第一話 雨


 今日も雨。

 最近、やたらと雨が多い。


 何かユーウツ。

 雨を見ると、馬鹿みたいにあの日の事を思い出す。




 草むらに隠れてた、びしょ濡れの子猫。やっとの事で捕まえた、びしょ濡れのあたし。傘とタオルをあたしに差し出して、駆けてった門倉かどくら




 あん時の雨は、全然イヤじゃなかった。

 だけど、今日の雨は冷えてしんどい。


 冬の窓側の席。

 寒い。

 季節は選べ。


 よし覚えた。


 暖房と、外の寒さが混じり合う窓際の席。

 気持ちまで冷え込んできそうだ。


 しかも何だかやたらモヤモヤしてるし。

 門倉の転校を知ってからずっとこうだ。

 

 まさかあたし……門倉の転校がそんなにイヤなのか?

 何でだ?


 ホレてんのか?

 いやいやいやいや、ナイナイ。

 ナイナイナイナイ。


 傘とタオル貸してもらって、返しに行った。そっから、廊下ですれ違ったら挨拶をするようになった。


 ナンパ野郎達に絡まれてる所を割って入られた。仔猫とナンパ野郎をネタに、話もするようになった。


 あん時は正直助かった。

 感謝してる。

 

 だけど、そんだけ。あいつはあたしの事を、変わりモンでちょろくせえけどバカ話ができる同高おなこうの女子くらいとしか思ってねえ気がする。何か腹立ってきた。門倉てんめえこの野郎。


 聞いた事ねえけど……アイツ彼女いそうだよな。ちょっと彫りが深くて、大人っぽい低めの声と押しつけがましくない優しさがいいんだよな。んでも笑うと一気に顔が子供っぽくなって……。


 だから何だ、おい。


 誰だよ、暖房の温度上げたのは!

 耳まであっちいわ!


 全く、よ。

 ………………まった、く。

 

「は、あああああああああああぁぁぁぁ……」 

「あん? どしたゆちか悠千花

「何でもねえよ。気にすんな」


 やべ。

 タメ息デカかったか。


「その割にはタメ息すげえな! ……はっは~ん、さては腹減ってんな? 昼メシ、牛屋ぎゅうや行くか! メガマシ食おうぜ!」

「いや、食欲ねえしいいわ。つか、元気のねえ女子に真っ先に牛丼食わせようってその選択、何なん?」


 いや、まあアツシ。元気づけようとしてくれてんのはありがたいけども。


「ゆちかはメシ食えば元気になるじゃねえか」

「そんな時ばっかじゃねえよ! 知れ。女子には女子の悩みってもんがあんだ! ま、気持ちだけ受け取っとくわ。あんがとな」

「ゆちかが食欲ないってのがやべえ。大丈夫か? 変なもん食ったか? 拾い食いとかしたか?」


 何だとテメエ、こんの野郎。

 

「あたしをハトポッポみたいに言うな!」

「似たようなもんだろ、いつも腹空かせてっし」

「似てねえわ! それにメシ食う以外の動画もあげてんだろが! テメエの脳みそはそのピアスくれえしかねえのか! ピアスが本体かよこの銀髪鼻ピ野郎! バーカバーカ!」

「何だと! 食った栄養分全部胸と尻に回してるようなお前に言われたくねーわ、この無駄ハイスペックな金髪ポッポ女! ポッポー! ポッポー!」

「ざっけんなぁ!」


 好き勝手言いやがって!


「はいはーい、盛り上がってるところに悪いけど。私は誰で教室に何をしに来たのでしょう~」


 げ。

 センセ―来ちまったじゃねえか!

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