全天候型全自動仏教寺院以外全部壊す大仏

狂フラフープ

全天候型全自動仏教寺院以外全部壊す大仏

 ○○には三分以内にやらなければならないことがあった。それは「三匹のおっさんに群がられる」ことであった。

 このお題を達成できなかった場合、全天候型全自動仏教寺院以外全部壊す大仏により、町は永遠に寺町にされてしまう。

 しかし肝心のお題の○○の部分が全てを破壊しながら突き進むバッファローの群れに破壊されてしまったため、いったい誰がおっさんに群がられればいいのかが分からない。それもこれも去年の7つ目のお題「いいわけ」を達成できなかったことに原因がある。

 私が、あれさえ達成できていれば……


「仕方がない。とにかく今は可能な限りスリーマンセルのおっさんを用意して、町の住人に片っ端から群がっていくしかない」


 後悔と共に溜息をつく私を尻目に、公民館に集ったおっさんたちは事態の解決に向けて会議を開いていた。

 そう、誰がおっさんに群がられればいいのかわからないのであれば、町の住民一人一人に群がるしかないのだ。それしかこの町を救う手立てはない。そのときとあるおっさんが手を挙げて言った。


「いや、待て。全てを破壊しながら突き進むバッファローの群れに全天候型全自動仏教寺院以外全部壊す大仏を破壊させればいいのでは?」

「しかし全てを破壊しながら突き進むバッファローは仏教寺院ではないから全天候型全自動仏教寺院以外全部壊す大仏に破壊されてしまうかもしれん」

「全てを破壊しながら突き進むバッファローの群れが居なくなってくれるのであればそれはそれで上出来だ。その後は町の皆で出家して仏の道に生きればいいんだからな。とにかく、おれは行くぞ。全てを破壊しながら突き進むバッファローの群れよ、おれを襲ってくれ」


 そう言い放つと、おっさんは駆けだしていった。そして、先行するふたりのおっさんの背を追って私も全てを破壊しながら突き進むバッファローの群れを三分後に全天候型全自動仏教寺院以外全部壊す大仏が出現する地点へ誘導するために全てを破壊しながら突き進むバッファローの群れの眼前へ飛び出していった。



「ハァ……ハァ……おかしいぞ、とっくに三分経ったはずなのに、全天候型全自動仏教寺院以外全部壊す大仏の出現地点に全天候型全自動仏教寺院以外全部壊す大仏が出現しない」

 息切れと動悸と全てを破壊しながら突き進むバッファローの群れに襲われながら、私は呟いた。


「そうか、わかったぞ……! 三分以内に三匹のおっさんに群がられなければならなかったのは、全てを破壊しながら突き進むバッファローの群れだったんだ……!!」

「なにっ! では問題はもう解決してしまったとういことか!」


 おっさんは喜んでいた。とはいえ、全てを破壊しながら突き進むバッファローの群れは相変わらず健在だ。このままでは全てを破壊しながら突き進むバッファローの群れに三匹のおっさんが破壊されてしまう。それは避けねばならない。


「……おい、全てを破壊しながら突き進むバッファローの群れは何頭だ?」

「急にどうした」

「全てを破壊しながら突き進むバッファローの群れに存在する全てを破壊しながら突き進むバッファローの数がもし偶数であれば、全てを破壊しながら突き進むバッファロー同士を対消滅させるのだ」


 それは荒唐無稽なアイディアだったが、やるしかない。だがおっさんの体力は限界に達しようとしていた。


「これ以上はもう走れない……おれのことは置いていけ」

「冗談はよせおっさん、ここまで一緒に戦った仲じゃないか」


 急に走ったので疲れ果ててへたりこんでしまったおっさんのひとりが、息も絶え絶えになりながら私に言う。その瞳からは、すでに生気が失せようとしていた。


「いいから、行け……もうおれに構うな」


 その時だった。突如目の前がひかり、全天候型全自動仏教寺院以外全部壊す大仏が建立したのは!!

 そう、群がるおっさんが三匹でなくなったことによって、全天候型全自動仏教寺院以外全部壊す大仏の出現条件を満たしたのだ。


 全天候型全自動仏教寺院以外全部壊す大仏がゆっくりと立ち上がる。全天候型全自動仏教寺院以外全部壊す大仏は両足を組んで足裏が見えるよう太ももに乗せた結跏趺坐状態で十五メートルの高さがある。立ち上がれば三十メートル近い巨体である。

 同時に、全天候型全自動仏教寺院以外全部壊す大仏の背後で複雑に組み合わされた三つの後光が回転し、全てを破壊しながら突き進むバッファローの群れに向けて一斉にレーザー光線が発射される!! 

 そう、全天候型全自動仏教寺院以外全部壊す大仏の三つの後光はレーザー光線発射装置であり、三方向から発射されたレーザー光線により、全てを破壊しながら突き進むバッファローの群れは破壊されたのである!!


 かくして全てを破壊しながら突き進むバッファローの群れは血飛沫と土煙の向こうに沈み、全天候型全自動仏教寺院以外全部壊す大仏がゆっくりとこちらを振り返る。


「一難去ってまた一難、って感じだな……」


 全天候型全自動仏教寺院以外全部壊す大仏は仏教寺院以外の全てを破壊対象として認識する。

 全てを破壊しながら突き進むバッファローの群れが破壊された以上は、当然全天候型全自動仏教寺院以外全部壊す大仏は次に三匹のおっさんを破壊対象として認識したのだ。


「落ち着け。まだ道はある」

「まだ道はあるって、この状況から一体どうしろってんだ」


 こちらに向けてゆっくりと歩いてくる全天候型全自動仏教寺院以外全部壊す大仏を見詰めながら私は言う。


「私たち自身が、仏教建築になることだ」


 仏教建築には、人間の身体をその構成要素とするものがある。釈尊、高僧の遺骨、あるいは戦没者の遺体を収め安置した仏舎利塔である。


「おいおい待て、俺たち自身の仏舎利塔だと? そりゃつまり死ねってことじゃねえか!!」

「知らんのか? 人は生きたまま仏舎利塔に収められることもある。そう、即身仏ならな。さあ、誰を埋めるかじゃんけんで決めよう」


 仏の顔も三度まで、という言葉がある。

 その言葉が示すように、全天候型全自動仏教寺院以外全部壊す大仏の判断基準は結構アバウトかつ寛容なものであった。


 たとえ誰を埋めるかでおっさん同士が醜い争いをしていたとしても、それはそれでその位置が仏舎利塔の建立予定地であることに変わりはないので、全天候型全自動仏教寺院以外全部壊す大仏は涅槃仏の如く横臥姿勢を取り、気長におっさんたちの争いを見守ることにした。


 そう。


 我々には、三回以内にやらなければならないことがあるのである。




 おわり

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