掌の小説~異説・廃屋から見つかった文章~

吉太郎

異説・廃屋から見つかった文章

4月10日

 父が死んだ。癌だった。ようやく死んだと思って清清する。もう訳の分からない話を聞かずに済むんだから。


4月11日

 俺は長男だから、戸倉家の諸々の遺産を引き継ぐことになった。

 会社やら預金やら不動産やら、名家なだけにまぁまぁ貰えるな。

 ただ一つ、父が死ぬ間際に建て始めた家がある。なんでわざわざあの歳で家を?というか地図を見る限りかなり山の中にある。つくづく変な人だ。


4月27日

 諸々の手続きを終えて、仕事の暇を見て例の家に行った。

 建設中との事だったけど、もう既に出来上がっていた。恐らくファミリー向けの白い一軒家。ホント、なんでこんな所に家を建てた? 外見だけ確認して帰った。


5月3日

 霊媒師を名乗る怪しい女が家に来た。なんでも生前、父が彼女に例の家のお祓いを頼んでいたらしい。建てたばかりの家を、お祓い? 訳が分からないので父の依頼を断って追い出した。念のため警察にも通報したのでもう家には寄りつかないだろう。


5月4日

 今日は最悪の日だった。

 朝、警察から『女性が貴方の所有する家で死んでいる』と連絡が入った。聞いてみれば例の家が現場らしい。着の身着のまますぐに行ってみると、昨日来た霊媒師が例の家のリビングで首を吊っていた。女は自ら警察に通報した後、首を吊ったのではと警察は言っていた。

 現場のリビングの壁にはベタベタと御札みたいなものが貼られていてとても異様な状態だった。意味の分からない家ではあるが俺が受け継いだ遺産の一部ではある。その新築の家が、土地があの女のせいで曰く付きになってしまった。誰かに貸し出そうと思っていたのに、最悪だ。一体何のためにこんなことを?


5月6日 

 霊媒師の一件の後、俺は例の家を調べることにした。受け継いだ遺産の中で明らかにあの家は異質だ。もし元々曰くのある家もしくは土地なのであれば早々に手放したい。明日実際にあの家を建てたであろう建設会社に連絡を取ってみる。


5月7日

 例の家を建てた建設会社は倒産していた。社長は病死、従業員も散り散りになりどこにいるか分からない。行き詰まった。


5月29日

 父の遺品を漁るが手がかりはなし。周辺に住む人に聞いても何も分からないらしい。何も曰くは無いのか?ただあの女が、父がおかしかっただけ?


6月1日

 ふいに父が話していたことを思い出した。

 父はよく「意味を求めるな」と言っていた。

 それに付け加えて必ず、ある昔話をした。

 『在る山に怪物が居て、戸倉家は代々その怪物にそれらしい意味を付けてやった』と。そして『絶対に意味を途切れさせるな』とも言っていた。

 耳にたこができるほど聞いた父の戯言。どうして今まで忘れていたのか。


6月3日

 やはりあの家には何か居るのだろう。気になる。

 手放すべきか否か、判断しかねている。

 改めて明日、あの家に行ってみよう。俺がどうにかしなければ。


6月4日

 いた


・・・


 月 日

 またあの家で何人か死んだらしい。

 よかったよかっt



 

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