インスタント・オトメ・プライド

辺理可付加

サンプンゴ・オヘヤ・クライシス

 幸穂ゆきほには三分以内にやらなければならないことがあった。

 と化した下宿のお掃除である。






 学園祭でサークルの出し物委員になったのが一週間前。

 サークルNo. 1イケメン周防すおう先輩が選ばれたのも一週間前。

 委員会しよう、ってなったのは6日前。

 駅から近いので幸穂の下宿が会場に決まったのも6日前。

 他メンバーが来られなくなったのは4日前。


 幸穂がLINEの通知で目覚めたのが3分前。

 日美ひみの20件を越えるメッセージを無視したのも3分前。

 そこに先輩からの『駅着いたよ』が混ざっているのを確認したのも3分前。

『明日だよねー』が勘違いと気付いたのも3分前ェ!!






 幸穂は部屋を見回す。

 逃げ場のないワンルーム。

 散乱した缶チューハイ。

 机の上のからペヤング。

 山盛り灰皿。

 部屋を圧迫する実家からの仕送り段ボール。

 瀕死で負オーラ放つお花。

 投げ捨てられたレジュメや教科書。

 逆にキチッと本棚に並ぶBL本。



「先輩に幻滅されちゃうぅ〜!!??」



 駅から下宿までは



「3分、3分で決着をつける! デストロイ!!」



 逆境で闘志に輝く彼女の瞳。

 さぁいけ幸穂。戦う乙女は美しい。


 日美には『ほっといて』とだけ返し、まずは段ボール。

 素早く箱型に展開し、


「くらえっ!」


「あとで分別すりゃいい!」とゴミを全投入!

 もう一箱にはレジュメ大量投棄!

 残りにはBL本を♡

 空いた本棚に教科書を詰め込んで賢い女風!


 あとはこれらを隠蔽し床掃除すれば!


「間に合う! 3分間に合う!!」


 勝利が目に見えたその時、



『警察でーす! 開けてくださーい!!』

「へあっ!?」



 ドアが激しく叩かれる。


『幸穂〜! 「ほっといて」ってなんだ〜! 死ぬ気なのか〜!?』

「日美ちゃん!?」


 LINEを散々無視した挙句、あんな返事するから。

 自●すると思われて警察を呼ばれたようだ。


「えっ、えっ、えぇ〜!?」






 結果、幸穂は。

 先輩に汚部屋どころか『警察呼ばれる女』の姿までバッチリ見られ、


「僕、出直した方がいいね。じゃ」

「ああぁぁ〜!!」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

インスタント・オトメ・プライド 辺理可付加 @chitose1129

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ