らなければ辛いだろう。
だけど、知ってるから俺は…
多目的トイレのドアの前、目の前のモヤ…俺の前にいるのは各世だと思う。
そして変なタツさんに連れられた所で見たのが真実なら、各世は勝手に思い込んで、俺を勝手に想像して、俺を壊れてる人にした。
事実俺は、医師にこの話をしたら流され頭の病気扱いだ。
――私も…無太郎も…結局何も見てなかった――
「各世、全部勘違いだ。俺はただ…結婚して…」
幸せになりたかっただけなんだよ…
モヤが揺らいだ。
「ハアアアアアアアアアアッッッッ!!!」
急に散華があの全身タイツ変態キツネマンに変身したと思ったらドアを開けた。
首にロープかかかり、天井からぶら下がってる人…多分…各…あれ?
確かに知ってる人だ…だけど各世じゃない。
糞尿垂れ流しで…だけどこの人は…
「散華の兄さん?」
「そう、私の兄、龍博兄さんだ…兄さんは…自殺しようとする人を見つけては先に死のうとする。なかなかのイケメンだけど頭がね…」
「えぇ?」
頭がイカれてる…先に死のうとする?
「多分、私達の話を聞いたんだろうな、先回りして各世を見つけたんだ。そして先に死のうとする…そう簡単に死ねない人なんだけどな…」
ちょっと良く意味わからないし…とにかくコレ系の人達と血縁になるのか…あれ…じゃあ各世は…?俺の厨二病的勘違いか?
「無太郎の言いたい事は分かる、多分…近くに…ほら、いた」
各世が便器の近くで倒れていた。首に紐の後が付いていて、気絶している。
多分、各世が同じような事をやろうとして、降ろされたのか…
「うーん?まぁほっといたら死ぬレベルだね、よいしょ…」
パチンッパチパチッバチン!
散華が左腕のアームカバーみたいものを触った後、いきなり電気の流れる音がした。
「うわ、コレ結構エネルギー使うな…」
左腕を各世の胸のあたりに当てるとまるでAEDを使ったかのように各世の体が跳ねた。
そして心臓マッサージと人工呼吸を繰り返す散華。
黒いモヤか消えていく…
―最後の最後で、また邪魔されちゃったなぁ…少しでも無太郎の記憶に残ると思ったのに―
「いや、各世。お前は結婚する前に親の気持ちを知るべきだな。おじさんもおばさんも、お前を好きだし、そんな行動…望んでなかったぞ?」
―関係無いじゃない、親は―
「関係あるわアホ、一緒に謝りに来るぐらいだ、死ぬぐらいだったら一緒に飯行ったり親孝行しろよ」
そんな事を言っている間にモヤは消えた。
「良し!心臓が揺いた!もうちょっとだけど…エネルギーが…イヤだなぁ…」
「どうした散華?」
「いや、エネルギーが切れそうで…切れたら感度3000倍地蔵みたいになる…無太郎のキスで回復するが…本当は最後までしなくても回復するが…今
各世の人工呼吸中で、各世とは無太郎の…間接キッスに…ムグゥ゙♥レロレロレロ♥」
人工呼吸中に間接キッスを気にするな、そして最後までしなくて良いって始めて聞いたぞ?いちいち最後までしていた俺の労力を…と、思いながらキスをした。
「ゲボぉ!ゲホゲホ!ゴホォッ!うぅ【パァン!】あうっ!?」
意識を戻した各世に、散華が人工呼吸をやめたと思ったら馬乗りになってビンタした。
「各世!お前、私の言えた事じゃないかも知れないけど!悪いと思ってるなら生きて償え!」
散華が怒っていた、そうだ…一方的に正義を謳う散華。
昔見た各世が約束を破り他の男と歩いているのを一緒に見た時と同じで…
「死んだからなんだってんだ!【パァン!】無太郎を悲しませるな!【パァン!】迷惑なんだよ!こっちはよ!【パァン!】死ぬなら音信不通になってから死ね!【パァン!】これ見よがしに死ぬなんて卑怯者だ!このバカ!【パァン!】無太郎に何も言えなかったこの負け犬!【パァン!】」
往復ビンタしながら説教する散華…俺が黒いモヤ見えて、門に入っていくモヤ達は…大体後悔をしていた。
だから思う、だから言う。後悔するぐらいなら死ぬなよ…と。
死は救い、自死ができた事は幸せであると思えるのは、俺がこんなものが見えているせい…おや?
「無太郎は私を認めてくれた!私が組織から抜け出す儀式に参加してくれる!私より強い無太郎は殺し屋や敵対組織が来ても戦う!無太郎は私が再起不能になっても一緒にいてくれる!私が死んでも友情パワーで蘇生する!無太郎は私のメンタルが昆虫みたいになっても養ってくれる!無太郎は!…」
俺が俺じゃない、バイオレンスな何者かになっていってるが…
「散華、もうよせ…もう…良いんだ」
それ以上喋るな、とは言うまい。
「各世…貴哉の所に案内してくれないか?」
話が進まないからな。違う話になるのはもう嫌だ。
散華がこちらを見て…頷いた。
「無太郎…そうか、分かった…もう良いんだな?」
「あぁ、もう良い…それと定期的にキスするのは嫌だから…変身解くのにキスすりゃ良いんだよな?」
「そうだよ、ん♥【ブゥン】もっと、んん…もっとだよ…もっとぉ♥」
「あ…」
俺は散華にキスをすると変身が解けた…のに腕を回して舌を入れ腰をヘコヘコし始めた…から無理矢理散華を離した。
一瞬、各世が何とも言えない顔をした。
そんな顔、できるんだって感じの悲しい顔。
最初からその気持ちを持てよとは言うまい。
「そうだよね…今更…」
各世は何だか泣いている様に見える…そうだよ、今更だ…
「むたろおおおぉ♥したくなったったよぉおおお♥えっちしたいぃぃぃ♥」
散華が喋ると空気が歪む。
ちょっと静かにして頂きたい。
各世を立たせようとしたら、毒が入ってるかも知れないから私がもつ…と散華に理由のわからない事を言われ、各世の首根っこを掴んで引きずる。
貴哉の病室に着く。
ベッドの上の貴哉は包帯だらけで酸素マスクをして寝ていた。
幼馴染で、友達だった男、気さくな友達だと思っていたら、裏ではまるで別人の様だった男友達の、変わり果てた姿。
まぁ、重症か…かなりの高さの石階段から落ちたっぽいし。
「私も…無太郎から救われて無ければ…こうなっていたのか…」
散華が何か言ったが、俺は何もしてない、目茶苦茶言うな。
普通に生きていればこうはならないけどな。
しかし…意識不明の貴哉を見ても、俺は何も思わない。
ずっと裏切られたからとか、寝取られたからだとか、そんな理由を抜きにしても思わない。
「馬鹿だよね、ドラッグ買うのに結婚詐欺みたいな事してたんだって。そのうちの被害者の一人からだって…貴哉さ…私とはお金の話は無かった…本当に身体だけだったんだよ…」
各世が教えてくれた。
俺だって情はあると思う。だけど何も思わない。
子供の時からの付き合いだ、何か思う所はあると思ったけど。
「うーん…これは流石に…自業自得…かなぁ…これは」
今までの全部が、極端な話…出会った時から全部嘘だったとして…
そんな俺の事抜きにしても、やっていた事が真実なら仕方のない事だから。
「やっぱり…そう思えちゃうんだ。やっぱり無太郎は私達の事…何とも思っていなかったんだね…昔からの、知り合い…というだけ…」
うーん?うーん…散華を見る。
散華に何かあったら…悲しいんだろうか?
いや、そりゃ悲しいよ?
俺が弁当あげなかった時だっけ?
『な、無いなら良いんだ。別にほら、頼んでる訳でも無いから…いつもありがたいと思っているけど…【グウウウウクウウウ】あ…』
仕方ないからコンビニでおにぎりを奢った。
例えばその時…まぁそれも自業自得かも知れんけど、俺に死んだ顔で笑いながら水筒に水を入れて飲むを繰り返す姿に哀れだとは思った。
何となく、コイツ、俺が何とかしないといけないと思った。
何だか各世とか貴哉って、勝手に生きてる感じなんだよな、俺が介入しなくても。
幼馴染という言葉で縛り合うような…そんなもん血で縛るより悪質だよ。
だから…まぁ…終わらせるか。
「どう思っても良いけど…別に絶縁とかもする気は無いけど…お前とはもう結婚しないよ、勿論別れる。幼馴染の感情がどうしたと言うならさ、自殺なんて考えないで貴哉の事、最後まで面倒見ろよ?それでコイツ見捨てたら幼馴染詐欺だ、口だけだからよ」
「そうだね…ごめんね…本当にごめん…今まで…本当に…」
涙を流しながら謝罪する各世…に、何とも思わない。
「こちらこそ、今までありがとうな。それじゃ、元気で。じゃあ」
病室を出て散華に聞く。
「俺っておかしいんかな?」
「何で?」
「いや…何か…さっぱりし過ぎかなって」
普通はもうちょっと何かある様な、各世にも言われたし…
「おかしくないよ?だって泣いてるじゃん、無太郎」
「え?」
頬に、何か伝ってると思ったら…
「あ、ホントだ。ホントだな…」
散華が心配そうな顔でギュっと手を握ってきた。
「無太郎はいつだって、優しいよ」
NTRれそうになった場合には3分以内にしなければならない事がある クマとシオマネキ @akpkumasun
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