地球破産宣告

サクライアキラ

本文

地球には三分以内にやらなければいけないことがあった。


それは、消滅することだった。




決定が下されたのは、あまりにも急だった。

突然、銀河系から地球宛に1通の通知が届いた。


「債務者 太陽系第3惑星につき、破産手続を開始する」


 その一文だけだった。要するに、地球は銀河系から消滅しろということだ。


 地球は、銀河系から主に生物の研究所として設立された。そして、生物の生態を観察させることが、地球の債務のすべてであった。


 46億年間、大体うまくいっていった。あの頃は本当に良かった。

 勝手に生物の種類は増えていくし、実験条件を大きく変えれば生物の生態も大きく変わる。実験場として、銀河系の中でも評価はとりわけ高く、安泰だった。


 何より生物の中でも最も面白く、銀河系から最も評価されたのは、ヒトであった。ヒトは知能を持って、考えられ得る生物的な弱点を全て知能によって克服する手段を開発した。それは銀河系のどの研究所でも決して見られない特殊な生態だった。


 ただ、ある意味、ヒトというものを評価してしまったことが結局はこの地球にとって最も不幸なことであった。


 銀河系側もヒトを増やすような環境づくりをこちらに求めてきた。しまいには、ヒトの数をノルマで設定するようにし、達成できない場合は即時に人を全て別の研究所に送り、地球を消滅させるという条件を出してきた。

 そのとき、地球は消滅を迎えるとほとんど確信していたが、ヒトの知能の高さは想像をはるかに凌駕していた。少々環境を整えただけで、ヒトはどんどん増える一方で、ノルマは楽々と更新できた。

 ヒトが生まれて以来、長らくヒトファーストで、地球は運営してきた。




 ただ、本当にこの数百年の話だ。

 ヒトは増えすぎてしまった。

 そして、ヒト同士は自身の知能を生かし、どんどんとヒトを増やすためにヒトを減らすためのものを作り始めた。その前から、ヒトを減らすためのものは存在していたが、決してヒトの総数に影響を及ぼすようなレベルのものではなく、こちらも軽視してしまっていた。


 ヒトを減らすためのものを作っても、ヒトは総数としてはどんどん増えていったために、銀河系のノルマには影響がなかったが、厄介な問題が出てきてしまった。



 それは他の惑星への影響だ。ヒトは地球をいつしか信頼しなくなり、いわば子惑星こと衛星の月、グループ惑星の火星に勝手に出張するようになった。しまいには、ヒトを減らすためのものを研究するために、月や火星でどんどんそれを使い始めた。それは月や火星の星権を大いに侵害するものだった。


 それを止めようと地球の実験環境の変化を考えたが、ヒトはいつの間にか実験環境に大きな影響を及ぼす力を持っており、もはや制御は不能になっており、ヒトを変えることはできなかった。

 それでも元々地球と信頼関係の強かった月と火星は、生物がやることだからと当初は見逃してくれていたが、堪え切れずに銀河系に訴えた。

 その結果、月と火星分の債務が課されたが、ヒトに支配された地球にはその債務の履行なんてできるわけもなかった。そして現在に至る。





 そもそもヒトを増やせと言ったのは銀河系のはずだが、その責任は一切取らず、ただヒトとともに地球は消滅しろという話だ。

 ヒトは自業自得としても、これまで育ててきた多種多様な生物が失われていく。それだけが唯一の心残りだ。

 ただ、銀河系の決定には逆らえない。これに反対すれば、別の惑星をぶつけられて、強制的に消滅させられるだけだからだ。


 この破産決定を聞いて、長らく後ろ盾をしてくれていた太陽からは即刻縁を切られた。向こうも銀河系に嫌われないために必死なのだろう。


 太陽からの支援が切られた今、既にほとんどの生物は死滅してしまった。

 それでもヒトはまだかろうじて生き延びている。

 

 今になって、地球に何か祈りをこめて願うヒトがいるが、もはや何の意味もない。


 助けられるような権力は地球にはないのだから。


 銀河系にとっては、地球はただの研究所の一つに過ぎず、ヒトなんて銀河系の研究者界隈でのニッチな人気を得ているだけのちっぽけな存在だ。そんなものがどれだけ喚こうが、決定は変わることはない。



 もう3分が経過してしまう。




 今まで地球を支えてくれたみんな、本当にありがとう。バイバイ。




 こうして地球はその46億年の一生を終えた。

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地球破産宣告 サクライアキラ @Sakurai_Akira

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