さいごは、ばくはつ

サカモト

さいごは、ばくはつ

 爆弾処理班に所属する新人の彼には三分以内にやらなければならないことがあった。

 それは六十分後に爆発する予定の時限爆弾の解体処理。

 しかし、彼は処理の何かをまちがえたらしい。

 残りの六十分だった爆発までのカウントダウン表示が、ぴょんと、残り三分になった。

 そして、ときは刻まれてゆく。

 残り、二分五十九秒。

 残り、二分五十八秒。

 残り時間を、淡々と削りゆくデジタル表示のタイマーを眺めながら、彼は考えた。

 とりあえず、先輩に聞いてみよう。

 振り返るとそこに、彼より三年先に同爆弾処理班へ配属された先輩がいた。

 今日は先輩と、ふたりでチームを組んでいる。他の班員は後方支援だった。

 先輩は言う。

「よーし、あと六十分だ、時間にはまだ余裕があるぞ。おい、ルーキー、準備はいいか、今日が爆弾解体の初仕事だろ、油断すんな、勝手に何か触るな」

「あの、先輩」

「なんだ、ルーキー」

「先輩って、有能ですか。爆弾処理班員として」

 残り、二分四十二秒。

「ん、どうした急に」

「いえ………あの、たとば、なんですけど」

「ええ、たとえば? なんだよ、こんにゃろうが、おい、おまえ、いくら、あと六十分もあるからって、無駄話している余裕はねえぞ」

 残り、二分三十六秒。

「どうしても、知りたくって、刹那的に」彼はそういった後、考えて「命を賭ける相手なので」と、付け加えた。

「ああ、んー、なんだよ」

「たとえば、今日の爆弾って、種類的に、先輩なら最速、どれくらいで解体できます………か?」

「えー、あー、そうねえ、さっき見た感じだとー、そうなー………まー、俺くらいのテクニシャンだとー」先輩は天井を見上げ、やがて、彼を見た。「二分半かな、最速解体時間」

 残り、二分二十九秒。

 彼はその回答を聞き、やがて「なるほど」と、いった。

「どうしたんだよ、お前さっきから」

「いえ、先輩、時限爆弾って、いったい、なんなんでしょうかね」感情のコントロールがやや不安定になったのか、まくしたてる。「なんで、その、わざわざ、残り時間のカウントダウンとかの表示くっつけちゃいですかね? 漫画とか映画とかゲームとかの、影響ですかね。もしかして、マジの時限爆弾をつくるとき、みんな、なんとなくカウントダウンのタイマーとか付けてませんか? そこ、ちゃんと、自分の頭でモノ考えてつくってなかったりしませんか、犯人は? テンプレ? テンプレで、タイマーとか付けてませんか? テンプレ人生ニンゲンなんですか?」

 と、いっぱいしゃべる。

「おいおい、落ち着けよ、ルーキー、あ、でもさ、よく考えたら」

「はい」

「今日の爆弾だと、やっぱ、二分きっかりで解体いけるかも」

 見る。

 残り、一分五十九秒。

 残り、一分五十八秒。

「先輩、あの」

「なんだよ、ふたたび」

「先輩、のど渇いてませんか。自分、ジュース買ってきましょうか」

「いや、爆弾解体作戦中に発生すべきカテゴリーの気遣いじゃねえからな、それ」

「そうだ、先輩、お金いりませんか、自分、いまから自分の口座から全財産をおろしに行ってきます、爺さんの遺産が三百万円もらえたんで、まるまる先輩へあげます」

「コワいよ、その謎のすげぇ優しさが」

「はい、自分もコワいです」

「まあな、爆弾解体するんだから、コワくて当然だわな。おっーと、待て待て本部から連絡だ」先輩は通信機を手に取り、会話を始める。

 残り、一分四十秒。

 本部との会話は長引き、残り、三十秒。

 通話が終わり、先輩はいった。

 残り、十秒。

「よし、じゃあ、スタート」

「いえ、いわば、もはや、エンドですね」

「よし、解体終わったぞ、二秒で完了。なんだ、見た目よりかなりイージーだったわ」

「なぅあああああんだそのバカみたいなぁ爆弾わぁあああああああああ!」

 結果、新人の感情が爆発した。

 

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