第49話

「三波先生のサポート役としてこのクラスの副監督官をすることになりました。原田静香はらだしずかです。普段は一年生を見ているので、三年生の皆さんには馴染みがないと思います。ですが、やるからには皆さんと楽しい時間を過ごしたいと思っていますので気兼ねなく声を掛けてください! よろしくお願いします!」


 緊張しているのか、少し表情の硬い原田先生はクラスメイト達としっかりした挨拶を交わす。

 高校一年生と比べると三年生の子たちは途端に大人びて見える。普段一年生と接している彼女からするとそれなりに違いを感じているのかもしれない。

 

「「「よろしくお願いしまーす!」」」


 生徒たちは可愛らしい雰囲気の原田先生に興味津々なようで、今にも取り囲もうという雰囲気に溢れている。

 このクラスの生徒たちは悪い子ではないのだけれど、教師相手にもかなり押しが強いから念の為に釘を差しておく。


「皆さん、原田先生を困らせてはいけませんよ。くれぐれも強引に連れ回したり、コスプレをさせようだとかしないように」


 吉村さんを含めた数名の生徒はあからさまに私から目をそらす。どうやら心当たりがあるらしい。昨日のことなのだから当然だ。


「それでは皆さん、本日もよろしくお願いします」



 生徒たちの話し声がそこら中から聞こえてくる。

 窓から校庭を見渡すと、多くの生徒たちが何かの看板やら装飾品を作ろうと工具や木材を持ち出して作業をしている。

 耳をすませば子気味良く鋸を引く音や、釘を打ち付ける音が聞こえてきた。

 普段の学校とは全く違う光景。教師という立場でも、彼らがどんなものを作り上げるのか想像すればワクワクして来る。

 

「おやぁ、三波先生お暇ですかー?」


 昨日も似たようなことを似たような声の人に言われてたなぁと思えば、やはり後ろに吉村さんが立っている。

 どうしてこの子はヌルッと私の背後に忍び寄るのだろうか。


「吉村さん……お困りごとですか?」

「はい、手が足りないので手伝ってください」

「確か、そう言ってついさっき原田先生を誘拐してましたよね?」


 ホームルームが終わった途端に私の隣に立っていた原田先生は吉村さんを含む数名の女生徒に連れ去られていった。

 念のために刺して置いた私の釘は何ら効力を発揮しなかったらしい。


「誘拐だなんて心外です。新しい事をする前に、監督官へ指示を仰ぐことは学生として当然のことですよね?」

「……そうですね。ではそちらは原田先生にお任せして私は別の子たちの方を……」

「それだと原田先生の身ぐるみを剝ぐことになってしまいます。困りました」

「なにがどうなってそうなるんですかね?」

「海よりも深く、山よりも高く、三波先生の谷間よりも魅力的な事情がありまして……」


 ダメだ、この口が良く回る少女はどう足掻いても私を逃がしてくれないらしい。


「分かりました……。行きますよ…………」

「わぁ~い、三波先生大好きー!」

「はいはい」


 こうして準備期間の二日目が始まる。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

【悲報】出会い系サイトで教え子を釣ってしまった 真嶋青 @majima_sei

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ