ザ・ミッション オブ インスタントヌードル

ムタムッタ

覚醒まで、待て



 我々には三分以内にやらなければならないことがあった。




 ガタ、と振動で目覚めるとそこはまだ暗闇だった。揺れるのはいつぶりか……工場から出た後の事は、よく覚えていない。


「今日はぁ、赤いやつぅ~」


 頭に乗った乾燥した油揚げ、四方に散るかまぼこと卵もそしてメインである麺の我々は、外からの声で目が覚めた。


 薄暗い空間の天井が開かれ、光が差し込む。そこにいたのは我々の主であり、神だ。


「カップ麺ってつい食べちゃうんだよねぇ~」


 あぁ、我々を常に食すタイプの神か。

 ありがたいところではあるが、食生活には十二分に注意してほしい。三分ではなく十二分……カップ麺だけに。


 下らないダジャレはともかく。


「各員、用意はいいか?」

「ようやく出番なのね!」

「待ってましたよぉ、ボディに湯が入るのおォ!」

「やっと来たんすね、この黄色い身体を膨らませる時が!」


 そうだ、ようやく訪れた覚醒の時。

 全身に湯が入るその時が、我々の真の姿を見せる最初で最後の時なのだ。


「お邪魔しますわ~」

「おひさ~」


 空から降り注ぐブラウンの雪と、そこに混じる赤い粉。

 忘れてならない我らが同士。否、忘れることなどできない存在。湯に混ざった彼らと一体となることで我々は強力な力を得られるのである。


「おぉ、待っていたぞ」

「お前らがいなきゃ完成体になれねぇよォ!」

「銀のひとは⁉」

「……あの方はもう、使命を終えました」


 彼らを守っていた銀色の騎士は既に役目を全うし、消えていったようだ。長い間我々と共にいたが、最初にいなくなったのは彼か……


「彼の働きを無駄にするな、そろそろ来るぞ!」


 応ッ――全員起きたばかりなのに気合が入っている。

 

 空には大きな空洞が見える。

 空高くそびえる……というより、我々より少し上に位置する穴。主がその穴よりも高いところへ手を伸ばす。


 そして、ようやく天の恵みは現れた。


 迸る水流、身に纏う闘気。

 我々の最期の同志――湯。


「……待たせたな」

「湯!」


 器を満たす彼が、我々を解き解いてゆく。

 粉は解かれ、湯は茶色に染まりながら麺である自分を包み込む。意識は薄れていき、全ての同志と一体となる為にあとは待つのみ。


 完成体になるまで三分……至福の時間――




「じゃあ、いっただきまーす!」



「えッ⁉」


 乱暴に突っ込まれる神の双棒。

 身体は引き裂かれ、柔軟の終わっていない不完全体が空へ引きずり出されてしまい主はバリボリと噛み砕く。


「やっぱカップ麺ってお湯入れたらすぐが一番うまい!」


 あぁなんという暴虐。

 我々の覚醒など必要ないといわんばかりに、神は食事を始めるのだった……


 そんな固い状態よりも、覚醒するまで三分待って!

 その方がおいしいから!!

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