第8話 決するじゃんけん。生贄は俺...
ニヤニヤ笑いを止めた神の顔に、俺は違和感を覚えた。
今まで、こんな顔を一度でも見たことがあったか?
いつも俺を揶揄うように笑ってる姿しか見たことがない。
なぜ、今になってこんな真剣な顔で俺を見るんだ。
後ろめたいことなんてないのに、雰囲気に圧倒され後ろに下がりたくなる。
俺の頭の中を覗かれてるような気がして怖くなった。
すると、神が笑った。
わ、笑った!?
しかも、ニヤニヤ笑いじゃなく、ぱぁっと花開くように、嬉しさが隠し切れないような笑みを向けられた。
どうした!?何があった!?
俺の知っているクソ神は、そんな風に笑ったことなんてだろう!?
何、ふつうの神様みたいに笑ってんだ!?
逆に怖ぇよっ!?
心臓が、ぎゅっと掴まれたような気がして、思わず目を逸らしてしまった。
再び神がしゃべりだし、じゃんけんが始まる。
『さぁ。再びじゃんけんだ♡
誰が、私の生贄になるのかさっさと決めてくれ。』
気が付くと、再び神はニヤニヤ笑いに戻っていた。
だが、よく見るとなんとなくソワソワしてるような気もする。気のせいか...?
「じゃーんけーん、ぽっい!!」
今度は、何も考えずに出した。
今まで神の表情を観察していて気付いたが、このクソ神は俺が自分の意志で生贄になると決めるのを、待っていた気がする。
そして、多分それは合っている。
投げやりな気分じゃダメだった。覚悟が必要だった。
だって、今、勝負がついた。
俺の独り勝ちだ。
わー!きゃーっ!と周りは歓喜に沸く。
俺だけが、一人冷静だ。俺だけが、世界から切り離されてるようだ。
そばに村民がいるはずなのに、まるで映像のようで、薄い透明なカーテンが目の前にあるような気がする。
俺の存在が、この場からはじき出されている。
なんだ…ろ、う。俺を、心配してくれる人は一人もいない、のか…。
親も、安堵の表情しか浮かべていない。俺を見ているのに、見ていないんだ…。
今まで村の人たちとは、上手くやってきていた。バカ騒ぎをしたことも、悲しみを共有したことも何度もあって、一緒に涙を流した。
俺は村の一員じゃないなんて疑ったことも無かった。
だが、この歓声の中、ぽつんと立つ俺。
それは、勘違いだったと認めるしかない。
俺は、愛し子で人じゃない、人柱という物体だ。
ふと、気づくと目の前に神がいた。
黙って俺の顔を覗き込んでいた。
再び無の表情で、俺の目を見つめていた。
今度は、恐怖を覚えなかった。
自然にその視線を受け入れる。
「…。」
しばらく、目線を逸らすことなく見つめあっていたが、神に頭をポンポンと撫でられて意識が戻ってきた。周りの歓声が、すぐそばで聞こえはじめた。
神は、一瞬だが慈愛のような笑みをふっと浮かべた。
もう、大丈夫だと言ってくれたようだった。
クソ神のくせに…。
なんだか、胸の内からじわじわと熱がにじみ出てくるような…、嬉しい?ような…気が、する。
ほだされないぞ。ギャップ萌えなんてしないんだからなっ。
いつも、むかつくことばかりして、大っ嫌いなクソ神なんかが、少しまともなことをして、驚いただけだからなっ!!
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます