第四話 へなちょこ
「バレバレだよ。ゆちか最近廊下でキョロキョロしてる。それ、門倉君を探してない? で、門倉君と話してると思ったら、バイバイした後に背中をじっと見てるし」
「うっそ!」
「ホント」
うわー!
うわー!
何だそりゃ!
「門倉君の事好きなの? ぶっちゃけなよ」
「……好きかどうかはわかんね。でも転校は……嫌かも」
「それ本人に言った?」
「言えねえよ。ただの友達だし」
それ言って、何になんだよ。
「何で? 転校は寂しいとか嫌だとか友達だったら普通に言うでしょ? 私はもしゆちかが転校するってなったら泣くよ。駄々こねるよ」
「う」
「今のまま、気持ちを吐き出さないまま門倉君が転校したらゆちか、絶対後悔すると思う」
「……」
さすが、あたしらの御意見番。
こりゃアカン、本気も本気だ。
とはいえ。
「なあ。気合い入れんの今日じゃなくて今度じゃダメか?」
心と体の準備がだな。
「あー………………、別にいいんじゃない?」
「そっか、それなら助かる」
涙目で鼻をかんでる店長さんには悪いけどな。
てか泣くな。
頷くな!
何か恥ずかしいだろ!
「店長さん、今日はすみませんでした」
「さーせんっしたあ!」
「気にしないでいいですよ。準備万端で来てくださいね」
店長さん、ガチでいい人だ。次回、気合い入れに5倍麺チャレンジする時はSpecial動画で時間内に絶対食い切って、ドヤ顔で店を大宣伝させてもらおう。
ま、仕切り直しだな。今日は門倉に言いてえこと、聞きてえことが山ほどあるってのがわかっただけでもありがたい。佳奈に感謝だ。
「さ、帰りまちゅよ? ほら」
……んあ?
何だ?
「何なん、この手とその話し方」
「へなちょこゆちか♪ 手え、繋いであげる」
「……………は?」
「床、油で滑るから気をつけないとダメでちゅよ? アンヨはじょーじゅ、いっちに! いっちにー!」
「!!!」
くっそ煽り入れてきやがった! アヒル
でも。
でも、だ。
佳奈はあたしにそんなことを言いたい訳じゃない。人一倍お人好しで面倒見が良くて優しい佳奈だ。きっと自分もダメージを受けるのをわかっててやってる。
そうまでして、あたしに気合いを入れろってんだな?
「ありゃ? ゆちかたん、どうしたんでちゅかあ?」
きっとお! 心を鬼にしてやってるんだあ……よな? ちょっと楽しそうなのは気のせいだよな?
………………ふう。
ウジウジグダグダと、あたしらしくもねえ。ああ、やったるよ。やったらあ! 気合い入ったぜえ!
「店長さんっ! 5玉ラーメンいっちょくれやあああ!」
「おおっ!」
「あ、私も私もー♪」
「メガマシマシ麺、2つ頂きましたー!」
「「「「応っ!」」」
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