土方理の不幸
束白心吏
土方理の不幸話
やらなければなどと言えば重要な、それこそその後の人生に大きな影響を与えることと捉える者もおろう。しかし彼のやらねばならぬことはそんな大層なものでもなければ、今後の人生への影響なんて微々たるもの……もしくはそれ以下の、人によっては価値すら見出だせないことだ。
しかしそんなことでも理にとっては自身の生死よりも重大であり、彼の持つちゃちなプライドの超えてはならないラインだった。
「あと三分で零時……だと!?」
さて、三分以内にやらなければいけないこと、と言ったが、正確には三分以内にやらなければならなくなったことだ。
理はゲーマーである。ソシャゲを愛し、ガチャ運に翻弄される。絵に描いたようなソシャゲユーザーだ。そして同時に学生の身分でもある。
そんな理が三分以内にやらなければならないこと……それはソシャゲのログインであった。
理がコレに気付いたのは日付の変わる三分前。顔も知らない人との対人戦が一段落した時であった。
彼のやっているゲームの中には日付変更と共にログインボーナスが更新されるものも少なくない。日々のログボは学生である理にとっては大事な資源だ。逃すという選択肢はなかった。
理は気づいた瞬間には自然とゲームを終わらせ、流れるように目的のアプリを起動し始めていた。
「(今日更新とかあったっけ? いやない……なくていい!)」
画面を意味もなく連打しながら頭をフルに回転させて、アプリ毎にかかるだろう秒数を計算していく。直感的に全部は無理と察してはいたが、しかしベターは……出来る限りはログインせんとスマホの画面と睨めっこする。
「は、ダウンロードとな? ふぁっきん!」
そう言いながらもダウンロードを開始し、やけに遅く感じるダウンロードの通知バーを睨みつけながら部屋に備え付けられているデジタル時計に目をやる。
23時58分02秒……まだ舞える。まだ舞える! と己を鼓舞して、ダウンロードの終わったスマホ画面を穴をあけんと言わんばかりに連打する。
「はい次ぃ!」
そこから三十秒とせずにログボを受け取った理は、すぐに別のゲームを起動させる。時間はもう一分半もなかった。
すぐにログボを受け取り、最後のアプリを開く。もはや閉じている時間すらもったいない。既に残り時間は一分を切っており、タイトルコールが流れる頃には三十秒も切っていた。
「まだ助かる……まだ助かる……おいそこなダウンロードもはよ終われい!」
もはや時計を見る余裕すらない。一秒でも早く終わることを願いながら画面を睨むこと暫し。遂にロードが終わり、ログインボーナスが受け取られ――
――この時、彼の部屋のデジタル時計は0時00分30秒を指していた。
つまりこのログインボーナスは、今日の日付が変わってからのものである。
「ちくしょおおおおおおぉ!」
理の魂の慟哭が深夜の住宅街に響き渡った。
理由はなんともしょうもないが……そんな指摘はするだけ野暮だろう。
土方理の不幸 束白心吏 @ShiYu050766
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