相部屋希望

sorarion914

事故物件

 私には、三分以内にやらなければならないことがあった。


 目の前に横たわる死体を片付け、何事もなかったかのようにふるまう事。

 彼女が帰宅するまであと三分。

 とにかく。考えている暇はない。

 まずはこの、目立つ死体をどこかに隠さなければ。

 幸い出血もなく、床の汚れは気にならない。

 ただ、力を失った人体は想像以上に重く、持ち上げるなど不可能だった。仕方がないので両足を掴んで引きずると、私はそのまま寝室のクローゼットまで行って扉を開けた。

(ひとまずここに……)

 そう思ってクローゼットの中を覗き込んで、私は絶句した。


 ――そこに。

 もう一体、男の死体があった。


「え!?」

 私は混乱した。

 これは一体どういうことだ?

 なぜこんな所に……いや、そもそも、コイツ誰だよ!?

「マジか……」

 私は思わず声に出して言った。焦りで全身から汗が噴き出る。

 腕時計を見て舌打ちした。

 もう二分切っている。早くしなければ――

「クソ!」

 小さなクローゼットは先客で入れず、仕方ないのでさらに隣室のクローゼットまで引きずっていく。予想外のタイムロスだ。

 クローゼットの扉を恐る恐る開けてみた。もしかしたらまた先客がいるのでは……そう思ったが、さすがにここは空いていた。

 私は急いで死体を押し込むと、扉を閉めて大きく息をついた。

 腕時計を見る。

 あと45秒。

 間に合うか?

 大急ぎでリビングに戻り、倒れた椅子を元通りに戻すと、ポケットからハンカチを取り出して周囲をザっと拭いた。

 他にも、気になる所はないかと目視確認するが、その時、無情にも玄関の鍵が開く音がした。

 腕時計をみる。

 三分きっかり。なんて正確な女なのだろう……

 私は額の汗を袖口で拭うと、あたかも、今の今まで優雅にソファで寛いでいたかのようにふるまって見せた。

「やぁ、おかえ――」

 りなさい……そう言いかけて、私は目を見張った。


 入ってきたのは知らない男。

 私を見てギョッとしたように立ちすくんでいる。


 見つめ合う事、数秒。



 私は両足を掴まれ、クローゼットの前まで引きずられていた。

 男が扉を開けて驚いている。

 そりゃそうだ。ここには既に先客がいる。

 慌てて隣室へ向かうが、申し訳ない。そこもすでに入居済みだ。

 男が腕時計を気にしている。焦りが掴まれた両足から伝わってくるようだった。

 男は私を廊下まで引きずりながら、物置に気づいて扉を開けた。

 なんと驚いたことに、そこもすでに埋まっていた。

「マジかよぉ……」

 男が呻き、ふと目についた扉を開く。

 そこはトイレ。

 男は私をそこへ放り込むと、バタンと扉を閉めた。


 よかった。

 ここは空いていたようだ――



 玄関の鍵が開く音がした。

 しばらくすると――何かを引きずる様な物音も。





 ……さて。

 次の入居者は誰であろうか?

 もしかしたら、先程私をここへ案内した彼だろうか?

 幸いここはクローゼットよりも広い。

 もし相部屋となったら……その時は彼に聞いてみよう。




「君は彼女の、何番目の男?――と」





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