プラットホーム
倉沢トモエ
プラットホーム
わたしには三分以内にやらなければならないことがあった。
「誤解だ」
「通りがかっただけなんだ」
ここは無人駅で、周囲は見渡す限りの水田。
プラットホームにはわたしとこの若者と、倒れて動かないうつぶせの男がいる。小柄で、おそらくまだ三十代。傍らに書類ケースと子供へのお土産らしい紙袋がある。
「うん、わかってる」
「よかった!
じゃ、通報しますね」
「しなくていい」
されては困る。
「え?」
そこで怪訝な顔をされるのも困る。
「さっきしたところだから」
口に出してからこれは悪手だと気づいたが遅かった。
「なあんだ。じゃあ、事情聞かれますよね。俺も待ちます」
待たれては困るんだなあ。
だって、通報してないもの。
「最近、殺人事件このへんであったじゃないですか。まだ捕まってないし、目撃者もいないんですよね。この方もその同じ犯人の被害者なんですかね」
同じ犯人、というのがなかなか鋭い、合ってるなあ、と思ったのだが、それを言うわけにはいかない。
「どこに逃げたんですかねえ」
三分経過すると、まずいんだよなあ。
わたしはスマホでも取り出すふりで、ポケットを探る。
「目撃者がいないのは、わかるような気がするんですよね」
彼の推理も最後まで聞けるかどうか。
「つまり被害者はみんな、目撃者なんですよねえ?」
三分経過して変異が始まった。
「なんだ、あなただったの」
わたしはポケットからオイルライターを取り出す。
「二体食いたい」
若者の口が裂けて、やがて全身が大きな口となった。
汚れた牙がならび、喉らしきところまですべて爛れている。
「なんであなたたち、三分しか擬態が持たないのよ」
狩るのも実は簡単。
オイルライターに着火させて、
投げ込む。
「……あーあ」
無人駅が明るくなったが、それは一瞬。やつらは跡形もなく燃え尽きる。
「完了しました」
スマホで報告すると、わたしの仕事は終わりだ。
「まだ残ってるっていうんだよなあ……」
わたしはプラットホームに残された、たぶんどこかの若いお父さんに手を合わせて、ボスが手配してくれた人たちの到着を待つのだった。
プラットホーム 倉沢トモエ @kisaragi_01
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