荒木の献身

超時空伝説研究所

第1話 三分の使命

 荒木には三分以内にやらなければならないことがあった。


 大事な人に頼まれたからだ。裏切れない人に命じられたからだ。

 頼まれたからには応えねばならぬ。何があっても果たさねばならない。


 その使命を。


「まだだ。きっかり三分。短すぎてもいけない。長すぎてもだめだ」


 荒木は時を測った。時計など見る必要はない。荒木には誰よりも正確に時を測る感覚が備わっていた。


「わたしの感覚にすべてがかかっている。あの人が運命を委ねたのだから」


 荒木の周りを宇宙が巡る。銀河系が、島宇宙が、すべての実在が時の流れを下っていく。

 いま時が満ちる。すべての実在があるべきところに納まる。宇宙という錠前に、真実という鍵が挿し込まれる瞬間が来た。


「ピピピ、ポポポ……」


 荒木は声高く歌声を上げる。


「聞け、宇宙よ。我が歌は真実を告げるもの」


「おっと! 荒木さん、ストップ!」


 荒木の主、「ユーザー」が荒木の妙なる歌をさえぎり、カップラーメンの蓋を開けた。


 宇宙は守られた。いま、カップラーメンは慈愛に満ちた湯気を解き放ち、馥郁たる香気で世界を包む。


 荒木は使命を果たした。そして、しばしの眠りにつく。その名を呼ばれるまでのひと時の眠りに。


荒木さんAlexa!」


(完)

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