第12話 愛し子の証拠は飾りじゃない

『さぁ。ここを左に向かって。』


神が、進路変更を促すので、指示に従う。

左の道は、少し傾斜がある道だった。


『よかった。間に合いそうだ。』と、神がつぶやく。

最終到着地点に着いた時、それを理解した。


今いるのは、高い崖の上である。

眼下には、これから魔物の大群が進むであろう平野が見えていた。

ここからなら、俺は魔物に潰される心配はない。

どうやら神は、最初から俺を死なすつもりはなかったようだ。

だから、獣風情になんかやらないって言ってたらしい。


それなら、早く言えよ。

死の恐怖で震えていた時間を返せよ。

本っ..当に、コイツは俺を揶揄うのが好きだなっ!!

全く、..なんだかなぁ....。


やるせない気持ちになって、俺はへこんだ。


『さぁ、これからすぐに魔物の群れがやってくる。君がやることはひとつだ。


“群れのリーダーを見つけ、そいつを操り、進路を変える。”


リーダーは、ダンジョンのボスだ。

そいつが、周りの魔物に影響を与えているから、そいつだけ操ればいいんだ。』


「操る?どうやって?」


簡単に言うけど、それは俺ができることなのか?


『君の右腕のアザは、飾りじゃないんだよ。

知らなかっただろう?これを群れのボスに向かって伸ばし、脳に干渉するんだ。

進路をずらせばいい。進む方向が、見えるはずだからそれをチョイッとずらせばいいんだ。

進行を止めるのは、もっと高度な技になるけど、ずらすだけなら初心者でも簡単に出来る。』


「は?止めることが出来るのか!?

じゃあ、そうすればいいじゃないか。世界中のみんなが助かるじゃないか!

なんで俺に前から教えておかないんだよ。

お前、絶対スタンピードが起きて村を襲うことわかってたよな?」


『そうだね、わかってたよ。

だけど、それは君たちが教えてくださいって、お願いしなかったから言わなかった。

基本私は、見守るだけだ。』


「はぁ。そうだったな、願いがはっきりしてないとダメだったな。めんどくせぇ...。

でも、俺はお前の愛し子なんだろう?

俺のために、力の使い方を教えて、村での俺の価値をあげようとか思わなかったのか?」


『なんでそんなことしないといけないのさ。君が力を使えば、君の体に負担が増える。

君以外のどうでもいい人間のために、私の愛し子の力を使う意味がわからない。』


「でも、俺が村のみんなに残念な目で見られて、傷ついていたの知ってただろう?」


『知ってたよ。でもそれが?

君のことは、世界中の誰よりも価値があると私だけがわかっていればいいじゃないか。

他の人間が、君を軽視していることなんて、私にとっては愚かとしか言いようがない。』


神の顔には、痛ましさなんて全くなかった。

神にとって、俺の悲しみはどうでもいいものらしい。

こころを食べるのに、俺の情緒は関係ないのか...?


「俺の気持ちが荒れることに、不憫には思わないのか?俺は愛し子なんだろう?」


『いろんな感情を君が強く思えば思うほど、光り輝き満足感が得られる。大歓迎さ。

君は、勘違いしてるようだけど、君の悲しみだって、澄んでいて美味しいんだ。

愛し子はね、ただ私のそばにいるだけでいいんだ。』


だんだんわかってきた。

愛し子ってのは、こころの味が神好みのやつで、感情を揺らせば揺らすほど、神のご馳走になるんだ。

なるほど。さっきの村での一連の出来事は、コイツにとって、いい飯だっただろう...。


「ちなみに、俺がこのスタンピードを止めることは出来るのか?」


『君のセンスもあるけど、やろうと思えばできる。でもお勧めしない。

今回のボスは、強い精神支配の能力を持っている。それが、周りの魔物を操って、大行進に至ってる。

その糸を、断ち切るにはかなりの精神力が必要で、多分君の脳の血管2、3本切れるね。

それでも、私がいるから君は死なない。

だけど、しばらく昏睡するだろう。そんな寂しいこと、私がさせるわけないだろう?』


俺が昏睡しちゃえば、コイツの餌(俺の感情)が無くなるもんな。

確かに、それなら俺に教える必要性はないだろう。


つくづく神っていうのは、自分勝手な存在らしい...。



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