時を経て、少女らは

そしてきっとあざみにも。いつかあざみの実家を訪れ、会ってみたい。

心身ともに疲弊しているであろうあざみは、それでも自分を見つめ前を向いて歩こうとしている。パチンコ屋を解雇された以降の消息が分からないのは不安だが、そのうちきっと奈美に声をかけて、様子を見に行こうと思った。あざみの両親とは挨拶を交わす程度には付き合いもあった。きっと私のことも覚えていてくれると香奈は期待する。


そして帰宅したら夫のパソコンを借用し、知ったつもりでいた拓殖グループについて丁寧に調べようと考えた。ホームページを見れば茜の詳しい仕事ぶりや経歴などが分かるのではと、奈美に打ち明ける。

「止めてよ、ストーカーみたいになるの」

冗談めかした奈美の言葉に思わず吹き出してしまう。

「なるわけないでしょ、何言ってるのよ」


茜と自身を重ね合わせてみる。家庭のこと、仕事のこと。新卒で入行した銀行で出会った2歳年上の夫と結婚し、2回出産し育児が落ち着いたところで、現在は証券会社に派遣社員として勤務している。幸せに違いないが、茜のそれとは大きく趣が異なる。仕事で成功を収め富豪の元に嫁いだ茜の境遇と自分を比較する愚かさを、香奈は理解しているつもりだ。

「あんなにも変わるものなのね」

香奈の呟きに奈美も大きく頷く。奈美はきっと茜のことを指してのことと理解しているのだろうが、香奈の脳裏にあるのは茜とあざみの2人のことだった。

「ね。頃合いを見てあざみの顔も見に行こうよ」

香奈の発言に一瞬戸惑った様子を奈美は見せたが、

「そうだね。心配だもんね」

と応じてくれた。あざみは香奈と奈美に優しかった。変わり果てた姿を見ることを恐れる前に友達として、あざみに向き合いたいと香奈は思った。

あざみが香奈たちを受け容れてくれるかは、別次元の話になってしまうけれど。

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時を経て、少女らは 梅林 冬実 @umemomosakura333

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