GO GO 豪天号!

坂本 光陽

GO GO 豪天号!


 国防軍エリートパイロットの僕には三分以内にやらねばならないことがあった。


 東京湾から上陸した大怪獣を倒すこと。国防大臣からの厳命である。

 この国はなぜか怪獣に狙われている。二〇二四年までに二十八体の上陸が確認されており、それに対抗するために開発されたのが、対怪獣有人ロボット兵器,豪天ごうてん号だった。


 全長三十三メートル、体重三万トン。怪獣と組み合ったとしても、決して引けは取らない。この半世紀の間に改良に改良を重ね、僕の乗機は八代目となる。軽量化と機敏な動きは進んだのだが、いかんせん対戦成績はかんばしくない。恥をさらすようだが、二勝十敗六分である。


 原因は明らかだ。稼働時間が三分に限られているからである。銀色の巨人にならったわけではないし、シルエットがカップヌードルの容器に似ているせいでもない。巨大ロボットを動かすため最新技術を駆使した結果が、三分間なのだ。


 ちなみに、当初は機内で原子の炎を燃やす開発案もあったようだが、国内外から核兵器扱いを受けることを懸念けねんして却下されたという。


 豪天号に対する国民の支持率は、わずか二・六%だ。これでは、金食い虫、税金泥棒のそしりを受けても仕方がないだろう。国民の不平不満を一掃するために、国防大臣は絶対に大怪獣を倒せと命じてきたわけである。


 僕は豪天号に共に、運搬車両によって東京へと向かった。大怪獣の攻撃をうけて、すでに都内は火の海である。大怪獣は全長五十メートル、体重五万トン。豪天号よりも二回りは大きい。まずは、遠距離攻撃によって大怪獣の体力をそぐ。


 すでに周辺の被害は甚大なので、躊躇ためらいなくミサイルを発射した。胸部と腹部に狙いを集中させる。ほとんどが命中したのに、大怪獣の進撃はとまらない。速やかに攻撃を第二段階に移行する。


 接近戦、つまり肉弾戦である。豪天号のパンチは十万馬力だが、堅固けんごな表皮のせいだろうか、大怪獣のダメージは見られない。豪天号の被害の方が明らかに大きい。あちこちの装甲を剥がされ、オイルが流血のようにほとばしる。


 残り時間が一分を切った。稼働時間を過ぎると、豪天号は粗大ゴミと化してしまう。莫大な税金に見合う成果が出すために、絶対に敗北は許されない。僕は最終的な決断を下す。長い両腕を使って、大怪獣を抱え込み、そのまま拘束したのだ。


 あとは自爆スイッチを押すだけである。至近距離での爆発は、大怪獣を葬り去るのに充分だろう。拘束をとかれて逃げられるわけにはいかない。脱出ポッドを発射するのは爆発の直前になる。


 暴れる大怪獣に振り回されているうちに、あっという間に残り三十秒だ。僕は自爆スイッチのタイマーをセットして、脱出のタイミングをはかる。残り二十秒、十五秒、十秒。僕は脱出スイッチを押した。


 しかし、システムが作動しない。この期に及んでトラブルらしい。残り八秒でできることなど何もない。大怪獣を道連れにできることが、せめてもの慰めか。


 残り五秒、四秒、三秒、二秒、一秒。


 閃光に飲み込まれた時、になったことを確信した。



                  了






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